女性監督はわずか1.9% ハリウッド界で伝統的に続く男女差別の実態

女性監督はわずか1.9% ハリウッド界で伝統的に続く男女差別の実態

ハリウッドの性差別

現実逃避を可能にし、夢の世界に連れて行ってくれるハリウッド映画。しかし、その背景に厳しい「男女差別」が存在することが、現在アメリカで大きな問題になっています。

トップ700本の映画のうち、女性監督はわずか1.9%

今年発表された調査結果によれば、女性は、アメリカで人口の51%を占めているにも関わらず、映画に登場する女性キャラクターの比率は約30%。トップ100の映画のうち、主役または準主役が女性なのはたった21本。さらにはトップ700本の映画のうち、女性監督によるものはたったの1.9%でした。

女優のジュリアン・ムーアは、映画のなかの世界と実生活のなかの女性の存在感の違いについて以下のように述べています。

「脚本のなかに、女性のキャラクターが一人しかいない時があります。でも私の生きている世界はそうではありません。ヨガに行って、女友達とランチして、女性のマネージャーと電話で話して……夫と息子以外に男性に会わない日だってあるのです。それなのに、なぜこんなことが可能なんでしょう?」(ニューヨークタイムスより)

報酬は俳優1ドルに対し、女優はわずか40セント

女優たちも「性的な客体化」と「報酬の不平等」という形の男女差別に苦しんでいます。ハリウッドで20年以上のキャリアを持つ女優ローズ・マックゴワンは、オーディションの際「胸のあいた服を着て、プッシュアップブラを着用せよ」というメモを受け取ったことをTwitterで暴露しました。

この暴露の後、事務所より解雇されてしまった彼女は、女優業の休業を発表。17歳の時には「男性があなたとセックスをしたがれば役を貰えるから、髪を伸ばしなさい」とアドバイスされたと、ハリウッドの体質について回想しています(Entertainment Weeklyより)

報酬にも大きな性差があります。一般的に男性が1ドルの報酬を受けとるのに対し、女性は78セントしか 貰えないというデータがありますが 、ハリウッドでは、この差はさらに大きく、例えば2013年には、アンジェリーナ・ジョリーら、トップ女優の受け取る報酬が俳優の報酬と比べて2.5倍もの差がありました。男性が1ドルに対し、40セントしか受け取っていないことになります。主役級の女優が受け取る利益の分配率が脇役の俳優よりも低かったことは、昨年のソニー・ピクチャーズのハッキング事件でも明らかになりました。2015年『6才のボクが、大人になるまで。』でアカデミー主演女優賞を受賞したパトリシア・アークエットは、スピーチにおいて平等な報酬を要求し、大きな話題を呼びました。

ハリウッドで伝統的に続く男女差別の歴史

ハリウッドの男女差別は、古くから問題視されてきました。1960年には、機会均等雇用委員会がハリウッドの男女差別についてヒアリングを実施し、司法省の介入を求めたことがありました。結果的に差別が認定され、訴訟となりました。

1979年にも「仕事がなさすぎる」と感じた女性監督のビクトリア・ホックバーグらが、全米監督協会と機会均等雇用委員会と組み、主要なスタジオを訴えました。

これらの訴訟の結果、テレビ業界では1980年から1995年までの間、ハリウッドで女性スタッフの占める割合は、0.5%から17%にまで上昇。しかし、映画業界ではこのような大きな変化はみられず、1995年以降20年間はテレビ・映画ともに改善を見せず、現在に至るまで状況は悪くなるばかりなのでした(参考記事)。

今年の5月には、アメリカ自由人権協会が、州及び連邦政府に向けて、「ハリウッドで男女差別という重大な人権侵害が行われているのではないか調査をするように」と呼びかけました。長年に渡ってハリウッドにしつこく残りつづけている男女差別について、再び光があたろうとしているのです。

なぜハリウッドに差別が残るのか?

男女差別に厳しいはずのアメリカ、しかも進んだ印象のあるエンターテイメント業界で、なぜこのような差別的な雇用慣習が残っているのでしょうか?

全米監督協会には、上のような差別訴訟の結果生まれた「多様性に関する規定」があり、プロダクションはマイノリティのスタッフを雇わなければいけないことになっています。しかし、この枠組が「女性・または有色人種」という形で一つのくくりになっているため、多くのスタジオは、有色人種の男性を雇うことで、多様性の枠を満たしてしまうのです。つまり、女性たちと人種的マイノリティー男性が一定枠の職を奪い合うという構図になってしまっているというわけです。

2015年の4月、この問題を解決するために、多様性の枠組を「すべての人種を対象にした女性枠」「性別を問わない有色人種枠」の二つにする、という提案がなされましたが多数決で却下されました。

実際はどうなのか? ハリウッド監督Sさんにインタビュー

ハリウッドで働く女性たちは、どんな思いで日々働き、またこれらの男女差別をめぐる報道を見つめているのでしょうか。今回、匿名を条件に、ハリウッドで長年映画製作に携わっている監督のSさんに話を伺うことができました。

——ハリウッドで実際に差別を受けたことがありますか?

女性監督Sさん(以下、S):罵倒されたり、セクハラされたり……というのは幸運にして経験していませんが、とにかく仕事が取りづらいのは事実です。間接的に「このショーはあなたには向いていないから、もっと“女性向け”のショーを探したら』とか言われることもあります。しかもそういうことを言うのが女性監督だったり、女性プロデューサーだったりするのです。

——女性が女性に、というのは皮肉なものですね。

S:経験のある女性監督と、経験のない男性監督だと、男性の方が雇われてしまうのです。「女性監督を雇いたいけど、女性監督はどこにもいない。もっと多くの女性が映画業界を目指すべきだよ』みたいなことをいう人がいますが、大嘘です。仕事がなくて困っている腕のよい女性監督はたくさんいるのですから。

最近、ハリウッドの男女差別が注目されているのは、とてもよいこと。でも大騒ぎの割には、現実はまだ何も変わっていません。きっと誰かが極端に明らかな差別をして、裁判で負けるとか、何かそういうことがないとダメなのかもしれませんね。

ハリウッドで女性が活躍するためには?

女優ケイト・ブランシェットは女性をとりまくハリウッドの状況についてこのように語ります。

「映画業界には「女性は失敗できない」という感覚があるように思います。男性監督は失敗しても、8〜12ヶ月もすれば、また二度目のチャンスを貰える。女性が監督したということは通常表に出るから、もちろんそのことを祝いたくもあるけど、同時にものすごいプレッシャーなのです。女性が創造的な表現をしようとする勇気がくじかれてしまっているのではないかと思います」(ニューヨークタイムスより)

「女性を雇わない」「一度失敗すれば二度目のチャンスはない」というハリウッドの女性差別の実態。ジュリアン・ムーアは以下のように語っています。

「あなたのお金で『投票』しなさい。もしもあなたが嫌いな映画があるなら、行かないこと、それにお金を払わないことです。が逆に、もし女性たちが作った映画が見たいなら、その映画のチケットを買うこと。それが本当に違いを生むんです。夫にはいつも笑われるんですが、私は、男しか出ない映画は観ないんですよ。そういう映画を観るのは耐えられませんから!」(ニューヨークタイムスより)

普段はなんとなく流行りに乗っかってハリウッド映画を観ている人が多いのではないでしょうか。この機会に、あなたの2000円をつかって男女差別という問題を考えてみてはいかがでしょうか。

(市川ゆう)

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