人気漫画家・東村アキコの新連載『ヒモザイル』(講談社『モーニング・ツー』連載)が話題になっている。東村さんが雇っているアシスタント男子たちを、立派に磨き上げて、アラサーのキャリアウーマンたちの「ヒモ」に育てようという実録漫画だ。公式サイトにて読めるので、ぜひご覧いただきたい。
同作品について、ネットでは「ヒモではなくパートナーと呼ぶべきでは?」などの批判もあるが、「画期的な連載」と続きを期待する読者も多い。作品の賛否はさておき、ここでは男性を養うことが働く女性にどのようなメリットがあるかを考えてみたい。
『ヒモザイル』に登場するのは、いわゆる“バリキャリ”のアラサーたちだが、筆者のまわりを見渡すと、ごく一般的な収入の女性が男性を養っているケースも実に多く、大抵は幸せそうだ。今回は、実際に高校の非常勤講師の夫と子供を養っている有名企業の女性社員(30代、子ども有り)に、養う側に回ってみて感じるメリットや、良いパートナーの条件、相手選びのコツを訊いてみた。
家事と仕事を両立するなら、養ったほうが楽だった
――そもそもなぜ、養う側に回ることになったのでしょう。
学生時代から付き合っていた夫とは、交際7年目に妊娠が判明したことを機に結婚しました。彼は高校の非常勤講師、私は今の会社に入って5年目。仕事をそれなりにやっていけそうだと判断できたころでした。
彼と私は学生時代に子どもと遊ぶボランティアサークルに入っていたんですけど、彼は子どもの相手がすごくうまかったんですよね。「こういう人と結婚すると、子育てで助けられるだろうな」と感じていて。私はバリキャリと呼べるほど仕事熱心ではないんですが(笑)、完全に家庭に収まるのは性格的にたぶん向いてないし、かといって家事と仕事を両立できるほど器用でもない。一方で彼は収入が安定していないけど、好きな仕事だから辞める気はなさそうで、だったら私が養う側に回ったらお互い都合がいいのかなって。彼は将来的に非常勤講師から正規の教員になれるか微妙なところなので、そういう意味では『ヒモザイル』に登場する男性に状況が似ているかも。
――実際、生活をはじめてみていかがですか。旦那さんは家事に専念しているのでしょうか。
私が仕事で疲れているとケアしてくれるし、家事もまあまあちゃんとやってくれるので、とくに生活上の問題はありません。また、働きがいや責任感が増して、仕事のモチベーションにつながっていると感じます。仕事が忙しくて余裕がなくなったとき、家で夫と子どもが待っていてくれるのは純粋に嬉しい。
相手選びは「いざとなったら稼ぐ」気があるか
――順調な生活がうかがえますが、自分が養う側になる場合、相手選びにポイントはありますか。
最低減の経済力は必要だと思います。うちの場合、夫は教員免許があって予備校や塾講師の経験もあるので、もし私が病気などで働けなくなったら、がんばって稼いできてくれるはず。夫自身も「もしきみが倒れたら、掛け持ちしてでも稼いでくるから」と言っているので。そういう「いざとなったら」という心づもりを互いに共有して、信頼しあえているかは重要だと思います。子どものこともあるので。
ダメなのは、養ってもらっていることに対して卑屈になるタイプ。そういう人って、憂さ晴らしに浮気しちゃうんですよ。知人の夫がそのタイプなんですけど、そういう男性は女性を口説くのがうまいので、お金がなくても愛人が作れるみたいで。良い意味をすれば、本当の意味での「ヒモ」(編集部注:女性に働かせ、金銭を貢がせたり、女性に養われている情夫のこと)として素質があるんでしょうけど、やっぱりガチのヒモはしんどいと思います。
ただ、そういうカップルの場合、男性側に問題もあるのはもちろんですが、妻も夫をケアしてないんですよね。面と向かって夫に「私のほうがずっと年収高いんだから」って言っちゃうとか。当たり前ですけど「誰のおかげでメシが食えると思ってるんだ」みたいな態度で接していたら、パートナーとしてやっていけないのは男も女も同じだと思います。私も、夫や子どもへのケアを忘れないように心がけています。仕事が忙しくて、家に早くに帰れないことも多いですが(笑)。
――最後に、養う側に回るのに向いている職業はありますか?
『ヒモザイル』には東村さんのお友だちのアラサー女性が出てきますよね。漫画家さんのご友人でバリバリ稼ぐ女性と言うと、キー局や大手出版社などマスコミ関係で仕事をしているのかなと推測できる。私の友人にも何人かいますが、「こういう職業の方はヒモと相性がいいかも」と感じますね。いい意味で遊ぶように働いている人が多いし、クリエイターやフリーランスの人と関わることが多いからなのか「働く」ということに関して考え方も柔軟な気がする。将来のことをあまり気にしない脳天気な印象もあるので(笑)、性格的にも合うのかなと。
合わないと感じるのは、外資系コンサルや総合商社でバリバリ働いている、いわゆる真性エリートの人たち。男も女もパートナーに経済力を求めていると感じます。優秀な人ほど計算高く、キャリアを築いてきたことにプライドを持つ一方で、将来に不安を抱いている。あと、何かを犠牲にして仕事に打ち込んで成果を出してきたと考えている人は、性格的にヒモ男を選ばないでしょうね。“だめんず”好きでもない限り、合わないと思います。