「ライトハウス」藤原志帆子さん、瀬川愛葵さんインタビュー(後編)

「中学生の弟も性被害に遭った」 被害者5万4,000人にも上る、日本の性的搾取の実態

「中学生の弟も性被害に遭った」 被害者5万4,000人にも上る、日本の性的搾取の実態
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性的搾取の被害実態が把握されていない理由

『BLUE HEART~ブルー・ハート~』より

日本でも行われている「性的搾取」というかたちでの人身取引。前編では言葉巧みに女性を騙し、アダルトビデオに出演させるケースを聞いた。「人身取引被害者サポートセンター ライトハウス」代表の藤原志帆子さん、広報・アドボカシーマネージャーの瀬川愛葵さんに引き続きお話を聞く。

>>【前編はこちら】女子大生を騙し強制的にAV出演 性を売る文化が発達する日本の「人身取引」の実態

被害者を「合意」させる悪質手口

――「ついて行く方が悪い」と被害者の落ち度を責める声もあるのでしょうが、騙す方は慣れているから言葉巧みなのでしょうね。

藤原志帆子さん(以下、藤原):有名な大学の大学生でも騙されてしまいます。最近は若い男性の被害も増えてきました。加害者の手口や洗脳の仕方は非常に巧妙で、被害者が断る理由をいくつ並べても、説得させられてしまうのです。

また、こういったケースの場合、警察へ行っても「警察では介入できないから、何かやるとしたら弁護士さんと相談して民事として解決するしかないのでは」と言われることが多いです。加害者はまず、被害者に対して「アンケートに答えて」などと偽り、契約書にサインをさせます。この契約書にサインしていることで、法律的には合意しているように見えるんですね。証拠としても、合意があるように一見見えてしまうような、加害者側にとって都合の良いLINEやメッセージのやり取りしか残されていないことがほとんどです。

被害者が未成年である場合や、監禁されていたことを証明できる場合は警察も動きますが、証明できないことも多いです。今朝も一件、こういった相談がありました。最近は月に4,5件の新規相談がありますね。

瀬川愛葵さん(以下、瀬川):できることなら警察が介入し、刑事事件として動いてくれるのが理想です。でも現状では、被害届すら受け付けてくれない警察署も多いです。加害者側もそれを全部わかってやっているので、被害者は泣き寝入りさせられてしまいます。

また、ポルノ出演の被害の場合、誰にも見られたくない動画やDVDがネットを経由して今にも売られてしまうかもしれない、というとても切迫した状況です。その状況で加害者は、販売を差し止めたいと訴える被害者に対して、「違約金を払うなら販売しない、払えないのなら販売するしかない」などの不条理な要求をするのです。

何百万、何千万の違約金を要求され脅されたら、とくに社会経験の少ない若い被害者は、諦めるしかないと思ってしまいますよね。私たちのような団体スタッフが同行し、警察や弁護士、またときにはAVプロダクションの事務所などへ行けば対応も少し変わるのですが、当事者が一人で動くことはとても危険です。訪れた警察署や弁護士事務所などで「あなたにも落ち度がありますよね?」と言われ、被害者が二次被害に遭うことも、これから防ぎたいですね。

東京五輪までに状況を変えたい

藤原:外国籍被害者の場合は、さらに自ら声をあげることが困難かもしれません。

――それはなぜですか?

藤原:たとえば、女性が温泉街にあるパブのようなところで売春を強要されていることがあるのですが、言葉の壁がありますし、自分の体を買いに来る日本人と同じ日本人である私たちを信じるのは難しいですよね。また、経済的な理由で仕事を求めて自ら日本へ来たけれど、売春させられたり、単純労働の現場で酷いセクハラを受け、帰国したいけど途中で帰ったらペナルティが発生して借金を負わされてしまう、という状況にある場合もあります。(ビザが切れるまで)監禁状態で働かされていたことを言えないまま、強制送還された女性もいます。

――そういう被害に遭っている外国人女性をどうやって見つけ出すのですか?

藤原:非常に難しいですね。本人や家族や一緒に働いている人から連絡が来るという場合もありますが、それは少し英語や日本語が話せたり、どうにかして家族や友人を介して支援機関や警察にSOSを出すことができたりした女性。なかなかそのような環境にある人は少ないです。

やはり、人身取引に関する法的な枠組みが必要だと思っています。2020年に東京オリンピックが行われるまでに建物も立つし、労働力の需要も高まるし、世界中から人が集まり繁華街も賑わう。さまざまな人の動きがあると思います。それまでに人の移動によって増える傾向にある人身取引や性売買の需要に対して、被害を防ぐために、他団体とも力を合わせて政策提言の活動をしています。

――アメリカの国務省から人身取引を激しく非難されたことなどをきっかけとして、2005年に人身売買罪が新設されています。こちらでは法的な枠組みとして不充分なのでしょうか?

藤原:人身売買罪は金銭を提示して人を売り買いすることを禁止する法律です。売春やポルノ出演を強要するような「搾取」に関する罪ではありません。

――訴えに耳を貸してくれる議員はいるのでしょうか?

藤原:与党でも野党でも、若い女性や子どもがターゲットにされているということで感度が高い人もいます。継続的に問題意識を持ってくれる議員の方と、これからつながっていくことを目指しています。

瀬川:日本で人身取引はどれほどの規模で行われているのか。これまで話してきたような理由から、実際に被害者として警察が把握する数はその被害規模の氷山の一角です。諸外国はそれでも今起きている人身取引の推計を作っています。日本に関しては、公的な推計はありません。

女子高生から「自分の弟も被害にあった」

性的搾取の被害実態が把握されていない理由

『BLUE HEART~ブルー・ハート~』より

――ライトハウスでは国内での性的搾取被害者を5万4,000人と推計していますね。

藤原:これは最も劣悪な被害を想定した控えめな数字だと思っています。本当は政府に人身取引の規模について調査し、その数を発表してほしいのですが……。

瀬川:ただ、もし政府が推計を出しても数百人にもいかないのではないかと思います。警察が動く人身取引被害者のケースは非常に少ないです。政府は「搾取する目的で暴力や強制力などを使った場合」という基準を使っていますが、それを証明するのが先ほども申し上げた通り非常に難しいです。そもそも、被害者自身に被害を証明する責任がある現状を変えていかなければと考えています。

政府が発表している人身取引被害者の人数は年間25人(※)です。でも、私たちのような小さな団体に寄せられる相談だけでも、その数を上回っています。届いていない声が多いのではないでしょうか。

(※)「人身取引対策推進会議」が取りまとめた報告書(2014年)による。すべて女性で、18歳未満が7人。国籍別では日本人12人、フィリピン人10人、タイ、中国、ルワンダが各1人。

――現場に行って、危険な目に遭うことはないのでしょうか?

藤原:私たちは加害者ではなく困難を抱える被害者のSOSをまず聞いてから、警察や弁護士、ほか機関とともに動くことが多いので、危険な目に遭ったことはありません。しかし、被害者を助けるために連絡を取って落ち合う際は、気を張りますね。本人を支配する人間が近くにいるかもしれません。

――知らないうちにポルノに出演させられるなど、中高生が被害に遭った実際のケースをマンガで紹介した『BLUE HEART~ブルー・ハート~』を今年2月に発行されました。

藤原:マンガにすることで問題を子どもたちも含め多くの人に知ってもらいたいと思いました。マンガの中では3つのケースを扱っていますが、そのうち1人は男子中学生の被害です。これを読んだ高校2年生の女子生徒から「以前自分の弟も性被害に遭っていたので、特にこのエピソードは男子にも読んでもらいたい」という感想をもらいました。

被害が起こらない社会、被害にあっても彼らが守られる制度にしていくためには社会の意識を変えることが必要です。いろいろな方法で問題を伝え、広めていきたいと思います。この2、3年がカギになると思っています。

ライトハウス
相談電話 ▶ 0120-879-871(月~金 10:00-19:00)/ 相談メール ▶ soudan@lhj.jp

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