先進国の中では遅れていると言われる日本の性教育。最近では、自主的に性教育に取り組んでいる個人や自治体もクローズアップされているが、皆さんはかつての性教育に意味があったと感じているだろうか。もしあの頃、必要な性知識を身に着けていたら? 大人の今だから思う、女性が思春期に受けておきたかった「性教育」について、複数の女性たちに取材した。今回はその声を3つ紹介する。
身近な男性から性暴力を受ける可能性
望まない性行為を強要されかけた経験をした女性は少なくない。強姦加害者の約8割は知人というデータもある。話を聞いた中では、幸い、深刻な被害に遭ったというケースはなかったが、Aさんは交際前の相手に力づくで迫られ、泣いてやめてくれと頼み込んで難を逃れた。 Bさんは乗り合わせたタクシーで既婚の上司に襲われかけた。 Cさんは、仕事で訪れた部屋で男性の挙動がおかしくなり、裸足のまま窓から逃げ出した。その相手はのちにストーカーとなり、被害届まで提出したそうだ。
もちろん、いたずらに男性への恐怖心を植え付けてはいけないが、被害に遭ってしまってからでは遅い。「警戒心は強い方だった」というBさんは、上記の事件ののち自分をひどく責め、何年も露出の少ないタートルネックばかり着ていたという。Cさんも「もしあのとき暴行されていたら、今の自分はなかったと思う」と語っていたが、一生消えない心の傷を残すこともある。
普通に暮らしていてもこうした目に遭う可能性があること、身を守る態度や術、万が一被害に遭ったらどうすべきか(モーニングピルの存在など)をもっと教えてほしかった、と全員が語っていた。歌手の綾戸智恵さんはレイプされそうになった折、相手に尿をかけて逃げたらしいが、そのような具体例を交えた指導は有効ではないかと考えさせられた。
男女で性行為への意識が違うこと
また、性行為は女性の「心」の側面とも切り離せない。男性は本能的に性衝動に駆られることがある一方で、女性の場合は相手に望まれると「必要とされている」と感じ、性行為を精神的な拠り所にしてしまう人もいる。Dさんも、「断ったらこの人から嫌われるのではないか」という思いから、男性に望まれれば行為を受け入れていた時期があったそうで、のちに心の底から後悔したと語ってくれた。
性行為の重み、依存してしまう可能性、心と身体のつながりなども性教育で大いに指導していい部分かもしれない。女性と男性とでは性行為のとらえ方が違うと男女ともに教えておくことは、悲しい性暴力被害や性行為への依存を防ぐためにはとても大切なことといえるだろう。
感染するまで知らなかった性病の怖さ
最後に性病について。大多数の人は、自分の身に起こってから知る場合がほとんどではないだろうか。Aさんは妊娠中に検診で性病感染を伝えられた。医師は「旦那がどこかでもらってきたのでは」と訊ねたが、夫は断固否定。しかし「胎児の生死に関わるから」と厳しく医師に糾弾されたところ、結局、夫は風俗に通っていたことを告白したそうだ。安易な風俗通いが我が子の健康に影響することもある。
元中学教師のYさんが中学生に性病について伝えたとき、「じゃ、しなきゃいいんでしょ?」「避妊すれば大丈夫なんでしょ?」という意見が多数聞かれたという。性に実感が湧かない年頃だからこそ、不特定多数と繋がることによる性病感染の危険性は早めに教えておくべきだ。
大人になる前の若い世代に伝える
子供たちにただ性に関する「知識」を与えるだけでは、いたずらに興味を持たせてしまい、安易な行為を助長してしまう可能性もあるのが性教育の難しいところ。Yさんも「生徒の性への価値観は本当にさまざまだ」と語っていたが、デリケートな問題でもあるし、画一的に学校で教育するには困難な面もあるだろう。となれば、やはり家庭や第三者機関が果たす役割は大きい。今回挙げたような「大人になってわかったこと」を、できるだけ若い女の子たちに伝えてあげるのも、ひとつの性教育かもしれないと感じた。