潔癖症、確認症、ベジタリアンetc……、生きていく上であまりに“NG事項”を抱えすぎている女芸人「すごい論」の岡田萌枝さん。前編に引き続き、話を聞く。
【前編はこちら】可哀想でコアラのマーチが食べられない 日本一生きづらいアラサー女芸人の日常
カバンを持ってトイレに入れない
相方・寺田友葉さん(以下、ともは):デパートのトイレに行くときは、私がカバンを預かっています。
岡田萌枝さん(以下、岡田):カバンを持ってトイレに入ると、そのカバンが汚れた気がして丸ごと捨てたくなるんです。だけど一方で、モノを保存しておかなければいけない、捨ててはいけない、みたいな「保存強迫」というのもあるんです。カバンを捨てたい気持ちと保存しておきたい気持ちが自分の中でぶつかって、ストレスになってしまう。保存に関する話だと、例えば好きな漫画だったら2冊買ったり、壊れたものでもなかなか捨てられなかったりします。
ともは:保存強迫、それは今初めて聞いたわ。
岡田:ただ、それだとキリがないから、壊れたものは心の整理がついたら捨てる、と決めています。
――ともはさんは、岡田さんのあらゆる症状を間近で見ていて驚くことはありますか?
ともは:いやー、そうでもないですね。基本的に人それぞれだと思っているので、相方に限らず、どんな人に会っても、この人はそういう人なんだな、くらいにしか思わないです。
岡田:相方は結構なんでも受け入れてくれるんですよ。
ともは:コアラのマーチを食べられないって初めて聞いたときも、えー、おいしいのになあ。おいしいのにもったいないなあって。
岡田:相方が横にいると、元気でいられます。私が異常に神経質で、相方が全然気にしない、という良いバランスなんです。何も気にしなすぎて潔癖症的に辛い、ってことも過去にはありましたが(笑)。相方は以前、髪がすごく長くて、4年間ずっと美容院に行ってなかったんです。ネタ合わせで床に座っていたときに、その長い髪の毛先が床にくっついて。そのあと、ご飯を食べていて、奥の塩を取ろうとしたともはちゃんの髪の毛が、私のご飯の中に……。あー、さっき床についた髪がご飯に……アー……って(笑)。
ともは:ごめん(笑)。
スクランブルエッグはOK、ゆで卵はNG
岡田:床は基本的には大丈夫なんですが、劇場の床って、汚いトイレに入った足でみんながそこらへんを歩いているような床なんですよ。トイレの影響を感じるので、これはNG。何らかの形で“トイレと関わりがあった”と自分が知ってしまうと、ダメなんです。
――じゃあ例えば、このペンがさっきトイレに置いてあったとして、その事実を知っていたら触れないけど、知らなかったら触れる?
岡田:まさにそうですね。
ともは:結構、自分ルールみたいなもので線引きされているよね。食べ物だと、スクランブルエッグはOKで、ゆで卵がNGとか。
岡田:そうそう。本当は卵も抵抗があるのですが、お肉を食べられない分、人より元気が出づらいので、本能的に体が栄養を欲して、食べられるようになりました。でも、ゆで卵は動物感が強いからダメ。ひよこになるはずだったんだ、と想像してしまう有精卵もダメ。生き物っぽさを感じるからカラザもダメです。スクランブルエッグのような形が崩れているものなら大丈夫。
――ベジタリアンなのはどういった理由からなのでしょう?
岡田:アトピー持ちでもともと動物性のものをあまり食べられないのが一つ。あと、動物が破壊される恐怖も関係していると思います。実は、野菜も自分で育てると生き物だと実感してしまうので、自家菜園とかはできないです。まあ、そもそも野菜が生き物じゃないのか、というとそうではないですが、動物よりは植物のほうが抵抗は少ないです。普通の人も、牛や豚は食べられるけど、人間に遺伝子の近いサルはあまり食べたくないですよね。この感覚と近いのかも。
相方がともはちゃんで良かった
――それにしても、生活する上でNGなことが多すぎますよね。生きづらさを感じることはありますか?
岡田:物心ついたときから強迫性障害を持っているのが当たり前だったから、私にとってはこれが普通ですね。だから、そんなに思い詰めることはないです。強いて言えば、潔癖症や確認症の強迫行動に時間を取られることがなければ、もっと効率よく生活できるんだろうな、とは思います。
あとは、芸人という職業を選んだことに救われている部分も多々あります。お笑いって長所は特技になりますし、短所はいじられどころやネタになる。何でもプラスにできるんです。相方もともはちゃんで良かった。ほかの人だったら、なんだこいつやべえって思われてすぐ解散してたんじゃないかな(苦笑)。
ともは:発想とかが人と違っていて面白いって思っています。
岡田:ともはちゃんは、受け入れようとして頑張って受け入れているわけではなく、自然にスッと受け入れてくれているので、とても気がラクです。こういう病気を持っていると、「このお店大丈夫だったな」とか「握手したら辛いんじゃないかな」とか、変に人に気を遣わせがちですし。
――病気と言うと重い感じがしますが、それを感じさせないくらい自然体でいらっしゃいますね。
岡田:バラエティとかでネタにされることも、全然抵抗がないんです。観てる人が引かないかな、というのだけ少し心配ですが。学生時代は変な人だと思われるかと思って周りにはあまり言っていませんでしたが、こうやってカミングアウトしてみると、周りも理解してくれて逆にラクになったこともたくさんあります。同じ病気を持つ方々に勇気を、というとおこがましいですが、私の存在が世に出ることで、何か少しでも気がラクになる助けになれていたら嬉しいです。
編集協力:プレスラボ