『「居場所」のない男、「時間」がない女』水無田気流さん×『男がつらいよ 絶望の時代の希望の男性学』田中俊之さん対談(後編)

「完璧を求める女子」と「ゆるふわに生きたい男子」 社会と現実の埋まらぬミゾの正体とは?

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「完璧を求める女子」と「ゆるふわに生きたい男子」 社会と現実の埋まらぬミゾの正体とは?
「男がリードするべき」が男女平等の障害

左:水無田気流さん、右:田中俊之さん

>>【前編はこちら】平日に住宅街にいる男性は不審者扱いされる時代 女性よりも見えにくい男性の生きづらさ

男と女、どっちが生きづらいか? そんなことを競っていても何も解決しない。であれば、なぜそうなったのか原因を探り、少しでも解消するほうに考えをシフトするほうが断然いい! そのためのヒントに満ちた2冊の書籍が相次いで発売されました。『「居場所」のない男、「時間」がない女』(日本経済新聞出版社)と、『男がつらいよ 絶望の時代の希望の男性学』(KADOKAWA)――――それぞれの著者である社会学者・水無田気流さんと男性学研究者・田中俊之さんの対談、後編です。

男もコミュニケーション能力で勝負する時代

――おふたりとも大学で教鞭をとられていますが、いまの若年層をご覧になってどんな生きづらさがあると思われますか?

水無田気流さん(以下、水無田):男子学生は、コミュニケーション能力を求められて非常に困惑しているように見えますね。

田中俊之さん(以下、田中):同感です。どんな調査においても「企業が求める能力」の1位にコミュニケーション能力が挙げられます。かつては「男は黙ってサッポロビール」というテレビCMがあったぐらいで、男性にとってコミュニケーションは不要なものでした。

水無田:1970年のCMですね。そのころからバブル期までは製造業に就く男性が多く、いってみれば「口動かすより、手ぇ動かせ!」という社会に生きていました。でもバブル崩壊後に産業構造が劇的に変化し、いまや全就業者のうち7割ぐらいが3次産業、つまりサービス業や医療・福祉などの分野に従事しています。特に今伸びしろが大きい医療、福祉のジャンルでは、ケアしたりコミュニケーションしたりといった能力が必要です。いまは「男は黙って」ちゃやっていけないんです。人の話を聞いて、伝える男性が求められています。

田中:黙っていていい時代を生きてきたオジサンはいうまでもありませんが、若い世代の男性も「人と共感しなさい」「ケアしなさい」ということは習ってきていませんよね。それは「女性的」とされた能力だからです。それを大人になってから要求されるというのは、急に価値観が転換するので、そりゃつらいでしょう。

「男がリードするべき」が男女平等の障害

「理想的な結婚でなければ独身でかまわない」

――田中さんの『男がつらいよ』には「結婚がつらい」という章がありますが、この結婚に対する男女の温度差も双方に生きづらさをもたらしているものではないでしょうか?

田中:年収の低い男性はモテない、というイメージは根強いと思いますが、実は年収はパートナーの有無にはそれほど影響しないんですよ。具体的にいうと年収300万円ぐらいまでのラインだったら、5割ぐらいの男性が既婚もしくは恋人ありです。でも、結婚となると話は別です。男性のなかに「結婚とは、かくあるべき」というのがあり、それが二の足を踏ませています。すなわち、結婚式をして指輪を買って新婚旅行にいって新居を用意して……これは敷居が高い!

水無田:実際には日本の結婚って制度的にはすごくラクなんですよ。ヨーロッパのカトリック国のように宗教的な縛りもないし、区役所に届けを出せばそれで婚姻関係を結べます。それなのに心理的なハードルが非常に上がっていて、経済はデフレ基調なのに、結婚の価値だけはハイパーインフレになっている。「かくあるべき」な結婚観に縛られていて、それができないなら「じゃあ、しない」となります。そこには女性側の出産タイムリミットも関係していて、いまは結婚後1年以内に子どもを作るカップルが多いので、それも「かくあるべき」通りに進めていきたいのです。

完璧なライフプランの女子とゆるふわ男子

――卵子老化が知られるようになったり、出産後のキャリアを考えたりで、女性が「いつ産むか」という意識になっているということですね。

水無田:34歳までに2人目を産んで職場復帰する、という理想的プランのために、何歳までに何をすべきか……という人生設計については『居場所のない~』に詳しく書きましたが、これをこなせる女子はもはや超人です。

でも私が授業で接してきた高偏差値女子学生は、「私は生活水準を落とせないので、相手にもそれ相応の社会的地位や所得を求めます(キリッ」「すでにファミリーフレンドリーな企業に内定をいただいています(キリッ」というんですね。そして、30歳までにケリをつけたい女子に対して、男子学生はどんなに優秀でも「僕も30歳ぐらいになったら考えないといけないのかなぁと思います」程度ですごくふわふわしています。この差は埋まりそうにないですね。

田中:いまのお話を聞いていると、僕はキリッとしている彼女らのほうが心配です。その価値観は、上の世代からの受け売りでしかなくて自分で考えたものではない。すると、そうじゃない現実に出会ったときに「思っていたのと違う」と心が折れます。

「男はこう」「女はこう」と社会が用意しているものと現実とのあいだに大きなズレがあるのが、いまの日本社会。それを認識していないと、入社して数日で辞表を出したり、つき合い出して数日でお別れしたりすることになります。大学でもっと、自分でものを考える教育をしないと、社会への入口でつまずく学生がこれからも絶えないでしょうね。

水無田:たしかに、高偏差値な彼女らは自分がコントロールできる範囲を広げることに力を入れていますね。でも、恋愛や妊娠や出産をはじめ、人生はコントロールしえないことのほうがずっと多い。そして、残念ながら今の社会では、家族関連行動のうちコントロール不能なものの多くが、女性に負わされます。だから、まるで童話の『北風と太陽』のように冷たい風が吹きすさぶなか、コートの襟を立て、キリッと厳しい顔で人生を歩んでいくんですね。でも、社会に「太陽」さえあれば、みんなもっと薄着になれるんですよ。男性も女性も。

「男がリードするべき」が男女平等の障害

「男がリードすべき」が男女平等の最後の砦

――薄着になるためには、田中さんが著書で繰り返されている「男性はリードする側/女性はリードされる側」という性別役割分担も脱ぎ捨てたほうがよさそうですね。

水無田:決断やリーダーシップは男性が担うものという意識は、いまでもそんなに強いのでしょうか?

田中:僕はそう見ています。大学生に調査するとデートの費用はワリカンでもいいのに、「プロポーズはどちらがするべき?」には9割が「男性」と答えます。いざというときの決断は男性がすべきもの、という考えは男女どちらにも強くあります。

水無田:そうするとコントロールを重視する女子はつらいですね。「プロポーズはいつしてくれるの!?」「どうやったら彼に結婚を決意させられるの!?」とイライラしそう。リーダーシップを誰が担うかを、男性女性という性別ではなく個性や個人の能力で決められるようになればいいんですけど、どうやらその思い込みこそが最後の砦のようですね。

田中:その解消なしに、男女平等はありえませんね。人間を2種類に分けて男はこう、女はこうと決めつけるのは、管理する側にとって非常にラクなんです。つまり、会社だったらボス、社会だったら政治家です。

水無田:その根っこも高度経済成長期までさかのぼれますね。年率平均9%超もの高い経済成長があったからこそ、国民生活が均質化し、男女それぞれの生活規範も固定化されました。均質な社会に適応するために、均質なライフコースが一般化したんです。その時代が終わってもライフコースは変わらない、そこで生じてきた矛盾を、「個人でなんとかしろ」というのがいまの社会で、だからこそ男女それぞれ人生が切り刻まれているのではないでしょうか。

田中:意思決定の場に男性ばかりがいて男性が社会をリードする、という社会の制度を変えていかなければいけないわけですが、いかんせん、制度の是正には時間がかかります。だからこそ、まずは個々人の意識を変えていく必要があります。自分のなかにある「男はこう」「女はこう」という思い込みをひとつずつ捨て、自分に合った生き方、パートナーがいるならふたりともがつらい思いをしなくてよい生き方を考えることからはじめてほしいです。

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