>>【前編はこちら】なぜセーラームーン世代には優秀な女子が多いのか? 美少女戦士に憧れたアラサー女子論(稲田豊史×北条かや対談)
中編では、『セーラームーン世代の社会論』著者の稲田豊史さんと、ご自身もセーラームーン世代であり『整形した女は幸せになっているのか』を著した北条かやさんに、「セーラームーン世代」をとりまく男性について語っていただきました。
ここ10年で「のび太はいいヤツ」に格上げ
稲田豊史さん(以下、稲田):『ドラえもん』の野比のび太も、もともと原作マンガでは単に「できない子」という設定だったはずなのに、ある時期から「のび太も“アリ”」という空気が出てきましたよね。
本書では『ドラえもん』がアニメ化して映画公開をスタートした1980年以降、同作が国民的コンテンツ化していく頃に影響を受けた、アラフォーの団塊ジュニアから30代前半のポスト団塊ジュニアくらいまでの世代を「のび太系男子」と位置づけて論じています。僕もその世代なんですが、ここ10年くらいで、いきなりのび太の評価が上がって戸惑いました。原作の藤子・F・不二雄先生は、ダメで怠け者な小学生の典型として描いていただけだと思うのですが。昨年、CG映画『STAND BY ME ドラえもん』が公開されましたが、あれは最初から最後までのび太が最高にいいヤツに描かれていましたね。
北条かやさん(以下、北条):でも、のび太はもともと優しい子ですよね。
稲田:優しい子なんですが、すぐドラえもんに泣きつくヘタレじゃないですか。にもかかわらず、ゼロ年代以降はなんとなく、のび太のダメさが許容される社会になっている気がします。「ダメだけど、心は優しいから良い」というような。TOYOTAのCMでは妻夫木聡さんがのび太役を演じています。彼ほど好感度の高い俳優さんが演じる時点で、それは象徴的ですよね。
北条:「のび太世代」というと、90年代後半から「だめ連」が出現したり、団塊ジュニアくらいの方々から「ダメでもいいじゃん」というか、男性の典型的なマッチョ観や雑誌『LEON』の「ちょいワルおやじ」とは距離を置く流れがありますよね。
稲田:「ダメな自分」を自己肯定する空気が、団塊ジュニアとポスト団塊ジュニアくらいまでの男性の間に漂っていますよね。「ダメだけどがんばっている自分」を社会に認められたい。それが「のび太系男子」のベースにある。90年代に10代を過ごした「サブカル好きで内向的な自分」を是とする男性たちのメンタリティそのものですよ。
「のび太系男子」が整形に抵抗する理由
北条:稲田さんが参加されていた批評誌『PLANETS』も、Vol.8までは表紙が美少女でしたよね。内容は高度な批評が繰り広げられ、面白く拝読しているのですが、表紙の美少女に少し戸惑いも感じていて。マッチョな男性からしたら、「美少女好き」はちょっとダメだと思われがちですよね。でも、こういう女の子が好きだし理想化しちゃっていいじゃんと公言できる雰囲気になってきましたよね。
稲田:「サブカル」で育った文化系男子は今、40歳前後。いろいろ理論武装はしていますが、結局、みんな少女が好きなんですよ。「日本の男性はロリコンだ」と世界的に言われますが、たしかに。だって、サブカルで内向的、繊細で優柔不断なのび太系男子が優位に立てる相手といったら、「圧倒的に年下」か「未成熟」な存在だけでしょう。つまりそれって「少女」です。
北条さんの著書『整形した女は幸せになっているのか』でも、整形をバッシングする旧態依然とした価値観が書かれています。世代にもよるのでしょうが、ネットなどで「あいつは整形をしている」と、なぜか整形をしていることが罪になって告発する対象になっているじゃないですか。
僕個人的には、整形はダイエット、視力矯正、脱毛と一緒。男性で言うと植毛なんかと一緒だと思っています。しかし、本に書かれていたように「タレント」という言葉が「才能」という意味であるのと一緒で、美しさは生まれつきのものであって欲しいと願望が、多くの人たちのなかに、普遍的にあるのだと思います。
それと、ネット民の男性が女性タレントの「すっぴん」を評価するのは、何もしていない素顔の状態が「未成熟なもの」だからではないでしょうか。「すっぴんでも綺麗」は少女性のひとつとも言えますし。
北条:それが整形への抵抗感につながると。
稲田:マッチョイズムが希薄で繊細な男性にとって、女性がしっかりした化粧をして「ボリュームアップ」したり、何かを「追加」したり、盛って「武装」したりするのは、彼らを圧迫する、脅かす行為にも等しいんです。
実はネットで言われるほど、世の男性は整形に抵抗感を抱いていないんじゃないでしょうか。ただ、文化系の内向的な男性は、特にネット上では「声が大きい」ので、彼らの執拗なバッシングだけが聞こえてきてしまうのだと思います。ひとくくりにするのも良くないんですが、文化系・ネット系の男性にとって最高の存在って、いつまでたっても「少女」なんですよ。
「パワフルな女性は怖い」という本音
北条:代表的なのは蒼井優さんですよね。彼女もすでに少女ではなく、29歳ですが。
稲田:彼女は30代文化系男子の「神」ですよね。彼女もかつては少女性が全面に出たイメージでした。それで、蒼井さんがというわけではないのですが、ネットでは「劣化」するという言葉があります。酷い表現ですが、11歳の女の子が15歳になっただけで劣化したと言われてしまったり。
北条:人気子役だった「まいんちゃん」(福原遥)なんてすごく美しく成長しているのに、そう言われてしまいますね。彼女は「劣化」ではなく「進化」しているのに……。
稲田:女性を「未成熟のままで止めておきたい」という願望なんでしょうね。それが整形への抵抗感にも繋がっている。バージョンアップしてほしくない。完成して、彼女に自信がついてしまうと、自分たち男性側が負けてしまうという恐れが、どこかにある。自信満々で綺麗な女性が怖い、と。そういう人がネットで大きな声を上げているために、あたかも「整形反対」が男性のスタンダードみたいに聞こえてしまうのでは。
北条:本にも書いたのですが、彼氏に「そんなにアイプチしてるなら整形しちゃえばいいじゃん」と言われて、もちろんそれが直接的な原因ではないのですが、あっさり整形した方もいました。『セーラームーン世代の社会論』の中ではコギャルブームへの言及がありました。整形をする強い女性への恐怖と重なる部分もあるかと思うのですが、セーラームーンが一世を風靡した同時期、コギャルが顔黒にして援助交際をして、性的にパワーを持った。男性からしたら、彼女たちは怖かったのでしょうか。
稲田:そうですね。ただ、いい大人の男が「怖い」なんて言うとカッコ悪いから、社会的な存在としてどうだとかこうだとか、いろんな理論武装でごまかしていた。でも、一言でいえば「怖い」。
北条:ヤマンバメイク自体に、闘う部族っぽさもありますしね。
稲田:超封建的で、ジェンダー文脈的にはものすごく非難されることを覚悟して言うなら、結局30、40代の文化系男子は女性のパワフルな状態が怖いし、少女は、か弱くあってほしいってことです。でも、それを正直に言ったら、社会的には「ロリコン」な上に「前時代的」だと怒られる。ギリギリ言えるとしたら「蒼井優が好き」っていうことくらいなんですよね(笑)。
「蒼井優」「宮崎あおい」に期待する永遠の少女性
北条:あとは女優の宮﨑あおいさんですね。
稲田:蒼井さんと並ぶ二大巨頭ですよね。
北条:宮﨑あおいさんが『ニコラ』専属モデルのときは、特に清楚系のイメージはありませんでした。当時の『ニコラ』は沢尻エリカさんも専属モデルでしたが、宮崎あおいさんもナチュラル系として売り出されていたわけではなくて、その後、彼女がスクリーンデビューされて、清楚系の女優さんになられて。その後は特にモデル活動はされてないですよね。
稲田:最近は「earth music&ecology」のCMに出られてますね。大学生くらいのオタクっぽい文化系の男の子は、あのブランドを着ている女性を好む傾向にあります。これ、完全に独断と偏見ですが(笑)。
北条:109系の服ではなく。「LOWRYS FARM」もそうですね。
稲田:アースカラーに少しピンクが入っていたり、少女性がどこか残っています。
北条:森ガールなんて言葉もありましたね。森ガール的な雑誌の表紙が蒼井優さんだったりしましたね。
>>【後編はこちら】整形する女の幸せは誰が決めるのか 理想の顔に近づきたい女と反対する男の心理
(編集部)