『私たちがプロポーズされないのには、101の理由があってだな』(ポプラ社)が文庫化された人気コラムニスト、ジェーン・スーさんと『セーラームーン世代の社会論』(すばる舎リンケージ)の著者・稲田豊史さんによる対談後編。前編では、アラサー女性が「結婚しない/できない」理由や結婚の難しさを語ってもらった。後編では、アラサー男女が関わる難しさや、40代の恋愛模様や独身女性ならではの老後計画について聞いた。
【前編はこちら】結婚は子ども以外にメリットが少ない ジェーン・スー×稲田豊史が語る「アラサー女子論」
アラサー男女はいったん離れたほうがいい
――『私たちが―』で描かれる女性は、経験豊富で“馬力”が強い女性です。男性のほうはいかがでしょう。近年で変化はありますか。
稲田豊史さん(以下、稲田):基本的にはあまり変わっていないように思います。しいて言うなら、20代前半の男性に女子力の高い人が増えたかな、というくらいで。
ジェーン・スーさん(以下、ジェーン):“男は強くなければ”など旧型の男性らしさから解放されるには、もう少し時間がかかりそうですね。
稲田:そうですね。『私たちが―』の中でも指摘されていましたが、男性は教えるのが好きで、心のどこかでは常に「女性の上に立ちたい」という気持ちがある。この性質は昔も今も変わりません。だから、今のアラサー女性と同世代の男性からすると、彼女たちは「何でも知っていて教えることがない」から、近寄りがたく感じるんですよ。ヘタな店に連れてったら徹底的にダメ出しされる。しかもすべてロジカルで的を射ているから、言い返せない(笑)。
それと、今はFacebookなどで彼女たちの食卓や買い物、訪れたお店といった、キラキラした生活ぶりが可視化されていますから、男としては、「もし結婚してもその生活レベルは維持できないな……」と先回りして引いてしまう。情けない話ですが、多くの男性が“まだ世間を知らない若い女性”に惹かれるのは、そういうことじゃないですかね。アラサー女性は舌も目も肥えすぎている(笑)。
仕事相手としては、能力が高く論理的で、よく気がついて……と、彼女たちは文句のつけどころがない。友人としてもすごく面白い。でも生涯のパートナー候補として考えると、ひとりで完成されすぎている人生に見えるから、男の介入する余地がまるでない。
ジェーン:こうやって男性が「仕事相手ならいいけど、パートナーにはちょっと」なんて言うと、「見下せる女がいいってこと?」なんて解釈をされそうですが、そういうことでもなさそうなんですよね。私、42年間の人生で思い知ったことがあって、これは理屈とかを考えずに丸のみしたほうがいいと思うんですけど、多くの男性は好きな女性が喜ぶ顔が見たいんですよ。
稲田:見たい、見たい。とにかく「すごい」と言われたい。だって男の人生の最終目標って「褒められること」ですから(笑)。
ジェーン:だからもう、本当に自分が笑顔で感謝できる相手、嬉しくなることをしてくれる相手を見つけて、それ以外はどうでもいいんじゃないかと。私はアラサーくらいの男女は、いったん離れるのもアリだと思う。女性は社会的経験値で男性を見下しがちだし、男性は「ババア」とか言って失った若さをあげつらってくる傾向にあるじゃないですか。殺し合いになりかねない(笑)。40ぐらいになれば男女ともに落ち着いてきて、男性も及び腰ながらも戻ってきたりするから、距離をとる時期があってもいいと思います。
40代の恋愛は「レジャー感覚」に!?
――ジェーンさんは“未婚のプロ”を自称していらっしゃいますが、結婚に焦らなくなった40代の恋愛はどのような感覚なんでしょう。
ジェーン:未婚のプロと言っても、恋愛をしないわけじゃないんですよ。周囲の同年代の女友だちも交際相手のいる人が多い。だけど、自分の人生を支えていくうえで男性をあんまりアテにしていないというか、言わば「レジャー」ですよね。ライフではなく。
稲田:レジャー(笑)。
ジェーン:前編では「相手のスペックへのゲスな査定を一回脳の外に出してみるといい」と話ましたが、レジャー感覚と思って恋愛をすると、スペックなどを気にしなくていいのがラク。そもそもスペックで相手を査定するなんて、人を人とも思わない、真顔で悩むのが実は恥ずかしい行為じゃないですか(笑)。私も悩んでいた頃は、そのゲスさに気づいていなかったんですけどね。そういうところから離れると、「気が合う」とか、「一緒にいて楽しい」とかで付き合うことができるので楽しいですよ。むしろ以前より相手を尊重できるようになりました(笑)。
女友だちと暮らすという老後の選択肢
――恋愛のレジャー化に、年齢以外の理由はありますか。
ジェーン:経済的な基盤を自分で確立できたことですね。レジャー感覚の恋愛ってつまり、個人の生活は自分ひとりできちんと成り立つってことです。他人に自分の人生を丸投げしないってこと。あと、子供を産む・産まないという年齢はちょっと越えたので、そこも「もういっか」という感じで。だから本当に老後のレジャーですね。次に出す本にも書いたんですけど、友人たちと「団地を1棟借りて、女だけで住もう」みたいな話をしているんです。日本だと経済的に厳しいかもしれないから、みんなでチェンマイに行こうかって。と言っても、そのときのチェンマイの情勢がわからないから、「俺たちのチェンマイ」と言っているんですけど(笑)。なぜ海外かと言うと、老後に医療費も含めて年間500万使うとしたら、65歳から20年生きたとして1億も必要なんですよ。それは無理だからライフサイズを小さくしようと最近は盛んに言われていますが、私たちはそれは絶対に嫌なんです。
稲田:今、語気が強まりましたね(笑)。
ジェーン:はい、絶対に嫌で。というか、できなそう。だから3000万が億になる貨幣価値の国に行こう、という。
稲田:それが今のベストソリューションだと。この計画、最後まで男は一回も登場しないんですね。
ジェーン:連れてきてもいいけど、団地内は男子禁制です。老後まで、好きでもない男に気を遣いたくないから(笑)。
「補い合える相手」を探す
――老後は女友だちと……というお話がありましたが、「それでもやっぱり結婚したい」と思う女性にアドバイスはありますか。
稲田:彼女が結婚相手に適しているかどうかの判別方法として、よく友人に勧めているのが、「彼女とドライブに行って渋滞にはまる」です。ディズニーランドにしろ映画にしろ食事にしろ、人為的にイベントを設定すれば、どんな相手とでもある程度は楽しめちゃうじゃないですか。でも、車に閉じ込められた渋滞中にイベントは起こらない、起こせない。ほとんど景色も変わらないし、予定はどんどん狂っていくし、腹も減ってイライラする。そういう状況でも、密室内で険悪になることなく何時間もすごせるなら、結婚生活もうまくいきますよ。渋滞と同じく、結婚生活における“風景の変わらなさ”“退屈さ”を共有してもストレスにならない相手……というか、ストレスが許容範囲内の相手なら大丈夫。恋愛は「イベント」だけど、結婚は「生活」ですから。
ジェーン:結婚するしないに限らずですが、「自分にないものを補い合えるか」が重要だと思います。私は家事よりも外で働いて稼ぐことのほうが得意なので、家のことをやってくれる男性はウェルカム。
稲田:専業主夫というスタイルはどうでしょう?
ジェーン:ありだと思います。ただ、女性が病気をしたり先に死んだりしたとき、ブランクが長いと就職が難しくなると思うので、週に1、2日、非正規雇用でいいから働いていたほうがいいとは思いますね。
未婚/既婚に問わず一番大事なのは経済力
――地方だと、経済的な理由から結婚が早い女性が多いですよね。
稲田:そうですね。土地柄、親や周囲の圧力が強いというのもあるかもしれませんが、単純に女性一人で食べていくのは困難という背景も大きい。単純に地方は都心ほど女性が稼げる仕事が少ないですよね。
ジェーン:ただ、近年は熟年離婚したあとに貧困に陥ってしまう女性も多いと聞くので、やっぱり経済的にも社会的にも、そして精神的にも、ひとりでも生きていく方法を持っておかないとまずいなと思います。結婚してすぐ旦那さんが病気になっちゃったという人もいるので。そういうものを持っていない女性のほうが結婚しやすいのは間違いないんですけどね。男性がナイト気質になれるので。
稲田:まさに。「俺がいなくちゃ!」という状況になると、馬車馬のように働きますからね、男は。バカだから(笑)。
ジェーン:日本社会はずっとそうやって成り立ってきましたが、それは「男は家族を養ってこそ一人前」という洗脳に男性が騙されてきた結果だと思うんですよね。自分が仕事をして何十万ともらって、でもお小遣いは3万で……というのは、どう考えても厳しい。私、逆をやられたら発狂しますからね。それでも男性たちが「おかしい!」と声を上げてこなかったのは、“養っている家族がいる”ということが彼自身の存在意義になっているからで。
稲田:女性が男をずっと褒め続けていれば、男の洗脳は一生、死ぬまで解けません。ずっと養ってくれます。さっき言ったように、男の最終目標は「褒められること」ですから。双方が納得しているなら、それはそれでいいのかなとも思います。……この対談、結婚に対してすごく後ろ向きの感じになっちゃってる気がしますけど、大丈夫ですか(笑)。
ジェーン:とにかく、経済力を付けて損はないです。「私は女だから、どうせそんなに出世しない」と諦めたり、「いつか結婚するから」と人任せにするのではなく、必要であれば転職や起業も視野に入れて、しっかり稼げる力をつけておいたほうがいい。そうしたら、結婚するにしても未婚を貫くにしても、どうにでもなりますから。
(西田友紀)