
©まずりん/講談社
不思議なモチーフのアラサー女性たちを主人公にした「独身OLのすべて」。不思議なモチーフを主人公にした理由は「人間を描くのが苦手だから。自分で作ったキャラクターなら、関節がなくても頭から腕が生えていても大きさが変わっても不自然じゃないから」(まずりんさん)とのこと。
ネット上に公開したまんが『独身OLのすべて』が大ブレイクしたまずりんさん。現在は『モーニング・アフタヌーン・イブニング合同サイト「モアイ」』で隔週連載を持つなど、ウェブで活躍するまんが家の一人です。デビューまではごく普通の会社員だったと語るまずりんさんに、「ウェブのまんが家」の実情について伺いました。
【前編はコチラ】まんが家・まずりんさんインタビュー アラサー女性の毒を痛快に描写する『独身OLのすべて』誕生秘話(前編)
まんが界にできた新たなジャンル「ウェブのまんが家」について
――ウェブで活躍するまんが家さんは、これからもさらに増えそうです。どんなときにウェブを中心に活躍するまんが家でよかったと感じますか?
まずりんさん(以下、まずりん):雑誌を購入して読むというハードルがない分、多くの人に読んでもらえる機会があることと、反響をすぐに感じられることですね。
――ちなみに、まずりんさんの周囲には、同じようにウェブで活躍する女性のまんが家さんはいらっしゃるのでしょうか?
まずりん:ウェブで活躍する女性のまんが家さんは結構いらっしゃいます。「オモコロ」に関してだと、男性ライターのほうが多いですね。下ネタが多いからかな?
――ウェブと紙面のまんがでは、作り手の感覚としてどんなところが違うのですか?
まずりん:一番違うのは、コマ数を自由に設定できる点です。『独身OLのすべて』は縦にスクロールする形式なので、私が描きたいと思った分だけ追加しています。当初は1本あたり4コマで作る予定だったんですけど、今は20コマとかありますからね。大変ではありますが、作りたいものを制限なく作れるのがウェブの特徴だと思います。
ただ、ひとつ……。おかげさまで3月に単行本が出ることになったんですが、紙面掲載を全く考えていない作り方をしていたため、デザイナーさんがレイアウトに大変苦労されたようです。今になって、「あ~自由にやりすぎて申し訳ないことになってしまったな」と感じています。
現役デザイナーだからこそ感じる違和感も
――まずりんさんは現役デザイナーとして活動されていますが、デザイナーという立場から見て、ウェブのまんが家は大変だと思うことはありますか?
まずりん:最近多くのウェブサイトが乱立していて、ウェブ掲載のマンガの単価が下がっていることですかね。ウェブまんがのお仕事の依頼で、たまにびっくりするほど低い金額を提示されることもあります。その額は「私がディレクターだったころ、イラストでもそんな金額で発注したこと一回もないけど……」と思うほどの単価。ひどいものは、「宣伝になるんで無料でお願いします」というもの。ウェブサイト運営の予算自体少ないんだとは思いますが、ウェブサイトの数が飽和状態になっている分、買い叩きも発生しているのを感じます。
――現在活躍されているまんが家さんの中で苦労されている方も多いのかもしれませんね。
まずりん:描かせてもらえるだけでありがたいと思えという考えもありますが、それはあくまで描き手側の心の持ち方の話であって、発注側が買い叩くのとはまったく別次元の問題だと思います。どんなに有名になろうとも、それに見合った収入が得られないという図式が、現在のウェブマンガ家の実情かもしれません。
また、「有名になりたいから報酬なんか安くてもいい」という方もいらっしゃいますが……。これは私が長年デザイナーという職業をやってるから思うことかもしれませんが、仕事はそれに見合った報酬があるからこそ責任が生まれ、仕事になるわけです。趣味でやってるんだったら、好きなときに辞めてもいいし、どんなクオリティのものを発表してもいいわけですから。趣味と違い、仕事には納品の責任があります。きちんとしたものを納品しているという気持ちがあるのであれば、きちんとした報酬を求めなければならないと個人的には思っています。
こんなことを言うと、「まんが家としてズレてる」「新人が生意気な……」と言われちゃうんですけどね。デザイナーの仕事では、きちんとした見積や請求ができないと失格と言われます。ものを納品してるということに変わりはないのに、まんがとデザインでどうしてこんなに矛盾してるんだろうな~と思います。いろいろ言いましたが、お仕事はきちんとしますので、お気軽にご発注いただけるとうれしいです(笑)。
人気漫画家としてネット界の寵児になれる可能性はもちろん、まずりんさんのように単行本デビューできる可能性だってある「ウェブのまんが家」。一方で、決して楽な仕事ではないこともうかがえました。今後、一読者として本当に面白いまんがを読むためには、読者の私たちが優良なサイトを利用するという選択も必要かもしれませんね。
●まずりん
デザイナー兼まんが家兼イラストレーター。現在、講談社モーニング・アフタヌーン・イブニング合同サイト「モアイ」にて『独身OLのすべて』を隔週連載、「オモコロ」でも不定期で執筆中。ツイッターアカウントは@muzzlin。2014年3月20日には講談社より『独身OLのすべて』の単行本が発売予定。