フレンチ料理家・井口和泉さんインタビュー(後編)

野生動物の肉の味は「一期一会」 ハンターガールに聞く、ジビエ料理の魅力

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野生動物の肉の味は「一期一会」 ハンターガールに聞く、ジビエ料理の魅力

女性ハンターが語るジビエ料理の魅力

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料理家ハンターガール奮闘記 ジビエの美味しさを知らないあなたへ』(朝日新聞出版)の著者で、フレンチを中心とした料理家の井口和泉さんに、狩猟の現場に立ち会うことでわかった野生動物の肉の味わい、自分たちで獲った鳥獣の肉を食べることで見えてきたこと、感じたことをお伺いしました。

ジビエ料理の魅力はいつも同じ味が食べられる訳ではない「一期一会」

――ジビエ料理の魅力は何ですか?

井口和泉さん(以下、井口):作る側からすると、野生動物による個体差が魅力ですね。オスかメスか、年齢やいつ獲ったかの時期によって臭みがあるかないかも違いますし、獲った人がどういう処理をしたかによっても、中に血液が残ってしまったりして、味が変わるんです。この肉質だったら煮込むより、焼いた方がいいだろうなとか、調理法について知恵を働かせることができておもしろいです。召し上がる方にとっても、いつも同じ味が食べられる訳ではないので、一期一会なんじゃないかと思います。

猟でよく獲れるイノシシは、肉の味そのものは私たちが食べ慣れている豚や牛とは違います。けれど、それは初めて子羊やヤギを食べた時にもあったなという程度の違和感です。知らない肉の匂いがする、ちょっと臭いと感じる。でも、回数を重ねるとおいしいと感じるようになると思いますよ。

いちばん大きく違うのは脂の密度で、豚の脂は融点が高くてさらっと溶けるイメージなんですが、イノシシの肉は脂が溶けた後に、繊維質の密度が濃くて、サクサクしてコリコリしてておいしい部分があるんです。それから、野生の動物にはまったくムダな肉がついていない分、味がギュッと凝縮した感じがします。

ただ12月を過ぎてしまうと、オスは発情期になって体からも臭いが出てきて、防虫剤のような臭いがするんですよ。ベテランの猟師さんは2歳のメスの冬の初めがいちばんおいしいとおっしゃいますね。個人的には臭いイノシシ肉というのを食べたことがなくて、ウソなんじゃないのと思っていたら、この間、取り返しがつかないくらい臭い肉についに出会ってしまいました。アンモニアの臭いがして、肉を持ってきた人が鍋にしちゃったから、鍋の中がすべてその臭いになってしまい、地獄の鍋だと思いながら食べました(笑)。

女性ハンターが語るジビエ料理の魅力

井口さんにとって作ることが夢だった「4種の禽獣ラグー」。イノシシ、アナグマ、シカ、野鴨をワインや香草と煮込んで作る

「申し訳ない」と「おいしそう」は地続きの感情

―― 一体どこまでが命でどこからが食べ物なのか。いつ「かわいそう」から、「おいしそう」に変わるんだと思いますか?

井口:うーん、そうですね。仕留めてしまった時は「申し訳ない」とは思うのですが、「かわいそう」とは思わないんです。自分たちで猟を行っているので、かわいそうと思うのはおこがましいかなと思いまして……。

体験としては、イノシシのお腹を開いて内臓を取り出した後、パッと見た目がもう「おいしそう」という見方に変わっています。肉屋さんで見かける骨つきの枝肉のような状態になっているので、「これは食べられるものだ」と経験則として判断してしまっている気がします。

以前は、「申し訳ない」と思う気持ちと「おいしそう」と思う気持ちははっきりとわかれていながら両立している、矛盾しているけど並び立つ、と感じていました。ですが、受け取った命をいただくことは、感謝して他者へつなげることができる、と思ってからはせっかくいただくのだからおいしく作ろう、という気持ちが根っこになり、「申し訳ない」から「おいしそう」は、「申し訳ない」「ありがたい」「大切にしよう」「丁寧に調理」「おいしい料理」となり、細かく分けていくと地続きの感情なのかな、と思います。

普段の暮らしは多くの人の手が加わって成り立っている

――自分たちで獲ったお肉を食べる、ということを経験してどんなことがわかりましたか?

井口:普段の暮らしがどれだけ多くの人の手が加わって成り立っているか、ということを強く思うようになりました。スーパーに並んでいるお肉の味は、どれも均一ですよね。けれど、自分たちが獲るお肉のコンディションは野生のため毎回違い、この間はこの調理法でおいしく作れたのに、今日はそんなにおいしくないね、ということばかりです。

それに当たり前ですが、スーパーに並んでいるお肉は自動的に並んでいるのではなく、豚を育てた人、捌いてくれた人、運んだ人、パッキングしてくれた人と、いろんな人の手の仕事を経て、たまたま最先端の部分だけを私がピックアップしているから、とても簡単に感じるんだけれども、実のところとても大変な仕事を経てやってきていますよね。自分たちはたくさんの人の手に優しく守られているだけなんだなということを、とても実感するようになりました。

それから狩猟免許を取って最初の年に「tracks」のメンバーで経験を重ね、技術を磨くために、1週間通しで仕掛けから加工までを行なう“狩猟トライアスロン”を実行したんですが、私たちの予定では、獲れても1週間のうちに2頭だろうと思っていたんですが、毎日獲れたんです。

それで、毎日解体してへとへとになって、それで3、4時間を解体に使い、明日の罠かけに行くぞと朝からまた2時間ぐらいずっと山の中にいる。だから、食べてほっとするっていう時間を持てなくて、ずっと獲って捌いてということが続いた時に、ちょっとノイローゼっぽくなったんです。家の冷蔵庫と冷凍庫が肉でパンパンになっていくし、しょうがないから家に帰ってひとりでジューってお肉焼いても、寂しいし苦しいんですよね。

そんな時に友達が「弱ってるみたいだから会いに行こうか」と言ってくれたんです。友達の気持ちが嬉しかったし、1日の終わりに誰かと今日もらったお肉を調理して、ゆっくり話しながら食べる時間を持つということが、すごく大事な時間だということを体で納得することができました。

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