主夫芸人・中村シュフさんインタビュー(前編)

男が家事をやったら偉いのか? 専業主夫になった芸人が語る、仕事と家庭を両立する難しさ

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男が家事をやったら偉いのか? 専業主夫になった芸人が語る、仕事と家庭を両立する難しさ
主夫芸人が語る仕事と家庭のバランス

中村シュフさん

近年、女性の3人に1人が「専業主婦」を希望しているというデータが出ています。また、女性のみならず男性にも増加しているといわれている「シュフ」願望。これらには長く続く不景気、非正規雇用の増加が関係しているのかもしれません。しかし、「シュフ」って何をしているか知っているでしょうか。

主夫になってはじめてわかった主婦のこと』(猿江商會)には知っているようで知らない、「シュフ」のことが綴られています。「専業主夫」として家庭を守り、またパートの「主夫芸人」として活動する著者の中村シュフさんに「シュフ」になったいきさつを伺いました。

彼女が「家庭に入ってもらえませんか?」って言ってくれた

――まず、最初に専業主夫になった経緯を教えてください。

中村シュフさん(以下、中村):大学で家政学を学んでいて、卒業後、芸人を始めたんですが、ちょうど30歳くらいのときにコンビを解散したんです。それが2度目の解散だったので、「また新たにコンビを組む? しかも30歳から……」という迷いがありました。コンビを解散して、新たに組むって「あの人コンビ組んでくれるかなあ?」って探りを入れたり、断られたらショックを受けるし、OKということになったらそこから呼吸を合わせたり……とすごくしんどい作業なんです。

芸事は好きだけど、就職をするなら今だよな、とハローワークに通っていたときに、駆け出しの頃から付き合っていた彼女が「家庭に入ってもらえませんか?」って言ってくれたんですね。あと「暇だから結婚しちゃえばいいんじゃない?」って。

――暇だから?

中村:芸人って売れている人はもちろん忙しいけど、売れてなくても常に忙しいんですよ。
稽古するし、食っていけないからバイトするし、万が一先輩に呼ばれたときに体空けておかなきゃいけないし、急にオーディションに呼ばれたりするし、もちろんライブにも出るからお付き合いを始めた頃からずっと暇がなくて。

そこでコンビを解散したらスケジュールがやっと白紙になったから、ライブの予定を入れるみたいに「結婚式の予定入れちゃおう」って。「そのまま家庭に入ってくれないか」とプロポーズされました。

結婚する2、3年くらい前から稽古帰りに彼女の部屋に寄ってご飯を作ったり、家のことも手伝うなど「プチ主夫」みたいな状態だったので、抵抗はありませんでしたね。

「男なのに主夫、すごいな」って言われることには違和感

――専業主夫になると決めたとき、周囲はどのようなリアクションでしたか?

中村:両親は芸人をやることに関しても、「人様に迷惑かけることじゃなかったら自分の責任の範囲でやればいいんじゃないか」ってタイプだったので、「専業主夫になって結婚しようと思う」と話したときも怒るとか説得されるではなくて、「結婚できてよかったなー! 芸人としても結果出てないのにいい子がいたなー!」みたいな空気でした。

妻のお母さんは僕のライブに妻と一緒に来てくれたり応援してくれていました。2人の関係も温かく見守っていてくれていました。

――奥様のお父さんには……さすがに反対されたのでは?

中村:妻のお父さんには、大事な娘のことだし殴られるんじゃないか、とか考えていたんですけど「2人がそれで問題がないのであれば、今時はそういうスタイルもアリかもね」と、親族はみな理解あって恵まれていましたね。

僕は男子校出身なんですけど、大学の家政学科を選んだ時点で友達には「お前ならそんな選択もするかもな」って言われてたんです。そこから芸人になったときも同様で、専業主夫になったときも「またお前はそういう選択をしたのか」という反応でした。迷ったら面白い方に進む的な。

――お友達も、専業主夫になること自体に特に疑問は感じていなかったと。

中村:ただ「男なのに主夫やってんだ、すごいな」って言われることには違和感はあります。シュフ業って大変は大変ですけど、男だから大変、女だから大変じゃないってことではないんですよね。でも「家事は女性がやるもの」っていうイメージがあるから「家事やってて偉いなー」とは言われるのかもしれません。

そんなときは「俺に『偉いなー』って言う暇があるなら、その台詞に『ありがとう』を付けて自分の奥さんに伝えなよ」って言ってます。

妻の友達なんかは子連れでうちに遊びに来て、「哺乳瓶を煮沸させて欲しい」って妻に渡しても、妻は哺乳瓶の煮沸の時間なんて知らず、僕に渡してくるので「旦那さんがやってくれていいなー」って言ってます。うちは立場が逆転してるだけなんですけど、僕が両親に「いい子がいてよかったねー」って言われたようにマッチングの問題ですよね。

芸人活動と主夫のバランスで悩む

――現在は「主夫」がメインで、「芸人」がパート、という扱いとのことですね。いまの生活は中村さんにとって理想的なバランスでしょうか?

中村:今は「主夫」として、妻と子どもが楽しく笑顔で過ごしてくれることを第1にしているので、家事に割ける時間や、家族にストレスを与えないバランスでいうと今くらいの仕事の割合がちょうどいいとは思います。でも元は売れようと思って始めた芸人活動だし、今「パート」である部分にどれくらい本腰を入れていいのか、たとえば子連れで活動していいのか? とか模索してる段階です。

元々やっていた芸人活動の一環で、社会と繋がったり、皆さんに喜んでもらえる体験ができるのは自分としては有難いです。ただ、現状フリーでやっているけど今後事務所に入って、レギュラー番組を持とう、そのためにマネージャーつけてもらって広報活動やフェイスブックも……とか、それでうまくいったらいいですけど、それで家庭に負担がかかってしまうのかも、と思うと踏み切れないではいます。

――「シュフ」というキャラクター維持の問題もありますよね。

中村:「中村シュフ」って名前は先輩が呼んでくれたラジオで喋るためにつけてもらった名前で、たまたまそれを聞いてくれた人から取材を受けて……って続いてきているんです。コンビを組んでた時はテレビに出たいとかコンテストで優勝したいって目標があったけど、今は僕自身がこのキャラクターにゴール設定をしてないので、難しいんですよね。芸人活動に重きをおいてしまったら「シュフ」っていう肩書きが本末転倒になってしまいますから。

だけど芸人ってホームランを狙っていてもヒットにしかならない業界ってことも分かってるんです。だから自分が思うような「イイ感じ」の仕事が続くわけないんですよね。フルスウィングしていかないと周りの人にも失礼になっちゃいますし。だからそのバランスでの闘いですね。

――女性が働く上でも共感できる、同じような悩みですね。

中村:女性が大きなプロジェクトを任されて、でも家庭もあって、っていう悩みと同じだと思います。「シュフ」っていうのは家族全体を笑顔にするのが仕事だけど、僕自身も家族の一員だから僕も笑顔に、となると芸人活動の充実も必要で。

家族全員が笑顔で健康でいるためには明日全部のパートを辞める選択肢もあるかもしれないし、子どもがもう少し大きくなって、そのときも仕事のオファーがあれば、またするかもしれないし、あまり固定しないで、その都度場面に応じて流動的に動いていければいいかな、っていう考え方です。

それが一般的だとかそうじゃない、ではなくて家族にとって一番いい選択肢があればそれでいい。僕がめちゃくちゃ売れて奥さんが仕事を辞めるって選択肢もあるかもしれないけど、妻には「私は家事はできないからあなたがすごく売れても家事はやってもらうよ」なんて言われてます。

>>【後編はこちら】「シュフ業」は男性のサバイバル能力を上げる 専業主夫芸人が語る、これからの家族のあり方

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