教えて! ブルボンヌ先生 「ワガママと自由の境界線」 第2回 ゆるふわOL

あなたの未来がしょっぱくても、それは気楽さに対する責任よ ブルボンヌ先生が“ゆるふわOL”に送る言葉vol.2

あなたの未来がしょっぱくても、それは気楽さに対する責任よ ブルボンヌ先生が“ゆるふわOL”に送る言葉vol.2
PR

ブルボンヌが“ゆるふわOL”に送る言葉

職業選択の自由も定着し、お金も自分で稼げる現代女性。でも人生の分岐点で「これって私のワガママ?」と思い悩むこともあるはず。女の自由とワガママの境界線に揺れる心を、女装パフォーマー・ブルボンヌさんに聞いてもらいましょう。

第2回 「正社員になりたくない」

就職氷河期で就職できずに、派遣社員として社会人になりました。現在、3社目です。実家住まいなので、お金も十分だし、業務内容に責任がなく気楽です。両親は将来のことを考えて正社員になれと言いますが、気楽な派遣生活を続けたいのはワガママでしょうか。(31歳・派遣社員)

昔の腰掛けOLね。未来に「夫」が待っていればいいけど

別にワガママじゃないと思うわよ。正社員になりたいのになれない派遣の辛さを扱っているルポやドキュメンタリーもいっぱいあるじゃない。だからむしろ「派遣でいい」という人は、スタッフに福利厚生とかでお金をかけたくない会社からしたら、利害が一致してありがたい存在でしょうよ。

でもアナタ自身が、それでどうなるかだよね。ゆるく横ばいのお給金をもらって、出世して責任をとる立場になるわけでもない。うまいこと、いい男が現われて専業主婦として永久就職できちゃいましたぁ、って古典的なハッピーエンドが待っていればいいんだろうけどさ。古い言葉で言うところの、「腰掛けOL」ってやつ。あれは専業主婦コースへの上玉夫探しを兼ねたお仕事、という割り切り意識だったと思うけど、問題は、アナタにはそういう明確な狙いもなさそうねってとこ。

フワっと生きてもいいけれど、アナタは何がしたいの?

アタシだって見るからに常識から外れた女装業、根なし草みたいなもんだから、アナタに「地に足付けて正社員を目指しなさい!」なんて偉そうに言えないけど、相談してきたってことはそれなりに危機感を覚え始めてるってことよね?

「気楽」というのは、その場しのぎの姿勢。仕事をしないと、世間的には「ニート」とか「引きこもり」と呼ばれちゃってイヤ。最低限、友達とご飯を食べたりファストファッションやプチプラコスメを活用してお洒落したりできるくらいのお金を稼ぎ、会社に所属することで引きこもりという社会のお荷物にはならなくて済む。仕事への熱意があるわけじゃなくて、フワっとみんなで一緒にランチを食べたり、流行の話題をしたりをずーっと続けてたい。そんなとこじゃないかしら。

所帯を持つコースがないゲイ業界にも、ゆるふわOL感覚の人は多いのよ。さらに最近は、ストレートの男でも増えているみたいよね。明確な人生の目的がなく、とりあえずの楽しさを過ごすうちに30代、40代になっていくパターン。

正直に言えば、私はその子たちに、心底ダメよ! と怒る気にはなれない。大局的には、そういう人が増え過ぎるのは日本の経済的には困ると思うの。人口のパワーに乗って、がむしゃらに働き、出世を目指すアジア諸国のみなさんに負けちゃうんだから。でもだからといって、日本の経済力を維持向上するために仕事に打ち込め、なんてアタシがどのツラ下げて言えるんだ、ってね。

30年後、高齢者だらけの日本を想像してみて

でもその先をまるで見ようとしてない、気づかないふりの人が多いなーとは思っちゃうわね。今の時点で高齢者なんて言われる65歳以上の割合がもう4人に1人なのよ。んで今43歳の私がその枠に入るちょっと前には、3人に1人になっちゃうんですって。3人に1人が確実に65歳以上で、残りの2人にだってアタシみたいな60代のジジイだがババアだか分かんないやつが混ざってるって、すごい顔ぶれの社会よね。

必死に頑張って何かを築けた人は、まあいいわよ。でも今回のアナタの場合、いつかは実家のご両親もいなくなるわけでしょ。どんな壮絶なことになっているかわからないわよ。でもそれはアナタだけじゃなくて、日本全体の問題でもある。悪意もなくふんわり生きてた人たちが、日本中をどんどん覆い尽くしていて、仕事の意欲や人生の方向性をそれほど持たなかった、ゆるふわ高齢者がウジャウジャいる社会。空恐ろしいわよね。だから、アタシはもうちょっと稼いでおきたい……と思う。オッサンがキレイでいるには、アナタたちより金かかりそうだし(笑)。

アタシたちが乗ってる船はかなり危ないのよ!

日本の産業だって、まだまだ素晴らしい技術屋さん、職人さんはいっぱいいるけど、中国・韓国、そして次は東南アジアが来るのよね。人口のパワーって明確なのよ。かと言ってGoogleとかApple、ハリウッドがあるアメリカみたいにソフトウェアでの完全リードはできない。日本には歴史のある独自の文化があるし、もちろんジャパニメーションはじめクールジャパンが推していることも素晴らしいけれど、でもまだ世界の「オタク枠」「通好み」じゃない? 私はエヴァもPerfumeも和風旅館も大好きだけどさ。

人口・やる気・技術……と、世界と競り合う武器がどんどん減っていく中、私たちが乗っている船はかなり危ないのよ。売りがなくなり船員も減ってる船の中で、アナタをはじめ、とりあえずのゆるふわライフを送ってきた人たちは、若い頃にとくに何も築けなかったババアジジイになるの。それを前もって想像して覚悟しておくのが、気楽さに対する責任よ。その時になって、なんでこんな社会なのーって言わない。どんなしょっぱい未来が待っていても、その中でもゆるーく「おなかすいたな☆」とか言ってられるなら、アッパレだけどさ。

「爪痕を残してやるわ」とギラギラしてほしい

こんなキワモノ寄りのキャラで自営業してるアタシだって、賭けに出てるってだけだから、老後どうなっているかわからない。ゆるふわコースより早く、のたれ死ぬ可能性も十分あるわね。でももし大失敗したとしても、自分が始めたゲームだからしょうがないと思ってるわ。

ゆるふわ人生の皆さんにもいつか、ものすごい孤独と絶望が吹き荒れるかもしれない。だからこそ今はその場しのぎでも楽しく生きとくって考え方も一理あるし、もちろん正社員じゃなくてもいいんだけど、アタシ個人としては、とくに女子の中に「私はこんな先の見えない世の中で必死にもがいて、人生を生き切ってやる!」なんてギラギラした子が増えてくれるほうが嬉しいし、より応援したいって気持ちではいるわ。

(構成:穂島秋桜)

SHARE Facebook Twitter はてなブックマーク lineで送る
PR

この記事を読んだ人におすすめ

この記事を気に入ったらいいね!しよう

あなたの未来がしょっぱくても、それは気楽さに対する責任よ ブルボンヌ先生が“ゆるふわOL”に送る言葉vol.2

関連する記事

編集部オススメ

2022年は3年ぶりの行動制限のない年末。久しぶりに親や家族に会ったときにふと「親の介護」が頭をよぎる人もいるのでは? たとえ介護が終わっても、私たちの日常は続くから--。介護について考えることは親と自分との関係性や距離感についても考えること。人生100年時代と言われる今だからこそ、介護について考えてみませんか? これまでウートピで掲載した介護に関する記事も特集します。

記事ランキング
人が回答しています