NPO法人ピルコン・染矢明日香さんインタビュー(前編)

中高生への性教育が中絶率を下げる 10代に性の知識が必要な理由

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中高生への性教育が中絶率を下げる 10代に性の知識が必要な理由

NPO法人ピルコンが考える性教育とは

日本の人工妊娠中絶件数は年間、約19万件(平成25年度厚生労働省「衛生行政報告例の概要」)。2014年の出生数は約100万人なので、生まれてくる子どもの約5分の1にあたる数の中絶が行われていることとなる。約19万件のうち、10代の割合は10%程度。また、性経験のある女子高校生の約8人に1人が、クラミジアなど自覚症状のないものも含め性感染症に感染しているという調査もある(平成18年国立保健医療科学院疫学部調査)。

「寝た子を起こすな」に代表されるように、性教育反対派の声もまだ大きいが、実際に医師による性教育講座を実施以降、中絶件数が大幅に減少した県もある。中高生を対象に性教育×キャリア教育プログラム「LILY」を行うNPO法人ピルコンの代表、染矢明日香さんに、10代のうちから自らの体と向き合うことの大切さについて、お話を聞いた。

中高時代の性教育は「あれ、それだけ?」

――大学時代にピルコンを起ち上げ、2013年に法人化されています。起ち上げのきっかけを教えてください。

染矢明日香さん(以下、染矢):最初は大学4年のときの授業がきっかけでした。テーマを自分たちで設定して、グループワークでボランティア活動をしてみようという授業です。私は大学3年のときに中絶を経験していて、同じ授業をとった子も、中絶経験はないけれど避妊をしてくれない彼氏と付き合って悩んでいたんですね。それで「避妊」というテーマはどうだろうと思って調べてみたら、当時は中絶件数が年間30万件ぐらいあったんです。

すごく衝撃を受けました。「これちょっとヤバいよね」って。そこから、「中高生の頃に受けた性教育ってあんまり使えなかったよね」という話になって、学内で大学生向けの勉強を主催したり、フリーペーパーをつくったりするようになりました。卒業後、いったんは就職したのですが、やはり世の中に必要なことを広めたり普及させたりすることを仕事にしたいという思いがあって、NPOを起ち上げました。

――中高生の頃に受けた性教育が「使えなかった」というのは?

染矢
:中学でも高校でも、保健の教科書をちらっと読むぐらいだったんです。私は性教育の授業に興味があったので楽しみにして授業に挑んだのに、「あれ、それだけ?」「そんなにちゃんと教えてくれないんだな」と思いました。学校や先生によっても授業内容は違うと思うのですが、私の場合は、「自分に関係のある具体的な話」としては教えてもらえなかった印象があります。

性感染症の広がりを疑似体験する「水の感染ゲーム」

――「LILY」では、どんな風に性教育プログラムを行っているのですか?

染矢
:プレゼン形式の講義と、グループでのワークショップの2部構成です。講義では、「性交渉のリスクとはどういうことか」「避妊や性感染症の予防はどうしたら良いか」「心配なときはどうしたら良いか」ということを中心に、妊娠と性感染症についてを主に話します。ワークショップでは、「パートナーがコンドームを嫌がったらなんて言おうか」とか「恋愛でこれから大切にしたいことは何か」というのをグループで話し合ってもらって、その後で発表します。

あとは、性感染症の広がりを、水を使った実験で疑似体験する「水の感染ゲーム」を行うこともあります。薬品を入れた“感染したコップ”が1つだけあるのですが、最初は透明で見えないんです。2人1組になって、複数あるコップの水を半分注いで、戻して……っていうのと何回か繰り返して、どのぐらい広まっているかを見ます。

後から試薬を入れると、“感染したコップ”に入っていた水はピンクに変わるんですが、だいたい半分ぐらいのコップはピンクに変わるんですね。「私のコップは絶対大丈夫だと思う」って言っている子のコップもピンクに変わったりして。「性感染症は感染しているかどうか、検査しないとわからないものもあるよ。感染を防ぐためにはコップの水にラップをするように、人の場合はコンドームをするのが大事だよ」という話をします。

――学校側からオファーを受けて行くのですか?

染矢:そうですね。公立の場合も私立の場合もあります。高校では全日制と通信制・定時制が半々ぐらいです。それぞれニーズが少し違っていて、全日制の場合、「生徒の将来のために、性の話を身近な若者の目線からしてほしい」と依頼をいただくことが多いのですが、通信・定時制では「今まさに妊娠している子がいる」「性感染症になっている子がいる」という相談があることもあります。でも、LILYを行う前に性知識に関するテストをして(※3)正答率を見てみると、全日制でも通信・定時制でも42~43%。それほど差はありません。

※3 「膣外射精で避妊はできない」「性感染症には自覚症状のないものがある」など、性知識に関する15項目に「Yes」「No」で回答するもの。

NPO法人ピルコンが考える性教育とは

性教育講座実施後、秋田県では10代の中絶率が3分の1に

――プログラムを受けてみて、生徒たちはどんな反応ですか?

染矢:「普段はなかなか聞きづらいこともわかりやすく解説してくれてためになった」という声を多く聞きます。ただ、気になるケースもあって、「コンドームを嫌がる相手にどうする?」って話をすると、ふざけ半分かもしれないけれど「殴る」っていう子もいますね。それもやっぱり自分の気持ちを表現するのに慣れていないからなのかなと。そういうときは、「暴力はいけないよね。言葉で伝えるにはどうしたらいいかな」って言います。

プログラム後のアンケートでは、「関係のないことだと思っていたけれど、将来関係あるかもしれないから気を付けようと思った」とか、「ちゃんと自分の意見をパートナーに伝えることが大事なんだっていうのがわかった」といった声がありますね。性知識の正答率は70~80%ぐらいまで上がります。

――やはり知識を持っておくことは大事だと思いますが、「性教育」というとまだ反対派も多いですね。

染矢
:そうですね。日本での先進的な事例として挙げられるのが秋田県のモデルケースです。秋田県では2000年代初めの頃、10代の人工妊娠中絶率が全国平均をかなり上回っていたんです。でも、2004年に医師による性教育講座が県内の高校・中学でスタートし、その後2011年には中絶率が3分の1にまで減少し、全国平均を下回るようになりました(※4)。LILYでは、この性教育講座の内容も参考にしながらプログラムを作っています。

反対派の声も徐々に少なくはなっているとは思いますが、それでもやはり「余計、性行動を促進するのではないか」「興味を持ってしまうだろう」という声はありますね。

※4 2001年度の秋田県における10代の人工妊娠中絶率は18.2%(15~19歳の女子人口1000人対)。全国平均13.0%より5ポイント以上上回っていた。2004年の性教育講座のスタート後、2011年には中絶率が5.3%にまで減少。全国平均(7.1%)を下回った。

>>【後編へ続く】リスクを伝えるばかりが性教育じゃないー少子化・中絶をなくすために、子どもたちにできること

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