ドキュメンタリー「会えるはずなかった 私の子どもへ」レポート

同性カップルの遺伝子で子どもを作ったら――ドキュメンタリーが問う、人間が“命を作る”ことの是非

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同性カップルの遺伝子で子どもを作ったら――ドキュメンタリーが問う、人間が“命を作る”ことの是非

同性カップルの細胞で子どもを作る

ドキュメンタリー番組『NEXT 未来のために』(NHK)にて22 日、「同性カップルの遺伝子を採取し、画像で仮想の子どもを作る」という取り組みが紹介され、フランスにて同性婚をしたタレント・文筆家の牧村朝子さんとその妻・モリガさんが登場した。牧村さんは『百合のリアル』 (星海社新書) などの著書を持ち、『ウートピ』ではモリガさんとの会話形式でLBGTに関する疑問に答える連載を行っている。

番組情報:NEXT 未来のために「会えるはずなかった 私の子どもへ」

「会えるはずなかった 私の子どもへ」と題された同番組は、フランスでの牧村さんとモリガさんの生活を追うところからスタート。レポーターに、フランスへの移住は心細くなかったかと問われた牧村さんは、「ぜんぜん。好きな人と一緒だから」と微笑む。また、牧村さんとモリガさんが自宅のキッチンに立ち「明日、お弁当いらない」「早く言ってよー、にんじん煮ちゃったよ」と話し合う、ふたりの仲睦まじさが感じられるシーンもあった。

iPS細胞で“命を作る”ことが可能に?

今回、同性カップルの遺伝子を解析し、ふたりの間にできる子どもの姿をシミュレーションする「(Im)possible babyプロジェクト」を牧村さんに持ちかけたのは、米国MIT所属のアーティストである、長谷川愛さんとスプツニ子!さんだ。臓器などを作り出せる「iPS細胞」の研究が進めば人の命を作り出すことが可能になるかもしれないことを前提として、スプツニ子!さんは「人間が人間の命を作り出すということの是非は誰も知らない」「アートやデザインの力を使って問題提起し、議論を拡散していこうと考えています」と同プロジェクトの目的を述べた。

同プロジェクトに協力するまでに、牧村さんとモリガさんと話し合いを重ねた。牧村さんは「単純に(自分と妻の)子どもが見てみたい」という素直な思いとともに、人工的に命を作り出すことについて「神の領域だ、自然の摂理に反するって一言で済ませちゃうよりも、もっと具体的で発展性のある議論ができるんじゃないかと思ってる」と語る。一方でモリガさんには「プロジェクトに関わったら、彼女が無性に悲しくなるんじゃないか」という不安があり、何度も確認した末に承諾したことを明かした。

架空の子どもを作るためのプロセスは、まずはふたりの唾液を採取し遺伝子情報を解析、擬似的な受精を行って子どものデータを書き出す――というもの。「胸が大きい」「良い筋肉」などの体つきから、「パクチーが苦手」「楽観的でストレスを感じにくい」という性格までデータとしてあらわれる。さらに、遺伝子情報から顔立ちや髪質などの容姿を作り上げていくことも可能だ。牧村さんとモリガさんがそれぞれ女の子を妊娠するという想定でプロジェクトは進められた。

「好きな人の遺伝子を残したい」

牧村さんは今回のプロジェクトに協力したことを、性別適合手術を受けて女性として生きる友人に打ち明けた。友人は、好きな人との子どもを作ることは性別適合手術を受けた時点で諦めているとしながら、「本当に愛する人ができたら、逆に結婚できなくなっちゃうなと思ってて。自分と結婚したらその人の遺伝子を残す可能性が減るわけじゃん。でもiPS細胞での(生殖)ができるんだったら、価値観すごい変わる」とし、もしも好きな人と自分の細胞が入った子どもができるのであれば「もう何もいらない」と考えを述べた。

一方の牧村さんは、レポーターにモリガさんとの子を作れるようになったらどうするかと問われ、「私は(その選択肢を)選ばないと思います。でもやっぱり、妻と私の間に生まれたかもしれない子どもに、画面上で会えるのは嬉しい」と語った。事情があって好きな人との子どもが作れないという状況は同じでも、受け止め方は人によって違うのだ。

架空の子を見てふたりが思うこと

架空の子どもの顔立ちは、3Dの顔をパソコンのモニターに表示させ、遺伝子と相関関係があるとされる鼻の先端から眼球までの距離などを、人間の目で確認しながら微調整を繰り返していく。遺伝子情報がない顎の輪郭などは、牧村さん・モリガさんの顔の凹凸を採寸し、ふたりの中間の値をとって決められた。

このようにして生み出された作品は、写真集の形でふたりに手渡された。写真は赤子ではなく顔立ちがはっきりとした少女の姿で、牧村さんによって「まめ子」「ぽわ子」と名付けられている。ストレートヘアーの「まめ子」は牧村さんに、髪の毛がパーマがかった「ぽわ子」はモリガさんの特徴を強く受け継いでいるように見える。牧村さんとモリガさんは「かわいい」と感激し、「まめ子」「ぽわ子」の顔からお互いに似ている部分を探しあった。

作品集には、牧村さんとモリガさんの写真に「まめ子」「ぽわ子」を合成した、「擬似家族写真」も収められていた。パクチーを嗅いで顔をしかめる「まめ子」に話しかける牧村さん・モリガさんと、おどけた表情でカメラに向かう「ぽわ子」――牧村さんは写真を見て、「(「まめ子」は)パクチーが食べられない遺伝子を持ってるんですよね」と感じ入ったようにつぶやき、また写真の自分について「ママの顔になったように思える」と感想を述べた。

「まめ子」「ぽわ子」の誕生日を祝っている、という設定の写真もあった。ケーキのロウソクに火をつける「ぽわ子」と、微笑みながらそれを見る牧村さん・モリガさん。牧村さんが口元を抑えて「嬉しいだろうね。自分の子どもの誕生日って……」と涙をにじませると、モリガさんが「(写真のなかのみんなが)仲良くしてくれてるね」と背中をさする。その後、牧村さんはカメラに向かい「本当に大事なものをいただきました」と話した。

最後にレポーターから「もしも倫理的・社会制度的・法的に子どもを“作る”ことができるようになったどうするか」と問われた牧村さんは「お祝いすると思います。すごく『やった』となる人がたくさんいると思う」とコメント。しかし、モリガさんとの架空の子どもを見たあとでも、自分も実際にやりたいと気持ちが変化したわけではなかった。「頭が真っ白になっちゃう。考えるのを拒否してる感じ」とし、モリガさんは「今でも(子どもを)ほしいと思ってない。理由があるわけじゃなくて、気持ちの問題」と述べた。

人が命を作ることの是非

現在、世界中でヒトの生殖細胞を作る研究競争が過熱しており、「2年後には子どもを作ることが技術的に可能になるだろう」と予測する研究者もいる。同番組の撮影中であった7月14日にも、京都大学が「ヒト生殖細胞発生メカニズムを解明する基盤を形成した」と発表した。急速に進む技術を人々はどう受け止めるべきなのか、番組中ではふたりの研究者の意見も取り上げられた。

ひとりは、iPS細胞研究を牽引する京都大学の八代嘉美准教授。八代は、安全性を担保する研究の果てに行われることであれば、iPS細胞などから生殖細胞(精子や卵子)を作っていいはずで、それが同性間で行われることへの違和感はないと持論を展開。また、「いろんな考え方の多様性が担保されて、みんなができるだけ嫌な思いをしないで済む社会になるんだったら、それに越したことはない」と話した。

反対の立場なのは、生命誕生の仕組みを長年研究してきた東京農業大学 応用生物科学部の河野智之教授だ。細胞で臓器を作り出して移植することは本人の意思・責任で行えるためかまわないが、生まれてくる命には意思を問えないことがその理由だという。命が簡単に作れる時代が訪れたとしても、それが幸せかどうかは僕にはわからない、とも話した。

細胞から命を作る――SFのような話が技術的に可能になる未来は、やがて訪れることになりそうだ。それを倫理的にどう受け止めるか、同番組は多くの人にとって考えるきっかけになっただろう。

■関連リンク
同番組はネットでも視聴可能です。
NEXT 未来のために 「会えるはずなかった 私の子どもへ」(NHKオンデマンド)

(佐藤記子)

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