社会人3年目の24歳のとき、乳がんを宣告された、日本テレビ社会部記者の鈴木美穂さん。右胸全摘出手術から7年たって、「がんになった今のほうが幸せ」と言い切る22歳の山下弘子さんと出会い、がんの見方が変わるドキュメンタリーを制作しました。
鈴木さんは、入院前から手術や抗がん剤治療、退院後の様子を家族や同僚に撮影してもらっており、不安や恐怖で叫んだり泣いたりする姿も番組の中でさらけ出しています。さらに、同じ乳がんを患って片胸を失った歌手の久志沙織さんや山下弘子さんとの交流も映像で追い、がんとともに前向きに生きる人の姿を映し出しています。このドキュメンタリー番組を作った経緯を鈴木さんに聞きました。
貴重な経験なのだから、活かさなきゃ
――がんになった自分をなぜ撮影しようと思ったのですか。
鈴木美穂さん(以下、鈴木):がんになる前は、なんでも自分は努力すれば夢がかなうと思っていました。でも、がんになったら、自分にどうにもならないことがある、ということを受け入れる土壌がなくて混乱状態になりました。
手術、抗がん剤治療の途中まで、ドラマの中にいるようだったんです。私はがん家系ではないと言われていて、健康自慢で生きていました。でも、がんになって、せっかく貴重な経験なのだから、活かさなきゃと思ったんです。受け入れるでもなく、自分のことじゃないみたいだったけど、客観的に取材しているような気持ちでいることで自分を保っていました。
――自分の姿をこれだけさらけ出すことに抵抗はありませんでしたか。
鈴木:自分で初めて見る映像もあったので、私は抵抗がありました。「こんなのウソでしょ、出すな!」ってディレクターと話し合いました。(抗がん剤治療や副作用で精神的に混乱していた様子も映っているので)それを見た人から変な人と思われるのが嫌でした。
生きることは、長いか短いかより、いかにそこを楽しむか
――この番組を作ろうと思ったのはなぜですか。
鈴木:この番組はがん患者だけのために作ったわけじゃないんです。がんを意識したことのない同世代の人、生きてたら何か困難が必ずあると思うので、生きていく、困難を乗り越えていくヒントになったら、という思いを込めました。
他の病気とか困難でも、諦めなければ先がある可能性がある。「がんになって死ぬ話」はやりたくないと思ったんです。がんになって不幸、というイメージを変えていきたい。がんになった後の笑顔が尊いことを伝えていきたいんです。
人はいつか必ず死ぬんです。がんになって生き方が変わりました。全力で幸せになろうとする命の輝きを知ってほしい。周りにも(困難を抱えても)幸せで生きている人がいっぱいいるんです。当事者じゃないと伝えられないものもあると思います。
「生きる」ということは、長いか短いかを嘆くより、いかにそこを楽しむかだと思います。それに気づいて生きられたら幸せです。それを山下弘子さんに教えてもらいました。
がん経験者であり、発信できる記者として、できることをやりたい。それが闘病中の生きる原動力となりました。未来のためにすごく頑張らなきゃ、という思いが、ようやく7年たって形になりました。あのとき夢だったのがこういう番組だったと思います。
若いがん患者のための団体運営やケアセンターの設立
いま、鈴木さんは社会部の厚生労働省担当で、がんを経験したからこそ、陳情に来る人や被害者の訴え、ひとりひとりの気持ちを、人より分かると自負しています。「社会はカテゴライズしてみる傾向がありますが、ひとりひとりにはストーリーがある。私だから伝えられる仕事」と語ります。
また、本業とは別に、若いがん患者のための団体を運営し、フリーペーパーを発行したり、患者や医療者向けの講演など、経験を活かした社外活動も行っています。鈴木さんが共同代表を務めるマギーズ東京プロジェクトでは、がん患者や家族・友人のケアをする「マギーズセンター」が今年の秋にオープンする予定です。
・『リアリTV ZERO特別版 Cancer gift(キャンサーギフト)がんって、不幸ですか?』
放送日時:2015年7月4日(土)10:30~11:25(関東ローカル、放送終了後動画配信予定)
(編集部)