公益財団法人「21世紀職業財団」河上隆さんインタビュー(後編)

「中小だから産休なし」は、もはや言い訳 子育てしやすい会社が成長する理由

SHARE Facebook Twitter はてなブックマーク lineで送る
「中小だから産休なし」は、もはや言い訳 子育てしやすい会社が成長する理由

マタハラを考える

様々なハラスメント用語が作られる現在。セクハラやパワハラなどの相談窓口を設けている公益財団法人「21世紀職業財団」の河上隆さんに、現在のハラスメント事情を3回にわたってお伺いする。第1回では「パワーハラスメント」について、第2回では「セクシャルハラスメント」について聞いた。引き続き第3回では、いま最もホットである「マタニティハラスメント」について聞く。

これまでの常識が180度変わる歴史的な判決

――妊娠・出産を理由に解雇や雇い止め、本人の意思に反する降格などの不当な扱いをしたり、自主退職を選択せざるを得ないように仕向ける「マタニティハラスメント」についてはいかがですか?

河上隆さん(以下、河上):労働局に寄せられるハラスメントの相談件数は、2007年をピークにして減少傾向にありましたが、去年になって増加しています。この要因が、マタハラです。

昨年9月に最高裁があるマタハラ案件について新判決をしたことによって相談件数が増加しました。

広島の理学療法士の女性が、「妊娠したので業務を軽減してくれ」と会社に訴えたところ、降格をされたために裁判を起こしました。ちなみに妊婦の業務軽減については「育児休業介護法」で正当な権利として認められています。

一審の広島地裁では「会社の裁量範囲内であり、降格は妊娠や出産を理由にしたものではない」という判決、二審の高裁でも会社側が勝っているんですね。しかし最後の最高裁で、「妊娠や出産を理由とした降格は原則として違法」との画期的な判決が出たんです。

――この判決のどのような点が画期的だったのでしょうか?

河上:いままでは、原則として被害者側がマタハラに遭っていたことを証明しなければいけなかったんですよ。しかし、この判決を機にして、「マタハラではない」ということを、雇用主側が証明しないといけなくなったんです。これまでの常識が180度変わる歴史的な判決です。これで「辞めてくれ」とか「妊婦はいらん」とか、そういうのは社会的な違反として認められたことになります。

――少子化問題の改善とリンクしてますよね。

河上:そうですね。あれだけ安倍政権が“女性の活躍推進”ということを言っているのに、企業側を見てみると、まったくそんなことを言ってないじゃないですか。中小企業の親父たちは「ウチは産休なんかねぇよ」って言うわけですが、それってもう法律違反だからっていう話。そういうのをどんどん変えていかないと本当に女性の活躍する職場なんてできないんです。厚生労働省も、司法も、最高裁がこうした判断を示したというのは非常に大きな起爆剤になると考えているのではないかと思います。

「中小企業だから対策できない」は、もはや言い訳

――しかし、中小企業だったり工務店だったりが産休を出して、賃金を補填するというのは、なかなか難しいという現状もありますよね。

河上:助成も実際にはあります。「小さい会社だからできない」というのは、もはや言い訳なんです。小さなところで勢力的に取り組んでいた会社の方が、社員の定着率が上がったり、地元に密着したりして、業績が上向いたっていう例はいっぱいあるんですよ。

――それは興味深いですね。たとえばどんな例があるのですか?

河上:例えば、松江のあるペンキ屋さんは、男性の職人さんをいっぱい抱えていて、ものすごく過酷な労働なので、職員の定着率が悪いんです。でも、その会社の常務の女性の方が「なんとかしなきゃいけない」と社員にヒアリングをしたんですね。すると、「ウチ、子どもが産まれたんだけどさ、残業がいっぱいあって、子どもを風呂にも入れられなくて、カミさんに怒られているんだ」という愚痴を聞いたそうなんですよ。そこで、時短制度やフレックスなど、その人に合わせてカスタマイズした制度を作ったところ、それが業界で噂になって職人が集まってきたとか。口コミでどんどん広がっていって、会社の規模も大きくなり、クライアントも増える。お金が儲かるからその人たちにもバックできるわけですよ。塗装工の技能検定を積極的に受けさせると、技能も上がっていってクライアントからも評価が高くなる。お給料もあがるので、非常に好循環を生み出すことができる。結果的にこの会社は、全国的に表彰を受けることになりました。

――すばらしい! そういう例がもっと広がればいいですけど。

河上:「金がないから」とか「人がいない」とか、そんなこと言っているから人が集まらないだけであって、誰だって女性も男性も働きやすい会社が良いわけです。意識というのは30年のスパンでしか変わりませんから。地道にそういう事例を増やしていくしかないということなんだと思います。

子育てしたい男性に振りかかる「パタハラ」とは?

マタハラについて

河上隆さん

――世代が変わらないと意識が変わらないのかもしれませんね……。

河上:2年3年くらいまえに、東京大学の男子を100名集めていろんなイベントをやったのですが、「この中で主夫をやりたい人?」って聞いたら8割が手を挙げました。主夫というか、家族というものを非常に重要視しているんですよ。自分が家庭を作ったら、子供にコミットしたい、家事にもコミットしたいと。「イクメン」という言葉がありますが、要は男性も子育てしたいんですよ。子供かわいいから関わりたい。一方で会社に入ったら「戦場放棄だ」とか「奥さんいるだろ?」とかいうボスがいるわけです。これ、「パタニティーハラスメント(パタハラ)」っていうんですけどね。イクメンがハラスメントを受けるということが多々あります。これもマタハラと同様に問題になっている。パタハラとかマタハラを総称してファミリーハラスメントという言葉を使われています。根本を言えば、家族を大事にして何が悪いんだということなんです。

――パタハラという言葉、初めて聞きました。

河上:戦後の日本社会というのは家族を犠牲にして、男性が長時間働きました。そのおかげで高度成長というものはあったんだけれども、もうそういう時代じゃないんですよね。成熟してきた社会で、家族の在り方、働き方というのは変容していく必要があるのではないでしょうか? その中に労働者として女性が参加してくるし、高齢者も参加してくるし、もっと言えばLGBT(性的少数者)みたいな話もありますよ。こういう多種多様な人たちが色んなところで、自分の能力が発揮できるように、どうしたらいいのかを考えましょうというのが、インクルージョンなんだと思います。

先進国の中で遅れをとる日本

――そういう意識とか考えをもった人たちがトップにいればいいんですけどね……。

河上:いま大企業はそういった考え方が必須になっていて、実際に多くの企業が具体的な施策に動かれています。中小企業であっても、例えばアースミュージックエコロジーというブランドを運営するクロスカンパニーは、2時間正社員とか、4時間正社員とかいう販売員を全員正社員化する制度を7、8年前から設けています。8時間正社員に比べてお給料は半分だけど、福利厚生などは全部同じ。いつ産休で抜けて、いつ戻ってきても同じ職場に戻ることができるように制度をつくっているんです。

――日本は先進国にも関わらず、世界的にみてもまだまだという印象です。

河上:女性が声をあげると、人権問題に絡めて、胡散臭さというものが後ろにくっついてくる場合がありますよね。でも、影響力を持っている方が声をあげるのは非常に重要なことで、それが改革につながる可能性もあります。

マタハラに悩む女性への支援に取り組む市民団体「マタハラNet」代表の小酒部さやかさんが、アメリカの国務省から「世界の勇気ある女性賞」の10人に選ばれました。実はこれ、ご本人からすると不名誉な受賞だったそうです。なぜかというと、先進国でこの賞を受賞した人はひとりもいないそうなんですよね。幼児略奪を防止する活動をやっている人など、途上国ばかり。その中に日本のような先進国が入って、その問題がマタハラなんですよ。日本という国は先進国の中でいかにマタハラについて遅れているかということの証明なんです。

(橋本真澄)

この記事を読んだ人におすすめ

この記事を気に入ったらいいね!しよう

「中小だから産休なし」は、もはや言い訳 子育てしやすい会社が成長する理由

関連する記事

編集部オススメ

仕事と恋愛、キャリアとプライベート、有能さと可愛げ……女性が日々求められる、あるいは自分に求めてしまうさまざまな両立。その両立って本当に必要?改めて問い直すキャンペーンが始まります。

後悔のない30代を過ごしたい。ありとあらゆる分野のプロフェッショナルに、40歳から自分史上最高の10年を送るために「30代でやっておくべきこと」を聞いていきます。

記事ランキング
人が回答しています