花の都、パリは世界のファッション発信地のイメージがあるが、華やかな舞台の裏には必ず闇があるものだ。フランスのメディア『LA PARISIENNNE』が、現役のファッションモデルたちに、モデルという仕事の身体的、精神的な苦労を語ってもらったインタビューを紹介している。
筆者が住むパリでは、ファッションウィークの時期になると世界中からモデルたちが集まり、地下鉄やレストランの中で、妖精のような本物のモデルを見かけることがある。ただし、今回のインタビューで語られているような大変な苦労をしているとは一見、見えてこないのがまた恐ろしくもある。
5キロ減量で収入が4倍に
さっそくインタビューの一部を紹介してみよう。
「私は幸運な方です。スポーツもしないし、自分が食べたいものを食べても太らないからです。もしこの身体ではなかったら、仕事のために体重を減らすのはごめんです。だって、割に合わなすぎるし病気になってしまうもの!」(クララ・21歳、175cm・52キロ、モデル歴3年)
彼女はダイエットをしなくても太らない体質という、稀な才能をもつ恵まれたモデルであるらしい。他の多くのモデルは、必死に体重コントロールをしているようだ。
「プレタポルテ(既製服)のモデルであるためには、長身である上に、細いウエストであることを要求されるんです。それに、ファッションショーの時期は、食べたり寝たりする時間もありません」(ソフィー、180cm・ 51キロ)
そう語る彼女は、ファッションウィークの仕事に向けて2か月間に渡り10キロの減量をしたという。彼女だけでなく、多くのモデルは食欲不振の症状があるほどの問題を抱えていて、そのキャリアはひどいダイエットの連続とも言える。彼女はこう続ける。
「減量のためにコーチについてもらいます。そして、アドバイス通り、お腹が減ったときに蒸した魚と野菜だけを食べるのです。5キロでも体重が増えてしまうと、試着の際にチャックが壊れるんじゃないかと思う程、ピチピチのサイズになってしまうんですよ」
実際に体重を減らすことで、収入に大きな違いが出てくることが分かるコメントもある。
「私は5キロ減量したことで、いつもの4倍の収入を得たこともあります」(クロエ・22歳、175cm・55キロ、モデル歴7年)
赤ちゃん用のミルクや離乳食を食事代わりに
ほかにも、モデルたちが見た他のモデルの驚愕のダイエット方法や、ファッションショーの舞台裏の実情が紹介されている。
「若いモデルが、ファッションショーに向けて夜ご飯として、赤ちゃん用のミルク0.5リットルだけを飲んでいた。飲み物以外の食事をすると(体重が増えて)モデルの仕事ができなくなってしまうから……」
「デザイナーらが、フランス語の分からない海外のモデルに向かって、『カバみたいな子ね』『あなた、可愛いけどお尻がデカすぎるわ』『彼女はそのドレスを試す必要はないわ、絶対に彼女にはサイズが合わないもの』等々、辛辣な言葉を吐いている」
「年中ダイエットしているモデルもいます。彼女は185cm、58キロで、それでも『太っている』呼ばわりされてしまうのです。そのため、1日3回の食事に赤ちゃん用の離乳食だけを食べていました。それでも結局、彼女は体を壊してファッションショーを途中で降板せざるを得なくなっていました」
デザイナーたちがモデルに「子供のような身体」を求める
なぜこうも過酷なのか? その背景は、ファッションデザイナーたちがモデルに要求する体格基準に原因があるらしい。彼らは「大人の女性の身体」ではなく「子供のような身体」を欲しがるというのだ。結局、モデルたちはその要求に答えるために、離乳食やミルクを食事としてとらざるを得ない、過酷な体重管理を強いられてしまう。
ここまで大変な思いをしているというのに、広告用の撮影ではこれまた理不尽な状況があるという。前出のクララはこう話している。
「実際、どれだけ減量したとしても、撮影された写真は後々とてつもない修正が加えられて、自分かどうかも分からないくらいになることもあります。まるで冗談かと思うくらい!」
プロのモデルたちはクールな顔をしてパリコレのファッションショーで歩いているが、その労働環境は、精神的にも身体的にもかなり過酷であることがわかる。また、その多くは深刻な健康問題を抱えていることも少なくないようだ。
フランスでは現在、痩せ過ぎのファッションモデルを禁止する法律が審議されている。これは、モデルたちの健康を守るだけでなく、一般の女性たちの身体を守ることにも通じるはずだ。ファッションショーのモデルたちが「もっとも美しい」とされる体型ではない、という認識を広める意味もあるだろう。
参考記事:LA PARISIENNNE