現在公開中の映画『ビフォア・ミッドナイト』、もうご覧になりましたか? 1作目の『ビフォア・サンライズ 恋人までの距離』(1995)、2作目の『ビフォア・サンセット』(2004)に続く3作目は9年ぶりの最新作ということで、長い間続編を待っていたファンも多いこの映画。第1作から18年を経て、いよいよ完結する“恋愛映画の金字塔”と呼ばれる名作は、巷にあふれる恋愛映画とどのように違うのか、その魅力をご紹介します。
運命を信じたくなる20代の恋『ビフォア・サンライズ 恋人までの距離』
列車の中で偶然出会ったジェシー(イーサン・ホーク)とセリーヌ(ジュリー・デルピー)。「飛行機に乗る明日の朝まで」というジェシーの誘いに乗る形で途中下車し、ウィーンの街を“夜明けまで”歩き、話し続けます。お調子者で皮肉屋のアメリカ人・ジェシーと、怒れるインテリフランス女・セリーヌの話はあっちへ行き、こっちへ行き……。お互いにひかれあうものを感じながらも、「遠距離恋愛なんかムリ。朝になったら永遠にさようなら」と言い合っていた二人。しかし、最後には「半年後の今日!」とウィーンでの再会を約束して別れるのです。
“運命の出会い”なんてものに懐疑的な人でも、人生における特別な出会いについて考えさせられる映画。恋愛、仕事、男女観……本音で語る二人の会話は非常に自然なので、20代の人は特に共感できるのではないでしょうか。「こんな相手に出会いたい」と憧れる人も多そうです。30代、40代の人は、若い頃の恋愛を思い出して甘酸っぱい気持ちになるでしょう。
恋と現実の間で葛藤する30代の再会『ビフォア・サンセット』
二人が再会を果たすのは、なんと9年後のパリ。ウィーンでの一夜を綴った本のサイン会のため、作家としてパリに来たジェシーのもとにセリーヌが現れ、“日暮れまで”つかの間の再会を喜び合います。「君との出会いは特別だ」と言いながら、結婚して子どもまでいるジェシーと、あまり恋愛はうまくいっていない様子のセリーヌ。恋愛、結婚、セックス……前作よりも少しあけすけな話をするようになった“理性ある大人な二人”はどうなるのか。余韻の残るラストが秀逸です。
恋に仕事に結婚に“悩み多きお年頃”の二人の会話は、さらに自然にパワーアップ。9年という時間の空白を埋めるかのように、そして「あの恋は特別だったよね?」と探るように、絶え間なく展開されます。二人と同じ30代はもちろん、忘れられない恋人がいる人も、過去の恋愛に思いを馳せるきっかけになるでしょう。
愛について考える40代の結婚生活『ビフォア・ミッドナイト』
最新作の舞台は、9年後のギリシャ。夫婦になった二人は、双子の女の子を連れてバカンスを楽しんでいます。二人きりのロマンティックな夜になるかと思いきや、ちょっとしたことからお互いへの不満が噴出。仕事、家事の分担、ジェシーの前妻問題と、激しい罵り合いに突入してしまい……。
最新作も、テンポのいい二人の会話は相変わらず。だけど、話す内容は歴史のぶんだけ重く、苦く、生々しく。さながらボクシングのような耳の痛い言葉の応酬に、結婚を意識する30代、40代の人は、「日々の生活は、あの運命の恋まで色あせさせてしまうのか」と絶望的な気持ちになるかもしれません。20代の人は、かつて美男美女だった二人の年齢相応の衰えに、月日の流れの残酷さを感じることでしょう。
しかし、この映画を最後まで観ると、二人の恋は色あせたのではなく、愛に変わったのだということがわかります。そして、たとえそれがケンカでも“お互いを理解するための会話を諦めないこと”が、愛情を持続させる唯一最強の努力なのだと思い知らされるのです。
一応の“最終章”とされる『ビフォア~』シリーズの結末は、ぜひ劇場で確認してください。
(文=大高志帆)