週刊文春3月19日号の連載内で小説家・林真理子が、川崎中1殺害事件の母親について言及。「ふだんから子どものことはかまってやらず、うちの中はぐちゃぐちゃ。そして恋人がいたという」「そして今、世の中にはびこる、『母であるよりも女でいたい』などという考えも、二の次に置いてほしい」と被害者の母親を責めるような表現に、非難が殺到した。
今や、再婚は決して珍しいことではない。平成25年度の婚姻数66万613組のうち「夫婦とも再婚又はどちらか一方が再婚」は17万3,569組で、婚姻数全体の26.3%を占めている(参照:厚生労働省「人口動態統計」)。
シングルマザーが恋愛をするといけないのか。シングルマザーの自立や再婚をサポートしている「日本シングルマザー支援協会」代表・江成道子さんに、再婚事情と子どもの問題について、現状を伺った。
シングルマザーを襲うのは「孤独」と「経済問題」
――日本シングルマザー支援協会では、経済的自立以外に「再婚」も支援されているんですね。
江成道子さん(以下、江成):2013年に協会を設立したとき、シングルマザーが元気になるために必要なものとして、3本の柱を掲げました。1つは自立する経済力、生きがいとしての「仕事」です。2つ目は孤立しないように、情報交換をしたり共感し合える「仲間」。3つ目として「パートナー」です。この国で子どもを抱えた女性ひとりが、経済的に自立していくのは難しい。メンタル面でもひとりで生きていくよりもパートナーがいた方がいいこともある。それで「再婚」を3本目の柱に据えました。
――再婚支援として開催されている「再恋活」パーティーには、どのような方が参加されているんでしょうか。
江成:5月に予定しているのが、まだ3回目なんですね。各回男女それぞれ15人ぐらいのパーティーなんですが、男性の中には「子どもがいる人がいい」という方も少なからずいるんですよ。前回の結婚で子どもを授からなかったので、子育てをしてみたいという方、家業があるので跡取りが欲しいという方もいらっしゃいます。
女性は「再婚したい」と言い出せない
――女性は、再婚に積極的な方が多いのでしょうか。
江成:この支援を通して初めてわかったんですが、女性は「再婚したい」という願望があっても、周囲から再婚に対する風当りが強く、自分から言い出すことができない方が多いんですね。
通常、シングルマザーは婚活や就職で、弾かれやすい存在です。婚活パーティーに行っても、シングルマザーであることがマイナスになると気にする方もいる。だから再婚を前提にした婚活なら、一歩踏み出しやすいとおっしゃいますね。その日カップルになれなくても、こういう場で生き生きとしゃべることができて、自分に自信を持てたという方もいらっしゃいました。
それから、パーティーでは「再婚カウンセラー」にアテンドしてもらっています。希望制ですが、交際から再婚に至るまでの悩み、子どもへの対応などの相談に乗ってもらうこともできます。
交際に至っても、子どもは、相手の男性に悪気なく「おじさん、何しに来たの?」と言うこともあって、それに戸惑う方もいるんですね。そういったことが積み重なってすれ違ってしまうこともあるので、そこをフォローしていただいています。
恋愛している母親が問題を起こすわけじゃない
――風当りということでは、川崎中1殺害事件でも「シングルマザーなのに恋人がいるからだ」と、バッシングがありました。
江成:私自身は2回結婚をしていて、5人の子どもと2人の孫がいます。シングルマザーの時に恋愛をした経験もあります。
今はいろんな事情で離婚される方も増えて、再婚される方も年間17万組以上います。みなさん、恋愛したからといって子どもを放っておいたり、置き去りにしたり、虐待したりしていませんよね。今回の川崎の事件にしてもそうですが、母親が恋愛していたから、仕事が忙しすぎたから、それが原因で問題が起こるわけではない。
もちろん、子どもを育てる上で「母親の責任」はあります。ただ、私たちが考えるべきなのは、新たな被害を出さないために、母親がしてしまったこと、足りなかったことをみんなで考え、社会が子どもを育てる女性をどのように守らねばならないのか、という点です。母親を責めて解決する問題ではないということを強く言いたいですね。
私たちのところに、小さな頃に親から愛情をもらえなかった女性から「妊娠したけれど、出産前に夫がいなくなった」という相談が寄せられることがあります。母親が他人からの愛情をもらった経験がないと、子どもにどう接したらいいのかわからずに、虐待したり、子どもの置き去りにつながることもある。こういった場合は周囲の助けが必要です。問題が起きてから本人を責めても何の解決にもなりません。
DVから逃げてきたのに「お父さんの承諾が必要です」
――そういった方に行政の支援は届かないのでしょうか。
江成:生活保護にしても児童手当にしても、困ったことがあったら、まずは役所に行きますよね。でもその窓口で苦しんだ経験があるという声をたくさん聞きます。
例えば、夫のDVやモラハラが原因で、子どもを連れて遠くから逃げてきた。でも、子どもは学校へ行かせてあげたい。それを役所に相談しても「親権者のお父様の承諾が必要です」と言われる。逃げてきたのに、そんなの無理ですよ。
私たちも行政には働きかけているんですが、最初の改善策として、傷ついた人に対して「共感できる人」を窓口に置いてほしいとお願いしています。行政側でも、できないことはありますが、窓口でマニュアル通りに「できません」と言われるよりも、「大変でしたね。他に何かないか調べてみます」と言ってくれるだけで救われます。
行政側も、保護シェルターや様々な支援策を持っていても、窓口からそこにたどり着きにくいんです。とはいえ、行政を頼るだけでは問題は解決しないので、私たちが持っている情報や、私たちが支援できることでカバーしていければと思っています。
「男女で結婚している人」以外が苦しい日本
――経済的にもやっぱり再婚したほうが幸せなんでしょうか。
江成:日本は、女性の賃金が相対的に低いですし、経済的にも「夫婦」でいる方が暮らしやすい制度が多いんですね。しかし、今は3組に1組が様々な事情で離婚している。シングルファザー、未婚の方を含めて、「夫婦」という枠組みから外れた人は、どうしても苦しくなってしまう仕組みがあります。
それに、生きていくのは大変ですから、自分を理解してくれる人、応援してくれる人がいた方が心強いですよね。それが親だったり、友だち、恋人、いろんな形がありますが、もし恋愛で幸せになるのであれば、どんどん恋愛した方がいいと思います。「結婚」というよりパートナーですね。ただ必要としてない人もいますから、それはその人の選択です。
――シングルマザーが恋愛をすると、周囲から「子どもがかわいそう」と心配されますが。
江成:私は、「かわいそうな子ども」というのは、実の母親に「かわいそう」と思われている子どもだけだと思うんです。「私が離婚したから、あなたはかわいそう」「私が何もしてあげられなくて、かわいそう」。何もしてあげられなくても、お母さんが笑顔なら子どもは幸せなんですよ。
お母さんが幸せになるために一生懸命生きている姿を見せることは、子どもがかわいそうなことではない。お母さんも自信をもって堂々としていればいいと思います。
(穂島秋桜)