銀座のクラブのママに対し妻が不倫の賠償請求を求め、裁判官が「枕営業」として棄却した件が話題になりましたが、同時に「枕営業は売春ではないのか」という点においても議論を呼びました。そこで、「売春」の法的な規定について、アディーレ法律事務所の篠田恵里香弁護士に伺ったところ、意外な事実が判明しました。
「売春」「買春」自体には罰則はない
篠田弁護士によると、金銭のやりとりを前提とした肉体関係は、一般には「売春」「買春」となり、日本の法律では、「売春防止法」という法律で売春行為は禁止されています。しかし、そのことだけでは罰則の適応がなく、犯罪にならない「訓示規定」ということになるそうです。
ただし、路上など公共の場で売春の勧誘をする行為や、売春の斡旋行為、商売として売春をさせる行為は罰則適応があり犯罪となるとのこと。たしかに、女子高生と援助交際していた男性が「青少年保護育成条例違反」「児童買春罪」で逮捕と報じられることはあっても、「売春防止法違反」で逮捕されたというニュースは聞いたことがないかも……。
「売春は罰せられない」は風俗業者も知らない?
では風俗の現場では、売春防止法に罰則がないことについてどのように認識しているのでしょうか。風俗起業コンサルタントのモリコウスケさんに伺いました。
――風俗関係者には、売春に罰則規定がないことは常識なのでしょうか。
モリコウスケ(以下、モリ):知らない関係者も多いです。ただし、風俗関係者は、売春防止法によって、売春を「勧誘」(5条)、他人に売春を「周旋」(6条)、人をだましたり困惑させて売春をさせる(7条)、売春をさせる契約を結ぶ(10条)、売春を行うための場所を提供する(11条)、売春をさせる業を営む(12条)といった行為で自身が処罰されるということは知っています。自身にふりかかってくるリスクですし、実際に処罰される事件がメディアでもたびたび報じられています。
風俗関係者が一番注意しているのは「風営法」
――風俗店を開業しようとする人が、一番注意している法律とは?
モリ:「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(=風営法)」です。この法律に基づいて、営業の許可や届出が行われます。
また、18歳未満については、風営法では風俗営業等に従事することは認められておらず、営業主が雇用などをすれば処罰の対象となります。風営法では「客に接する業務に従事する者の就労資格確認」が義務付けらており、身分証明書で確かな身元の確認を行わなくてはいけません。
さらに、風営法は営業所ごとに従業員名簿を作成するよう義務付けています。これに基づく内閣府令は、名簿の記載事項として性別や生年月日、採用年月日に加え、本籍も必要と規定していましたが、昨年10月に人権やプライバシーに配慮する観点から、従業員の本籍や国籍の記載が不要となりました。
こうした細かな規定が風営法には定められているため、風俗店の開業にあたっては、最も知らなくてはいけない法律となります。
枕営業代わりの「本番行為」はお店のリスク
――デリヘル、ソープなどの性的なサービスを提供するお店は「枕営業」が存在するのでしょうか。
モリ:「枕営業」という言葉は、一般的には、クラブやキャバクラのキャストがお客に店にきてもらうために行うものであったり、芸能界でタレントが仕事をとるために行うものであったり、といったケースに使われます。
性風俗の場合には、そもそも性的サービス自体を本来のサービスとして提供しているため、「枕営業」という言葉は使用しませんが、デリヘルの場合、これに該当するとすれば、お客にリピートしてもらうために「本番行為」を行うことかもしれません。お店には内緒にして「本番行為」を行うキャストは存在します。ただし、お店ぐるみで本番行為を黙認してしまうと、お店(経営者・店長・従業員など)が売春防止法違反(周旋)で摘発、処罰されることになります。したがって、キャストが「本番行為」を行っているかいないかは常に意識します。お店にとっての危機管理です。
●取材協力:
アディーレ法律事務所(東京弁護士会所属)
モリコウスケ公式サイト
(穂島秋桜)