講演会「自分らしい性を生きる~LGBTIの『私』が命をかける理由~」レポート(後編)

宗教で“同性愛嫌悪”を取り除く――世界はLGBTI差別をどう克服していくか

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宗教で“同性愛嫌悪”を取り除く――世界はLGBTI差別をどう克服していくか
性の矯正を口実に強姦…アフリカ差別実態

講演会の様子

10月17日に、国際人権団体アムネスティ日本の主催によって講演会「自分らしい性を生きる~LGBTIの『私』が命をかける理由~」が実施されました。講演会では、LGBTI(※1)への暴力や差別をなくすために、南アフリカを拠点に活動を続けるファドツァイ・ミュパルツァ氏によって、アフリカのLGBTIたちが直面している同性愛、そして性差別の実態が語られました。

【前編はこちら】「LBGTI同士も対立がある」活動家が語る、アフリカの同性愛と性差別の現状

そのほかにも、講演会ではトランスジェンダーとしての経験をもとに、LGBTの若者支援や自殺予防に取り組む、遠藤まめた氏をファシリテーターに迎え、ファドツァイ氏とのディスカッションが行われました。

(※1)レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーといったセクシュアル・マイノリティの総称「LGBT」に、インターセックス(性染色体や生殖器の形態等が典型的な性別と断定しにくい人)を含めた表現。「LGBT」同様、特定のアイデンティティに限らず性の多様性を示す言葉として用いられる。

アフリカではLGBTIへの憎悪が根強い

世界各国がLGBTIの権利向上へ前進するなか、アフリカでは南アフリカが先陣を切るかたちで、同性愛の非犯罪化を推進する動きがみられています。その一方で、市民の間ではLGBTIに対する憎悪が、依然として根強く残っているとファドツァイ氏は指摘します。

そうしたなか、2011年にはレズビアンであることをカミングアウトし、LGBTIへのヘイトクライム(憎悪犯罪)の被害者の支援やサポートに心血を注いでいたノクソロ・ノグワザ氏が、レズビアンであることを理由に強姦され、殴り殺された挙げ句、排水溝に遺棄されるという衝撃的な事件も発生。当初から、地元警察は捜査に積極的ではなく、現在も調査に進展はみられないといいます。

参考記事:殺されたLGBTI活動家に徹底した捜査を!(アムネスティ日本)

自らの身に危険が及びながらも、LGBTIの人権を守るための活動を続ける理由について、遠藤氏が投げかけた疑問にファドツァイ氏が答えます。

声を上げて、暴力や差別に対抗したい

遠藤まめた氏(以下、遠藤):アフリカでは、34カ国が性自認や同性愛が法律によって犯罪と定められています。実際に起きていることは深刻だと思うのですが、活動のモチベーションはどのように保たれているのでしょうか?

ファドツァイ・ミュパルツァ氏(以下、ファドツァイ):まず、大事にしたいのは、何らかの恐れに直面しているからといって、感覚が麻痺する状況にはしたくないということです。ときに国は、軍隊や法律、警察を使って、私たちの声を上げられないようにします。しかし、声を上げることをやめてしまったら、暴力や嫌がらせ、差別はさらにスケールを増していくことになります。

そのため、私たちは生きるために声を上げ続けているんです。人々の目に触れる存在であり続けることで、差別や暴力が存在するんだということを、知らしめていくことが必要なんだと思います。何かの陰に隠れ、沈黙をしていたくなりますが、それは私たち自身を守ることにはなりません。逆に大きな声を上げることで人が集まりますし、人の数が増えれば自分たちを守ることにつながるのだと思っています。

そういう意味では、恐れがモチベーションになっているといえます。あとは、自由を求める、自治、選択があること、こういったものがすべてモチベーションですし、身近な家族や友人、コミュニティのサポートもモチベーションになっています。

宗教とLGBTIの関係性とは

また、セクシュアル・マイノリティたちが抱える問題について、人の価値観に大きな影響を与える宗教がどのように取り組みを行っているのかについても話が及びました。

遠藤:私はミッションスクールに通っていました。LGBTに対してクリスチャンとして否定的な見方をする教師もいたのですが、なかには人の多様性というのは神からの贈り物だと礼拝で話す教師もいました。アフリカ各国では様々な宗教が信仰されていますが、教会や宗教という面でLGBTに取り組むという動きはありますか?

ファドツァイ:南アフリカは宗教とLGBTIの人権啓発活動が進歩的に関わり合っています。キリスト教の活動家のみならずイスラム教においても、宗教を通して人々の同性愛嫌悪を克服させたという人もいます。また、同性愛嫌悪の根拠とされる聖書の記述(※2)についても、ヘブライ語で書かれた原典を辿り再解釈する研究も進められています。また、南アフリカではLGBTIを受け入れるキリスト教会も増えています。こうしたプロセスは、キリスト教だけではなく、イスラム教を実践している国でもみることができます。コーランについて理解を深めることで、セクシュアリティについての考え方、理解を変えていこうという動きがあります。このように、宗教を通して異性愛ではないセクシュアリティを受け入れようという動きというのは、南アフリカ以外にも広まりをみせていると思います。


(※2)旧約聖書のレビ記18章22節に「あなたは女と寝るように男と寝てはならない」という記述があることから、同性愛を禁じる法整備の根拠とされることがある。

性の矯正を口実に強姦…アフリカ差別実態

同性愛が罰せられる国数などが書かれた会場内のポスター

差別意識は世界中で極端な違いはない

また、講演会を終えた遠藤まめた氏に、LGBTIを取り巻くアフリカの現状や、制度の整備だけでなく市民の間におけるセクシュアル・マイノリティに対する理解が進むために必要だと考えられることについて、話を伺いました。

――本日の講演会では、アフリカで生きるLGBTIの実情が語られましたが、日本や世界とのギャップは感じられますか?

遠藤:アフリカと先進国を比較したときに、先進国が格段に進んでいるとはあまり思いません。たとえば、アメリカでは同性婚が合憲とみなされましたが、ヘイトクライムによる殺人が日常的に起きています。また、アルゼンチンは世界で一番進んでいて、トランスジェンダーのための法律(※3)も整備されていますが、その一方で、トランスジェンダーの活動家が殺された事件もありました。日本では、暴力を受けて殺されるということはあまり起きていませんが、人々のつながりのなかにある差別意識を考えたときに、極端な違いはないように感じています。


(※3)アルゼンチンでは、2012年5月に司法審査を経ずに、性別変更ができる権利を認める「ジェンダー・アイデンティティ法」が可決された。同法では、ジェンダー変更に必要な手術やホルモン治療などの費用を、公的・民間健康保険でカバーすることも定めている。

性の矯正を口実としたレイプ被害

――暴力といえば、ノクソロ氏が殺害された事件をはじめ、性の矯正を口実にレイプが横行していることは見過ごせない事態だと思うのですがいかがでしょうか?

遠藤:確かにアフリカでは、セクシュアル・マイノリティのなかでもレズビアンの女性がレイプのターゲットになりやすいといわれていますが、ほかにも障がいを持つ女性、貧しい女性といったマイノリティの女性も被害に遭っています。そもそもアフリカは、女性のレイプ被害が多いといわれていて、社会問題となっているので被害総数が多いなか、矯正レイプも起きているわけです。逆に、日本ではLGBTの自殺率が高いと指摘する声もありますが、それは日本全体の自殺者の多さに比例するとも取れます。ただ、ひとつ確かに言えるのは、社会が抱える問題というのは、弱者の側に追いやられた人たちに顕著に現れるということです。

――社会全体から個人に視点を落としたときも、LGBTを不快に思ったり、忌み嫌う感情というのは、簡単には払拭されないように思います。その根本を何とかするためには、何が必要だと思われるでしょうか?

遠藤:ニューヨークで同性婚を実現させた人は、「共通言語で話すことが大切」だと言っていました。たとえば、アメリカでは自由であることが大事とされていて、誰もが自由で幸せになる権利があるというのがアメリカの精神基盤です。そうであるならば、同性カップルも同じように、自分の意思で幸せになる自由を追求できる権利があるわけで、それができないのであればアメリカの精神に反する。そう訴えることで、共感を得られるわけです。それは、「自由で幸せになる権利」というのが、共通言語として存在するからなんですよね。また、「キリストはマイノリティのために生きた人じゃないか」といえば理解してくれる人もいます。日本でも同じような共通言語はあると思うので、LGBTの側からも探っていくことで、差別や偏見を乗り越えていけるはずだと思います。

性の矯正を口実に強姦…アフリカ差別実態

遠藤まめたさん

差別や偏見は“遠い国地の出来事”ではない

――まだまだ解決するべき問題は山積していると思いますが、プラス方向の変化を感じられることはありますか?

遠藤:良かったなと思うのは、LGBTに関心を持ってくれる人が増えたことです。これまで、学校で関心を持ってくれる先生は少なかったですけど、最近ではLGBTという言葉を知っているという先生も多くなりました。もっと働きかければ、教育の現場が変化していくのではないかと思っています。

アフリカのセクシュアル・マイノリティが直面する差別や偏見に基づく暴力は、深刻度が高いといえるでしょう。しかし、それは遠い国の出来事ではないはず。たとえば、日本国内の若い世代を対象にしたオンライン調査によると、約7割が小中高でのいじめを経験、また身体的な暴力は2割におよび、3割が自殺を考えたことがあると回答しています。静かな偏見や暴力に苦しむ人が存在することは確かです。困難を乗り越えて戦うファドツァイ氏のような活動家の声を通して世界各国の現状や活動を知ることは、私たちの身近にいるはずのLGBTIの「声」を知ることにつながるのではないでしょうか。

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