驚くなかれ。実はこの方、女性である。この写真を一見しただけでは男性と間違えてしまいそうになるが、 正真正銘の女性だ。彼女の名前はハーナーム・カーさん(23歳)。あご周りにびっしり生えたヒゲも鼻の下の口ヒゲも、そして胸毛も本物。 現在イギリスでティーチングアシスタントとして働いている彼女は、11歳の頃から体毛が異常に生え始め、今ではそれを自分の個性と受け入れ暮らしている。
ヒゲと戦った10代
ハーナームさんは11歳の頃、多嚢胞性卵巣症候群(たのうほうせいらんそうしょうこうぐん)を発症した。排卵が上手くできず卵巣内に卵胞が溜まってしまい、主な症状として月経異常・不妊・男性化などが起こる原因不明の病気だ。15歳になる頃にはあごヒゲが生え始め、脱毛やブリーチなど、できる限りのことをしたが、どれも上手くは行かず、結局さらに毛を太くしただけだった。クラスメイトからは “ヒゲ男”や “ニューハーフ”とからかわれ、辛い経験も何度もした。自殺を考えたこともある。「(当時は)部屋に鍵をかけて一歩も外に出ませんでした。外に出れば沢山の人がわたしを好奇の目で見るのが嫌で、誰にも会いたくなかったんです」と彼女はイギリスのメディアに語っている。
自らを愛することを学ぶ
そんな辛い10代を過ごしながらも見事に乗り越えた彼女は、今では自分のことを肯定的に捉えられるようになったという。「自分のことをもっとフェミニンに、もっとセクシーに思えるようになりましたね。そして、自分自身もそうだと思っています。どのようにあるがままの自分を愛せばいいのかを学びました」
何が彼女を変えたのか?
ハーナームさんがこんなにポジティブな変化を迎えることができたのは、16歳の時にシク教(16世紀にグル・ナーナクが始めたインド発祥の宗教)の教徒になったことがきっかけだった。この宗教の一派・カールサー派では、体毛を切ることを禁じられている。初めは両親の反対もあったが、「もう本当の自分を隠して生きることに疲れた」と語る彼女に両親はOKを出した。
家族の愛が支えに
シク教徒になって一年が過ぎた頃、彼女は親族のプレッシャーからヒゲを剃り落としてしまう。しかし、ヒゲのなくなった自分の姿を見て「自分が自分でないように感じて泣いた」。そんな彼女の一番の支えになったのは弟の存在だった。彼はハーナームさんを抱きしめて、ヒゲが生えていた時の彼女は美しかったと言ってくれたそうだ。そして、彼女は二度とヒゲを剃らないと決意した。
本当の女らしさとは?
彼女の下した決断は、ヒゲを剃らないまま生活するという、普通の女性がなかなかできないものだ。ハーナームさんはスカートを履くことやアクセサリーを身に付けることで、自らの女性らしさを強調しているというが、やはり街へ出ると男性として扱われることもある。「まずわたしのヒゲを見て、そして胸があることに気が付くんです。だから、多くの人が混乱しているでしょうね」と彼女は話す。体つきは完全に女性だが、やはりヒゲがあることで社会からの扱いは男性とされてしまうのだ。
現在、夫になる相手を探しているというハーナームさんだが、まだまだ彼女に対する社会の持つ壁は分厚く、結婚はもう少し先のことになりそう。今は自らをしっかり愛していくことが最優先だという。とても女性らしく、しなやかな彼女に春が来ることを願う。