職業選択の自由も定着し、お金も自分で稼げる現代女性。でも人生の分岐点で「これって私のワガママ?」と思い悩むこともあるはず。女の自由とワガママの境界線に揺れる心を、女装パフォーマー・ブルボンヌさんに聞いてもらいましょう。
これまで誰とも付き合ったことがありません。20代後半から某アイドルグループに夢中で、休日はコンサートやファンミーティングで埋まり、ツアーでは海外まで追いかけることもあります。彼らが頑張り続ける限り支えたいと思いますが、私の両親は「目を覚ませ」と言います。応援し続けることは私のワガママでしょうか。(35歳・一般事務)
全身全霊をアイドルに捧げるのは、「ドン詰まり感」があるかも
この連載全ての前置きだけど、アナタが心底「一生アイドルを追いかけて生きていく」と覚悟したならいいのよ。でもアナタは今、35歳でちょっと迷ってる。なら言わせていただくわね。
私の大好きな映画で、女装パロディ劇にまでした『嫌われ松子の一生』という作品があるのよ。学校の先生や美容師なんかのいろんなお仕事をしていた快活なイイ女だった主人公が、次から次に不幸な目に遭って、最後は他人とのコミュニケーションを放棄して、ゴミ屋敷化したアパートに引きこもるというお話なんだけど、彼女が辿り着いたのが、光GENJI(の内海くん)の熱心なファンになるってことだったのよねぇ。内海くんってのはすごくセンスいいと思うけれど、この作品では、アイドルを盲信することが転落人生の末のすがるような行為として描かれちゃってるわけ。
アタシもアイドルやアニメが好きだから、一概にオタク的偏愛行為を悪く言うつもりは全くないんだけれど、自分の脳内活動を全てアイドルやアニメに注ぎ込んでしまうというのは、割とドン詰まり感がある状態ってことなのかもね。
アイドルは宗教と同じ偶像崇拝
お父さんお母さんが「目を覚ませ」と言っているようだけど、それって宗教にはまっている人が言われる言葉。そもそもアーティストもアイドルも、ライブ会場で舞台に立ち、その人の詔(みことのり)を曲に乗せてたくさんの人に伝えるお仕事でしょ。それにみんなが「○○様~!」と心酔して、ありがたいグッズを買い漁る。ほんと、宗教と同じ構図なんだよね。
「見守るだけの恋」は気楽だけど、永遠に結ばれない
一応アイドルは生身の人間だけど、自分とアイドルが結ばれる可能性って、宝くじ10回連続当選ほどもないくらいじゃない? つまりアナタは「自分が相手に認識されなくてもいい、自分が見ることだけでいい」という関係性に満足している。一般的な恋愛は「見て見られて」という循環があるんだけど、一方的に見ることだけで満足しているのは、他人に見られることに対しての恐怖、自信のなさ、諦めがそうさせているのかもしれないね。むしろ、アイドルはこっちに振り向いてくれないからこそ、いいのかもね。
お見合いとか合コンは自分が見られる側になり、相手から見定められるわけでしょ。一方的に見る側に回れば、永遠に自分は傷つきはしない。前々回の「一生派遣でいい」という気楽さの恋愛版かも。一番気楽な恋愛だけど、一生叶わない恋愛。
アイドルへの“お布施”は初詣レベルにしてみては?
「彼が頑張り続ける限り支えたい」と言うけれど、支えるってのはお布施を注ぎ込んでいるってことじゃない? まあ、「芸能」ってそういうことで成り立ってるからしょうがないけど。でも「初詣だからあの雰囲気の良い神社に行って1,000円くらい賽銭箱に入れちゃおう」と、余裕の中で使うお布施と、神社の階段を一日中上がったり下がったりし続けて、ほぼ全財産をつぎ込む払い方とでは、お布施の意味も全然違うでしょ。
アナタの人生で向き合うべき孤独や寂しさを「そのアイドルを愛する」という作業で埋めているのなら、それは思考放棄に近いかなとも思うわ。いや、アナタだけじゃないのよ。韓流、アニメ、ゲーム、美容、ペット……ハマりすぎるものはみんな同じ。
ちなみにアタシもモー娘。やでんぱ組.incはじめ女子アイドルのファンだけど、恋愛感情がこれっぽちもない分、純粋なビジュアルや音の好みであったり、育っていく過程を見守ることを一歩引いた目で楽しんでいる感じね。でも、異性のアイドルを疑似恋愛の感情込みで追いかけるとなると、信心深くなっちゃいそうよね。
高級マンションに住んでるアイドルに、少ない稼ぎを捧げ続けるの?
人生をアイドルに捧げるのはもちろん個人の自由。ただ、それだけをやり続けた結果、未来の自分がどうなるのか。あえて、すごく意地悪な状況も想像してみると覚悟が見えるかも。
もしかしたら、現実では高級マンションで美人モデルとイチャイチャしているかもしれない彼らに、がんばって稼いだ自分のお金をこの先も全てつぎ込み続けられるのか。自分自身のそれ以外の幸せや楽しみの可能性なんて試す必要もないのか、って。
立派なクリエーションに対して、現実的な余裕の範囲で応援するスタイルのほうがアタシは好きだけど、昨今のショービズ業界は、狭い範囲から根こそぎ巻き上げる宗教型ビジネスモデルが増えてるのも現実なのよね。正直、あなたのようなありがたいお客様はこれからもいっぱい現れると思う。ちなみに最初に書いた松子さんは、最後に自分自身の可能性にもう一度賭けようと立ち上がっていたわ。あなたも不安があるなら、ファン卒業という選択肢もあること自体は、心の隅に置いておいてね。
(構成:穂島秋桜)