火山の噴火や度重なる地震など、自然現象に関するニュースが毎日のように報じられていますが、災害大国日本にいながらも、自分が被災者となる可能性について深く考えたことのない人は意外と多いのではないでしょうか? けれど、万が一の事態は誰の身にも起こりうることで、起きてしまってからではどうすることもできません。被災を最小限に抑えるためにも、自らの意識を高め「自分の身は自分で守る」必要があるのです。
今回、お話を伺ったのは、20-30代女性で構成されている防災に特化した非営利団体「一般社団法人防災ガール」の設立者であり代表理事を務める田中美咲さん。「防災があたりまえの世の中にする」をモットーにさまざまな防災活動を行っている田中さんに、女性のための防災について聞きました。
誰の身の上にも起こる災害にどう対処すべきか
――「防災ガール★」は具体的にどのような活動をしているのでしょうか?
田中美咲さん(以下、田中):「防災ガール★」は非営利団体で、20代から30代の防災意識の高い国内外の女性たちが約80名所属しています。防災意識を向上させるために、メディア運営・情報発信や企業・地方行政と連携した防災に関するさまざまな活動を行っています。
――今、一番力を入れている活動とはどのようなものですか?
田中:今、2つのことを中心としてやろうとしていて、ひとつが人生の中で一番初めに防災との接点となり、楽しくなかった思い出などネガティブなイメージを付けるきっかけとなってしまっていた避難訓練を変えるというもの。そして、もうひとつが地方自治体や企業と連携して、その地域や企業の中に防災のアクションを起こせる女性のコミュニティをつくり育てるということです。
――従来の避難訓練というと「おはし」(押さない、走らない、しゃべらない)ですよね?
田中:そうですね。でも本当はそれだけではなく、想定外のことがたくさん起きることを知っていただきたいなあと思っていて。先生にいわれるがままなんとなく動いて、机に隠れて……それだと危機感が感じられないですよね。部屋の中のものが落ちてくる場合、机の下はベストだけど、建物自体がヤバかったら身の安全を守った上で、早く逃げないといけません。
防災意識を持って、いつどこで被災しても正しく、自己判断で行動できる意識を持った人を増やしたり、教育してしなければならないと考えています。それで、ソーシャルメディアを活用した避難訓練や、固定された情報だけにとらわれず、臨機応変に動かなければいけないような避難訓練をやっています。
ソーシャルメディアを活用した避難訓練
――ソーシャルメディアを活用した避難訓練というのは具体的にどういったものなのでしょうか?
田中:グーグルの社内スタートアップであるナイアンテックラボが出している「イングレス」というアプリを使った、次世代版避難訓練を今作っています。グーグルマップを活用したリアルな陣取り合戦という感じのもので、地域内で想定される災害について学び、地域の防災に関するポイントを巡ってミッションをクリアする避難訓練です。
指定するミッションの中でポイントとするものを防災に関するもの、つまり避難所や帰宅支援ステーションのコンビニとか、災害時に無料で飲み物が出る自販機などに設定します。そして、みんなに「このポータルを回ってください」というミッションを出し、一番早く防災の施設を回れたチームが勝ち、というゲームです。
――防災意識を高めるためにも最低限、自宅周辺や会社周辺の避難所の場所を頭に入れておいた方がいいですよね?
田中:そうですね。家と会社や学校という一番いる時間が長いところの避難所は知っておいた方がいいと思います。それに加えて、よく友達といくカフェやショッピングモールなどの避難場所も知っておいた方がいいと思いますよ。
――ウェブサイトにも掲載されていましたが、自撮りをするとその場で想定される災害を表示するアプリを防災科学技術研究所とコラボされていますよね?
田中:「もしゆれ防災ガール★」ですね。GPSで判断されていて、震度6以上の地震が起きた場合、この場所で起きうる被害を予測し、身の安全を守る方法を解説するアプリケーションになっています。
万が一のときのための備えとは?
――万が一に備えるとしてどのような準備が必要といえるのでしょうか?
田中: 20~30代の人で、防災にそこまでお金をかけられる人って少ないと思うんですよね。なので、物で補うのではなくて「普段から使えるものを防災の準備として意識しておくこと」が大切だと思います。
例えばウォーターサーバーも防災として役立つと思います。普段、ミネラルウォーターを購入している人は1本1本購入するのではなく、ボックスでストックしておくのもおすすめです。災害に備えていろいろな準備をするのは結構ハードルが高いと思っていて、それよりも普段の生活に使えるものを備えておいた方がいいと思います。
――災害が起きた場合、携帯やテレビなど情報を得るものが使えなくなってしまうと思うんですけど、そんな時に役に立つのはやっぱりラジオですか?
田中:そうですね。ラジオだけがライフラインになる可能性もあるので、おうちに一つはラジオを常備しておいた方がいいですね。
――ほかに自宅でできる防災対策は何かありますか?
田中:電球とか時計とか、ガラスなど割れる危険がある素材が使われているものをできるだけシリコン製など落ちても割れたり、あたってもけがをしないものにしたり、高さのあるものは基本置かないことが重要です。
女性として気をつけなければならないこと
――被災するとさまざまなところから支援物資が送られてくると思うのですが、支援物資ではまかなえないものというのはあるのでしょうか?
田中:被災する場所や規模にもよりますが、支援物資を頼っておかないほうがいいとおもいます。支援物資がくるのも早くて3日、遅ければ緊急性の高いところから物資は届けられると考えると、ずっとこないということもあります。
支援物資として送られてくるものは、ラップや食べ物系・布団系など生活必需品です。女性用の下着とかは、ほとんど送られてこないことが多いそうです。送ってくる人も男性だし、「これが欲しい」という意見を述べるのも男性である事が多いため、伝わりづらいことが多いようです。なので、女性特有のものがどうしても不足してしまう状況にあります。生理用品なども備蓄しておいた方がいいと思いますよ。
――災害が起こった場合、帰宅困難者になってしまうこともあると思うのですが、そういう事態に陥った場合、一番気をつけなければならない点というのはどのようなものなのでしょうか?
田中:災害時、人はストレスが溜まって暴力的になることがあるので、東京を例に挙げると、人的被害が想定されています。例えば、普段であればそこまで怒ったりしないことも、いらだっているときには、それがとても嫌なことに感じるのと同じように、災害時は多くの人が一斉にそのような状況になるので、衝突が起きてしまうことは考えられます。
他には、避難するのが暗い時間帯の場合にレイプ・痴漢・わいせつなどの性犯罪が増えることも考えられます。福島でもそういった被害が多くあったとされていますし。
――そういった二次的被害に遭遇しないためにはどうしたらいいのでしょうか?
田中:できる限りひとりで歩かないことが大事です。また、中心地から離れる場合は集団で行動すると思うのですが、そこからはぐれないようにしてください。最終的には本当に自己判断でしかないんですけど、集団が間違った方向に動くことも考えられるので、自分自身できちんと知識を持って行動することが大切です。
――災害から身を守るため、女性たちにひと言お願いします。
田中:災害が多い国に住んでいるということは事実なので、自分たちが暮らしている場所のこととか、自分にどういった被害に見舞われる可能性があるのかとか、自分できちんと調べておくことが大人の女性として当たり前のことだと思います。防災のプロになれとか、詳しくなれとかいうわけではなくて、自分のことは自分で守るためにちゃんと知っておいてほしいと思いますね。
(橋本真澄)