>>【前編はこちら】キーワードは「それな」 新卒社員とうまくやるために知っておきたい、ゆとり世代の生態
大手広告代理店「アサツーディー・ケイ」にて、学生メンバーで構成する若者マーケッター集団「ワカスタ(若者スタジオ)」を創設し、若者マーケッターとブランディングやマーケティングを行う藤本耕平さん。
前編では『つくし世代』と呼ばれる若者の“生態”について話を伺ったが、後編では、彼らの求める上司像について迫ります。
理想の上司は、「松岡修造」タイプ
――本の中には松岡修造さんが理想の大人として出てきましたよね。
藤本:最近も、明治安田生命の調査で、理想の上司の2位に選ばれていましたね。世の中がこうだから、なんて価値観ではなく、自分の見解を持っていて、下に押し付けないところがいいのではないかと思うんです。今の若者は上からの押しつけをすごく嫌う傾向があるので、広告業界でも気を付けているんです。「このブランドがかっこいいでしょ」なんていう広告は通じないけれど、ちゃんとビジョンがあれば消費者は後からついてくる時代なんですね。松岡さんにもビジョンがあるという印象です。
――女性ではビジョンのある人で思い浮かぶ人っていますか?
藤本:上司というイメージではないのですが、きゃりーぱみゅぱみゅさんなんかは、明確なビジョンがある感じがありますね。意志を感じる人が彼らに受け入れられるんだと思います。
――昔であれば、「黙ってついてこい」みたいなこともありましたが、今はちゃんと説明ができる人のほうがいいんですかね。
藤本:そうですね。今はわからないことがあればすぐに検索して答えを求める時代ですから、説明しないと離れてしまうかもしれないですね。
先輩を助けることで感じる「つくし世代」の存在意義
――では、理想の上司、先輩になるには、どういうことが必要だと思われますか?
藤本:完璧すぎても近寄りがたいし、ちゃんと語らないとビジョンは見えないですよね。ぶっきらぼうでも本音を語っている人にはついていきたくなりますよね。僕の上司でも、誰かが自分のプリンを食べただけで本気で怒っている人がいて、でも仕事はちゃんとしていて。そういう本音が見えるとついていきたいなと感じますし、表面的ではなく、本音で自分と向き合ってくれている感じが重要だと思います。
――確かに、私も失敗してドジったときに若い編集さんがしっかりしていて、すごく助けてもらって、それで距離が縮まったことはあったような気がします。
藤本:そうやって先輩を助けたり役に立ったりすることも、彼らにとっては面倒なだけではなくって、同じコミュニティの人に「つくす」ことになるから、存在意義になったりすることもあるんですよ。
意外と20代こそ飲みニケーションに積極的
――ただ、先輩があまりビジョンを語り過ぎたりしたら今度はウザがられるんじゃないか……とか思ってしまうこともあるのですが。
藤本:そうですね、いきなり「どう?」とか「悩みはないの?」なんて聞いても彼らは困ると思うので、やっぱりまずは自分をさらけ出して、味方であることを知ってもらう。そうすればコミュニケーションもうまくいって話してもらえるんじゃないでしょうか。
――そういえば、若者とちょっと上の世代との違いで言えば、今、飲み会に参加する若者も増えたといいますよね。
藤本:調査によると、飲み会に関しては、30代の参加意識が一番低く、逆に20代の参加意識は高くなっているそうなんです。なぜかというと、20代の人たちは、自分のコミュニティは円滑にして居心地よくいたいからなんですね。参加しなかったら自分以外の人たちでコミュニティができてしまってはぶられているような感覚になるので、自分で良い環境にしておこうという気持ちの表れだと思います。そこはLINEに似ているかもしれないですね。
肯定することで、若者のモチベーションを引き出す
――実際にワカスタをやって若者に接してみて知ったことって何がありますか?
藤本:昔は、流行から若者の傾向が見えてくるところはあったのですが、今は流行自体が減ったというのもありますが、俯瞰で分析していても見えてこないことがたくさんあります。でも、さっきも言ったように、本音で接すると深い部分まで知ることができるんです。それも、味方にならないとやっぱり本当のことは教えてくれないんですね。そうなるためには、やっぱり味方であることを伝えること、そして出てくる意見を肯定することだと思いました。もし、何か別の意見を言うときも、まずは肯定してからがいいのではないかと思いました。
――最後に、この本をどんな人に読んでもらいたいですか?
藤本:ふたつありますね。まずは、上の世代です。というのも、若い彼らには「なんで大人は自分たちをバカにするの?」という思いがあるんです。実際にはこれからの社会は彼らが支えていくわけだし、優秀な人もたくさんいます。なのに若者のやる気をそいでいたらもったいない。だから、上の世代の人に、今の若者の、「ゆとり」とか「さとり」だけではない、ポジティブな部分を知ってもらいたいというのがあります。
もうひとつは、若い人たちに読んでもらいたいです。ワカスタをやっていて、若者らしい提案をしてほしいと言っても、若者である彼らには、何が上の世代とは違う自分たちならではの特徴なのかが見えにくいみたいなんですね。だから、この本を読むことで、若者たちだからこそ考えられる視点は何なのかを理解してもらい、社会に新しい風を吹き込んでもらいたいと思っています。