いまやアイドルやミュージシャンからスポーツ、お笑い、アニメなどあらゆるジャンルにまで及んでいる「おっかけ」文化。長年1つのジャンルに夢中な人もいれば、アラサーになって突如おっかけ人生が始まる人も。
『バンギャルちゃんの挑戦』(KADOKAWA)はビジュアル系が大好きなバンギャルがプロレスからKポップ、演歌まで様々なジャンルの現場に足を運び、その感動や興奮をレポートしたコミックエッセイ。気になるけどなかなか聞けない「おっかけ」のことを、著者である蟹めんまさんに聞いてみました。
突然、「今でもビジュアル系好き?」と連絡が
――最近は、アラサーから突如「おっかけ人生」が始まる女性も多いようですが、バンギャル歴の長いめんまさんから見て「突然○○にハマる人」って何か傾向や特徴はありますか?
蟹めんまさん(以下、めんま):みんな何がきっかけでそのジャンルにハマったのか聞くんですけど、こういう人が突如ハマる、という傾向は実はあまりないんですよね。小さいときに「何かに少しハマったかも」くらいの人が多いっていう程度で、学生時代は俳優やバンドなどに夢中だった子が、突然アニメやゲームの2次元界隈に、っていうパターンもありますし、特に何もハマらず学業にいそしんでいた子が突然バンギャルになったりとか。
――そういう「突然おっかけ」タイプの人って何をきっかけにハマり始めるんでしょう?
めんま:きっかけは十人十色過ぎてわかりませんが、周囲におっかけ体質の人がいると知るきっかけは多いだろうし、ハマるスピードも早い気がしますね。おっかけは常に仲間を増やそうとしていますから。ちなみに私もそうやって昔から周囲を巻き込もうと布教してきたんですが、みんなその時はハマってくれず、進学したり、就職して何年か離れ離れになったあとにハマるんですよ。私が布教しているときは全然ハマってくれなくて、むしろ「何それー」って態度なんですけど。
――そういう人はおっかけになってから連絡をくれるんですか?
めんま:突然「めんまちゃん、今でもビジュアル系好き?」って連絡が来るんですよ。「好きだけどなんで?」って聞いたら「実は私も…」 って告白されて、そこから関係が復活するんです。もう何年も会ってなかったのに、今ではライブハウスでしょっちゅう会う、みたいな…。
――まるで、会っていなかったブランクを埋めるかのように。
めんま:大体おっかけの人って、「何をおっかけてたの?」って聞いたら人生の歴史というか浮き沈みがなんとなく分かるんですよ。おっかけたバンドの変遷がバンドA→バンドB→バンドCだとしたら、「バンドAだったら何年に解散してるから、その時はしんどかったね」って共感し合ったり。
女同士って結婚したり、子どもができて境遇が変わっちゃうと共通の話題がなくなったり、疎遠になるってことがあるじゃないですか。でも何かにハマっている人同士だと常に共通の話題があるから、喋りにくくなるってことがあまりないんですよね。もちろんライブやイベントの現場に来る回数は家庭や仕事の環境によって違いますけど「話が合わなくなったな~」ってことが無いと思います。
ミーハーだと思われたくない!「中間層」のジレンマ
――おっかけってお金も時間も体力も必要ですよね。みんないつデートや合コンや婚活やらしてるのか気になりますが、やはり好きなタイプはおっかけしてる対象の人に似たタイプなんでしょうか。
めんま:それは難しい問題ですね。でもおっかけ対象に似た人が合コンとかで目の前に現れたらテンションは間違いなく上がりますね(笑)ただこういうテーマにノリでつい「そうです」と言ってしまうと「おっかけはおっかけ対象と付き合いたいのか」と世間から思われてしまう傾向があるので慎重に答えたいところです。バンドに対して「キャーイケメン!かっこいい!」みたいなノリだと「イケメンの顔目当てで音楽はたいして好きじゃない」と思われたり、プロレスだと「女性ファンはイケメンレスラーの顔が目当てで、試合のことなんて頭にない」とか言われることもあるんです。「イケメン」って本来ほめ言葉なんですけど、おっかけ界隈だと「イケメン」がつくとどうしても軽率な響きになるんですよね。愛で方は人それぞれですけど、ミーハーと言われないために、できるだけ煩悩を周囲に出さずに応援してる人は多いと思います。でも「ミーハーだと思われたくない」って思ってる時点で「ガチ」なんですけどね(笑)
子どもができたら教えたい、「おっかけ胃袋は小さく」!
――演歌の現場では高齢者の「おっかけ」とも出会っていましたよね。「おっかけ」気質って結構遺伝するみたいですが、めんまさんは将来自分にお子さんができたときに、子どももおっかけになると思いますか?
めんま:なりそうですよね。なってもいいと思っています。というのも私自身、おっかけ体験から学んだことがわりと多いと思っているので。色んなことを経験できて良いですよ。私は学生時代帰宅部だったけど、おっかけ活動が部活みたいだったから年上、年下関係なく友達ができました。「ビジュアル系」っていうパイプがなかったら絶対にできなかったことなのでよかったなと思っています。
あとおっかけ活動はチケットとか限定グッズとか数に限りがあるものを手に入れないといけない機会が多いんですけど、お金や行動力が無くても、人間関係や交渉でどうにかなることがわりと多いんですね。どんなに引っ込み思案でも目的を達成するために多少アクティブにならざるをえないので、その辺もいいと思います。
ただ、私は地方出身で、生で好きなものを見るっていう文化もお金もなかったから、バンギャルとしての胃袋、追っかけ胃袋が小さくできてて、少しのエンタメですぐ満足できて燃費がいいんですよ。もし東京で育って若い頃から電車1本でライブハウスに行けるような機会があったらどうなってたか分からないです。だから子どもができたら胃袋は絶対小さく育てたいです(笑)そうでないと本人もなかなか満たされなくて辛いだろうし、何よりお金がもちません。
あと私、中学生のころ親に「椅子ありの大ホールのライブは行ってもいいけど、オールスタンディングのライブハウスは高校生になってから」って言われてたんですね。親は「もみくちゃになったり将棋倒しになったりしたら危ないから」的な理由でライブハウスを禁止してたと思うんですけど、今思うと禁止してくれて本当によかったと思ってるんですよ。
――それは何でですか?
めんま:オールスタンディングのライブっておっかけ対象の人との距離が近すぎるんですよ。今も夢中になると周りが見えなくなるんですけど中学生の頃はもっとヒドかったので「タレントやおっかけの対象はテレビの中の人。世界が違う人。」って思わせておかなきゃ距離感を間違ってしまうかも知れない。おっかけ対象を「近所のかっこいい兄ちゃん」みたいな感覚で愛でると粗相をしやすいんですよ。
――あくまでも「タレントとファン」であるということを理解させる必要があると。
めんま:そうなんですよ。でも若いうちはその分別を付けるのが難しいじゃないですか。私だったら絶対ムリでしたよ。ホールライブクラスの歌手だったら距離もあるし、接触する機会もほぼないですけど、オールスタンディングのライブだと接触イベントも多いし、ついおっかけ対象にフランクすぎる態度をとっちゃったりとか。今ってSNSでタレントと交流できたり、ブログで毎日何をしてるかわかるじゃないですか。下手したらクラスメイトや同僚よりも身近な気がしちゃうんですけど、そうじゃないから。あと自分を覚えてもらいたい気持ちもわかるけどネットに自撮り写真を載せるのもいろんな意味で危ないよって。
――デジタルとの付き合いを方教えることもなりますよね。
めんま:本当にそう。犯罪に巻き込まれる可能性もあるし、ネットに上げちゃうといつまでも残ってしまいますからね。
あともし自分の子供がおっかけ体質になったら絶対叩き込みたいのは語学力と文章力ですね。英語ができれば将来どの国の歌手を好きになっても役立ちますし、文章力があれば自分の「好き」という気持ちをちゃんとファンレターに落とし込むことができますから。私は中高生の頃おっかけに没頭してそこをおろそかにしたために、今本当につらい思いをしています(笑)本当は14歳の自分に「まじめに勉強しろ」と言いに行きたいですけど、そうもいかないので、自分の子供に期待したいと思います(笑)