『私、いつまで産めますか?』著者、生殖工学博士の香川則子さんインタビュー(後編)

産むか、産まないか、決めるのは他人じゃない “卵子のプロ”が語る、母親になるために必要なこと

産むか、産まないか、決めるのは他人じゃない “卵子のプロ”が語る、母親になるために必要なこと

生殖工学博士の香川則子さん

前編では、『私、いつまで産めますか?―卵子のプロと考えるウミドキと凍結保存―』の著者・生殖工学博士の香川則子さんに、卵子凍結の現実についてお伺いしました。後編ではアラフォー独身の筆者がカウンセリングを体験してみました。

>>【前編はこちら】『私、いつまで産めますか?』 著者が語る、不妊治療の現実と女性の可能性を広げる“卵子凍結保存”

    「あのときこうしておけば……」と後悔しない選択をするのはあなた自身

――卵子凍結のリスクや手術内容、費用は理解しましたが、私はもうすぐ37歳だというのに、子供を産むかどうか、まだ自分の気持ちがハッキリしません。これでは卵子凍結保存に不適正ですよね……。

香川則子さん(以下、香川):子供を持つか持たないか、自分で決められないという方にもよく出会います。母親から「結婚がまだなら卵子凍結して」と言われてカウンセリングに来る方もいるくらいです。でも、前編でもお話したように卵子凍結は医療行為で、それを受けるのはご自身の体です。もし万が一、事故があったときに「誰かに言われたから」で自分を納得させることができますか? 

――子供は産んだ方がいいと思いつつ、出産の痛みも怖ければ、産んだ後の子育てが自分にできるか不安です。正直、まだ自分の人生を楽しみたいという気持ちもあって、産まない方がいいのかと思ってしまいます。

香川:今は無痛分娩もあるし、子育てはご両親や地域のサービスなど頼れるところに頼ればいい。子供が産まれてからの生活にも楽しいことはいっぱいあります。今、お聞きした悩みにはひとつひとつ解決法があるのに、自分ひとりで「私は産まない方がいいんだ」と思うのはどうでしょう? 将来赤ちゃんを授かれる可能性があるのに、それをあきらめていいですか? どちらにせよ「あのときこうしておけば……」と後悔しない選択をすること。そしてそれを決めるのは他でもないあなた自身です。

――正直、先生に「不適合です」と言われると思っていたので、正直ビックリしています。先生が不適合と判断する人はどんな方なのでしょうか?

香川:悩みがある人はそれをひとつひとつカウンセリングで解決していくことができます。でも厳しいのは「より多く採卵するためには何をすればいいですか?」「卵子が採れたから妊娠できますよね?」というような人。頭がガチガチに固まっていると、希望通りにならなかったときの対応能力がないので、心の傷も深くなってしまいます。

    自分なりの「オフの仕方」を持つことはきっと末永く役に立つ

――でも、卵子凍結するからにはやっぱり結果を出したい。それは誰もが思う自然なことだと思うのですが。

香川:私が思う妊娠に大切なことは頑張ることではありません。「病気をしない」「タバコを吸わない」「夜更かししない」「太り過ぎない」「ストレスをためない」……と「なくしていく」、オンじゃなくてオフにすることです。頭も心もガチガチな人よりも、リラックスしてふわっと気持ちが開いている人を赤ちゃんも選ぶと思いませんか? 本書ではそんなひとりでできる“エア妊活”を詳しく紹介しているんですよ。

仕事も妊娠もつい突き詰めて自分をがんじがらめにしてしまうと、これから妊娠や出産、子育ての場面で遭遇するであろう「思い通りにならないこと」に対応できません。映画や散歩をする、お風呂にゆったりつかる。どんなことでもいいので自分なりの「オフの仕方」を持つことはきっと末永く役に立つと思いますよ。

そして、散々高齢出産の成功率の低さを話してきましたが、私が不思議に思っていることがあります。卵子凍結保存をした後にパートナーが見つかる人や結婚する人、そして自然妊娠する人がとても多い! これは「卵子凍結保存をしよう!」と決めて、母親になる準備を体と心がした結果だと思います。きっと今以上に自分の心の声を聞き、体を大切にしたからこそ、肩の力がフッと抜けて赤ちゃんがやってきてくれたんでしょうね。

――先生とお話させて頂いて、自分の気持ちが「産まない方がいい」から「やっぱり産みたいのかも」と変化した気がします。まだハッキリと「産みたい!」と思えない自分にモヤモヤしてしまいますが……。

香川:カウンセリングに訪れる方達も、私と話をしていく中で自分の人生を見つめ直します。理想と現実、その間で揺れる気持ちを話すことで、自分でも気付かなかった新しい発見があるようです。そうやって一度きちんと掘り下げて考えることができれば、どのような結果になっても納得できるのではないでしょうか。「あのときに知っていれば……」「可能性があったのに、検討もしなかった」と後悔しないためにも、自分の人生を見つめ直すこと。それが妊活の第一歩だと思います。

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