待望の赤ちゃんを出産しようとしたら「うちで分娩はできない」と病院で断られた……。
そんな出産難民が、今後さらに増えていくかもしれません。医師専用サイト「MedPeer」(メドピア)が実施した産婦人科医不足に関する調査によると、医師の約半数が「不足している」と回答し、このうち「危機的に不足している」としたのは6.1%にものぼりました。
産科医不足はあなたの街でも起こっている
「あなたの地域で産婦人科医は足りていますか?」という質問に対し、「足りている」は9.2%、「どちらかと言えば足りている」は21.8%となりました。その一方で「危機的に不足している」は6.1%、「不足している」は19.9%、「どちらかと言えば不足している」は23.4%となり、合わせると49.4%が不足しているという結果に。
地域別にみるとワースト1位は福島県で、続いて島根県、青森県の順でした。反対に、産婦人科医が足りているのは京都府、大阪府、東京都、兵庫県などの都市部が目立ちます。しかし「お産を扱わないレディースクリニックは次々と開業しているが、お産を扱うところは極めて限られている印象」(50代、眼科、東京都)という声から、産婦人科医不足は日本国内で蔓延している状況だとも言えます。これは言い換えれば、出産難民になる可能性は誰にでもあるということです。
原因は若手産婦人科医の減少?
ではなぜ産婦人科医は不足しているのでしょうか。勤務時間が不規則で体力も必要となる産婦人科医は、60歳をめどに分娩を取りやめるケースもあり、医師の高齢化によって分娩施設数が減少しているということが考えられます。しかし一番の問題は、産婦人科医師を目指す若手の育成が進んでいないという点にあります。
24時間体制の激務に加え、慢性的な産婦人科医不足によって医師ひとりにかかる負担が増加。さらに医療訴訟のリスクなどを考えると、産婦人科医になるのを躊躇してしまうという若手医師は少なくないようです。
・足りないという話は聞きませんが、新卒の希望者は減少しています(40代、血液内科、兵庫県)
・正常分娩でも対応は主治医制なので、いつも待機になっており辛そうです。人数が来年度は更に減る予定です(30代、循環器内科、島根県)
・誰か一人がたおれたら、即、危機に陥るでしょう(40代、その他、高知県)
・医師の科の偏在で、産婦人科医は少子高齢化とともにどんどん減少している(60代、一般内科、山口県)
・産科医不足は危機的であり産科医の過労死が問題になっている(50代、整形外科・スポーツ医学、鹿児島県)
このような現役医師の訴えから、産婦人科医の厳しい現状が伝わってきます。日本産科婦人科学会によると、新人の産婦人科医数は年々減少しており、同会の入会者数をみても2010年の491人から2014年には334人にまで少なくなっています。(参照:「わが国の産婦人科医療再建のための緊急提言」
これは医師臨床研修制度の改正によって産婦人科が必修科から外れた時期と重なっており、同会は研修制度を改めないと将来、産婦人科医の不足がさらに悪化すると警鐘を鳴らしています。
出産難民にならないための予防策とは
筆者も出産難民を経験したひとりです。第一子を妊娠したときは出産についての知識や問題意識もなく、近くの雰囲気の良さそうな病院で出産しようと呑気に考えていました。しかし初診で言い渡されたのは「分娩は受けつけていません」という衝撃的な言葉でした。頼りにしていた先で断られるというのは思いのほかショックなものです。幸い、筆者の場合は次の病院で引き受けてもらうことができましたが、分娩施設が遠方にしかないというケースもあり、妊婦の心身への負担はかなりのものです。
出産難民とならないための手段としては、妊娠が分かったら即、周辺の分娩施設情報を集めることが重要です。大きな病院でも産科を取りやめたというところもあるため、「産婦人科」と看板が出ていても分娩を行っているかどうか必ず確認しておきましょう。
また、里帰り出産を断られたという話も耳にします。近隣地域の産婦人科医不足の影響で、市外や県外から施設のキャパシティを超えるほどの分娩希望が集まるため、妊娠初期から定期健診を受けてきた妊婦を優先しているという病院もあるのです。里帰り出産を希望する場合は早めに電話などで分娩希望を伝え、病院との間で意思を交わしておく必要があります。また定期健診は病院との信頼関係を築くものととらえ、分娩希望の病院できちんと受けるようにしましょう。