『ゆがみちゃん 毒家族からの脱出コミックエッセイ』 作者・原わたさんインタビュー(後編)

毒親とストーカーには共通点がある 漫画『ゆがみちゃん』作者が毒家族から逃げた方法

毒親とストーカーには共通点がある 漫画『ゆがみちゃん』作者が毒家族から逃げた方法
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漫画家が語る、毒親とストーカーの共通点

『ゆがみちゃん 毒家族からの脱出コミックエッセイ』(KADOKAWA)


毒親とは、人格を否定する暴言などによって、子どもに毒のような影響を与える親のこと。この言葉は、アメリカの精神医学者・スーザン・フォワードの著書『毒になる親』から生まれた俗語だ。毒親には分かりやすい特徴があるわけではなく、実は親自身がそのことに気がついていないだけの場合もあると言われている。毒家族から脱走した実体験を描いた漫画『ゆがみちゃん 毒家族からの脱出コミックエッセイ』(KADOKAWA)の著者・原わたさんに、毒親に悩んでいる人はどうすればいいのか、その対処法をうかがった。

原わたさんは、実の父親からの怒り・母親からの罵倒や兄との差別に苦しんだひとり。あることをきっかけに「自分の家族はおかしい」と気づき、父と母、同居していた祖父母と離れたいと考え、家出を決意した。

毒親問題、それ自体は昔から存在していたが、日本で話題になるようになったのはここ数年のこと。最近まで話題に上がらなかったのは、“自分を生み育ててくれた親は正しい”、“親のことを悪く言えない”という考えが浸透しているからだという。毒親育ちの子供たちを救う方法はあるのだろうか。

>>【前編はこちら】親が正しいとは限らない 毒家族に苦しんだ漫画家が『ゆがみちゃん』を描いた理由

自分の親が毒親であることに気付いた時期

――自分の親が毒親であることに気付いていない人もいるかと思います。原さんはいつ頃「自分の親がおかしいのではないか」と気付いたのでしょうか。

原わたさん(以下、原):確実に気付いたのは小学校中学年くらいなんですが、小さい頃から反抗はしていました。反抗というか、子どもが言いがちな、率直な疑問を口に出していたんですね。

うちは祖母や親がカルト宗教を盲信して家族にも強要していたので、「宗教を信じていれば幸せっていうけど、うちは幸せじゃないじゃん」という疑問をぶつけたことがあります。それに対して親からは「幸せじゃないのはお前が悪いからだ!」なんて言われるので、「ああ、私が悪いのかなぁ」と思っていたんです。でも叔母さんの家に行くと「お前はできる子だよ」と言われるので、「親が言っていることと違っておかしいなぁ」と。また、学校の友達は、うちみたいに宗教を信じていないけれども幸せそうに暮らしている。そういったことからもおかしいと気付きました。

話しても分からない相手がたまたま親だった

――宗教といった要因があると、さらに他の家と自分の家は違うと感じそうですよね。一人暮らしを始める際は家出のような形ですが、それまでも家を出たいと言ったことはあるんですか?

原:専門学校に入るときも「家を出たい」と何回か言ったんですが、「女が一人暮らしをするのは許さない」とか言われてしまって。子どもの自立心というか…、意思も人格も否定されるので、何を言っても意味がないんだと気付きました。だからもう諦めて家出のような形で家を出たんです。

親が私の人格を否定するので、私はそれを「無視」をするしかなかったんです。「親子ならきちんと話せば分かる」と言う人がいますが、世の中には話しても分からない人っているじゃないですか。私の場合、その相手がたまたま親だったんです。

――親に職場がバレ、職場にまで電話がかかってくるようになったため、何度か転職されていますよね。漫画を読む限り、職場の人に対してとても人付き合いが良いように思えます。「毒親」と何か関係があるのでしょうか?

原:人付き合いが良いわけではありません。私が働いた職場は零細企業ばかりでしたが、そういう小規模な職場のトップは我が強く圧倒的パワーがある人が多いというか……主従関係が毒親と似ているんです。私は毒親によって「察する力」が身についていて、たとえば上司が何か探していると「これですよね?」とさっと持っていく、といったフォローが素早くできたんです。気に入られたくてそうしているわけではなく、相手の言外の要求を察する能力が、体に染みついていたんでしょうね。そういうことの積み重ねで好かれたというか、うまく使われていたというか。でもこれは対等な人間関係ではないので、不健全かなと思います。本人がイヤじゃないなら、話は別ですけど。

毒親もストーカーも主観しか持っておらず、そういう人は世間が放置する

――一人暮らし中やご結婚されてからも、しつこくご両親から電話攻撃がくるのに携帯の電話番号を変えなかったことに関し、番号を変えたせいで相手が逆上して殺害されたストーカー事件と関連づけていますが、毒親とストーカーの共通点はどこだと思いますか?

原:毒親もストーカーも、主観しかないんですよ。客観的に自分を見られないし、相手の立場を考えられない。被害者が何を言っても聞く耳を持たない。そういう何を言ってもダメな人って、世間は放置するじゃないですか。関わるとめんどうくさいから。私は世間の無関心と加害者の放置が、新たな被害者を生んでると思うんですよ。「あなた間違っているよ」と、多くの人から言われると間違っていることに気付けるかもしれないけど、放置しているとやがて、加害者が有利な社会が形成されてしまう。

漫画家が語る、毒親とストーカーの共通点

『ゆがみちゃん 毒家族からの脱出コミックエッセイ』(KADOKAWA)

毒親から逃げ切りたいなら、頼れる場所をつくって閉じこもらないようにする

――毒親に悩んでいる人に、何かアドバイスをお願いします。

原:逃げ切るつもりなら、個人情報を漏洩させないことでしょうか。住民票や戸籍の附票の写しは、家族であっても閲覧制限がかけられます。他に考えられる手立てとしては、実家にいる頃に使っていたサービスを新しい環境には持ち込まないこと。例えば銀行口座やポイントカードの住所を新しい住所や電話番号に変更してしまうと、家族であればそこから現住所をたどれてしまう可能性もあります。

未成年の方だと、バイトをして貯めたお金を地元の銀行口座に入れているかもしれません。でも、家から逃げて一人暮らしを始めたら、新たに別の銀行口座を作ってお金を移して、昔の口座はそのまま放置した方が無難かもしれません。ただひとつ心配なのは、そこまで徹底しても来年から開始されるマイナンバー制度(社会保障、税、災害対策の分野で効率的に情報を管理し、各機関間での情報連携を可能とするため、1人ひとりに固有の番号を付す制度)によって、毒親から逃げ切ることが今より困難にならないかどうかです。

あとは、なんでもいいので頼れる場所を探したり、周囲とのつながりを絶たないでおくことも大切だと思います。リアルの友達でもいいし、ネット上でもいい。逃げ場がないと閉じこもってしまうので、逃げ道をひとつでもつくっておくと後でそれが良い方向につながっていくかもしれません。

漫画家が語る、毒親とストーカーの共通点

『ゆがみちゃん 毒家族からの脱出コミックエッセイ』(KADOKAWA)

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