一時期Twitterなどで、匿名をいいことにバイト先のコンビニや飲食店の冷蔵庫に入ってふざけたりするなどして、“炎上”する事件が取り沙汰されたことは記憶に新しい。その当事者たちは、ネット上で不特定多数のユーザーから本名をはじめとする個人情報を暴露された。
これは実は他人事ではない。たとえ自分のタイムラインが炎上していなくても、もしあなたがTwitterやFacebookなどのSNSを利用しているのならば、いつ個人情報を暴露されるターゲットになるかわからない。ネット上には、そういった個人情報の収集をボランティアで支援するサポーターたちがいるからだ。
掲示板に書き込むだけで情報が集まってくる
ストーカーが、あるネット掲示板に「この子について詳しく教えて」などと書き込む。すると、それを見たサポーターたちはターゲットの情報を集めて無償で提供するのだ。
例えば、あるキャバクラ店の女の子をターゲットにして「新宿の○○店のAさんについて情報を知りたいです」と書き込むと、「Aさんの出身校は○○高校」や「○○というスーパーを利用しています」などの情報が、ストーカー自ら調べなくても集まってくる。
関係性の薄い「友達の友達」から簡単に情報を入手
支援者たちはどうやってターゲットの「秘密」を集めてくるのか。サポーター経験のある多田氏(30代、ライター)が実情を教えてくれた。
「TwitterやFacebook、ブログといったSNSを活用して情報を集めます。SNSだと“友達の友達”伝いでターゲットと繋がることもできるし、メッセージを送ることもできます。ターゲットの友達の友達に対して何通かメッセを飛ばし合ったあとに、『A子って知ってる?』と聞くだけで情報を教えてくれますよ。直接の友達だったら警戒されてダメなんでしょうけど」
本人が知らぬところで安易に個人情報を教えてしまえるような、希薄な人間関係が前提となっている。
狙われるのは、バラされたくない「秘密」を持った人たち
そもそもサポーターたちは、なぜ労力を割いてまでボランティアで情報集めに協力しているのだろうか。その点について多田氏は「別に何が欲しいわけでもないんですけど、掲示板が盛り上がったりすればいいかなって。ゲーム感覚ですよ。あとは、ターゲットの女の子に興味が持てるかですかね。つまらなそうな子だとスルーですよ」と教えてくれた。
彼らがターゲットにする相手は、キャバ嬢、喫茶店や居酒屋の店員、保険の外交員などなど……様々だ。 なかでもサポーターたちに人気があるのは、援助交際をしている女の子や風俗嬢などである。多田氏も「堅い職業の女が実は……みたいになるのが一番楽しい」というように、出会い系サイトやお店の女の子紹介ブログなどの過去の書き込みや数行のプロフィール、写真の背景といったものから女の子たちが決して知られたくないプライベートを解き明かすのだ。
ここで知られた「秘密」は、特に悪用されやすい。彼女たちの多くが家族や友人たちに「仕事」を知られたくないためだ。そんな秘密を手に入れた優越感だけで満足していればいいが、誹謗中傷のメッセージを送りつけたり、ネガティブなコメントをネット上でしたりなど脅迫めいた行動に出ることも十分に想定できるだろう。情報を知った連中が暴走したら……当事者にすればこれほど恐ろしいこともない。
こうしたストーカーたちを支援するサポーターたちの行為は「特定」と呼ばれており、日常的にネットを使用している人にとっては珍しいことではない。しかし、特定行為がネットで行われていることすら知らない人たちが意外に多く、情報の漏洩に対してあまりに無防備な人たちが多いのが実情だ。このような危機意識の低さは、ネット環境が飽和している現代において致命的といえるだろう。ぜひとも注意してもらいたい。
●丸山ゴンザレス(まるやま・ごんざれす)
1977年生まれ、犯罪ジャーナリスト、旅行作家。日雇い派遣労働を続けながら東南アジアやアフリカなどの海外放浪記をまとめた『アジア罰当たり紀行』(彩図社)でデビュー。その後、出版社勤務を経て丸山佑介名義で裏社会や猟奇殺人事件などを追いかけるジャーナリストとして活躍。