映画監督・佐々木誠さんインタビュー

「障害者はセックスしない」は偏見―マイノリティの性に迫った映画監督が語る“本能で楽しむセックス”

「障害者はセックスしない」は偏見―マイノリティの性に迫った映画監督が語る“本能で楽しむセックス”
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障害者の性に迫った映画監督インタビュー

佐々木誠氏

以前、ウートピ世論で行ったアンケートでは約25%の読者が処女という結果になりました。筆者の周りにも自分の「性」と向き合うことに恐怖を感じ、未経験のままアラサーを迎える友人は確かにいます。

“誰かととにかくセックスをすれば良い”という問題ではありませんが、その分野で活動されている方から、未経験の女性たちが陥っているかもしれない心の闇やディスコミュニケーションを解決するヒントは得られるかもしれません。

ということで、若者や障害者のセックスのあり方に迫ったドキュメンタリー番組『バリアフリー コミュニケーション ぼくたちはセックスしないの!? できないの!?』(フジテレビ NONFIX)や、2月14日公開の映画『マイノリティとセックスに関する、極私的恋愛映画』など、マイノリティの性をテーマした作品を手がけている映画監督の佐々木誠さんに、性とコミュニケーションについてお話を伺いました。

世間では「社会的マイノリティの人たちはあまりセックスをしない」という偏見がある

――佐々木さんはどういった理由から障害者の性をテーマとした作品を撮り始めたのでしょうか。

佐々木誠さん(以下、佐々木):こういった分野に元々興味はなかったんですが、2007年に裸をテーマにしたオムニバス映画の企画の依頼で障害を持った友人と作品を作りました。きっかけはそこからですね。

――撮影を通して見聞が広がったという感じでしょうか。

佐々木:そうですね。その友人は、僕より全然セックスをしていて、性生活がとても充実していたんです。世間では「社会的マイノリティの人たちはあまりセックスをしない」という偏見がまだあるみたいすが、僕は元々当然という認識だったので、その違和感を突き詰めるとマイノリティとマジョリティの境界線って、単なる物事の見方次第で生まれるすごく曖昧なものだということも分かってきました。

――今回の映画はどのような作品なのでしょうか?

佐々木
:“マイノリティとマジョリティの境界は誰が決めるのか?”というテーマで、架空の人物である撮影者が対象に迫るというフィクションとドキュメンタリーを曖昧にした構成になっています。こちらから「答えはこれです」と言うのではなく、問題を提示して皆さんがどう考えるのか、皆さん自身が答えを見つける問いを投げかけたいと思いました。

障害者向けの風俗店で働く女性は「人の役に立ちたい」と思っている

――佐々木さんは障害者向けの風俗で働いている女性にも取材されていますが、その方々はどのような意識で働いてらっしゃるのでしょうか?

佐々木:色々な方がいると思いますが、僕が取材をした内の一人の方は、元々普通の風俗店で働いた後、ちょっと違う方向で人の役に立ちたいと思って始めた方でした。お金になるだけでなく、純粋に障害がある人の支援もできますから誇りを持って仕事をしている人は沢山いると思います。勉強して介護の資格を持っている人もいますし、資格の取得を義務づけているお店もありますね。

――障害者向け風俗の中には、女性向けもあるのでしょうか。

佐々木:あるという話は聞きますね。僕はこれまで男性の事例を扱った作品が多いので、次は女性向けの障害者風俗店について取材しなきゃと思っています。

コンプレックスは障害者も健常者も似たようなもの

――取材された障害者の方の中でも、やはり女性は自身のセックスについて語るということには消極的だったのでしょうか。

佐々木:やっぱり女性の方が恥ずかしがられますよね。それは仕方のないことだと思いますし、僕も取材に応じてくれる方だけ対象としてきました。

とある身体障害者の女性に出会ったんですが、20代の時は自分の体が醜いし、体位も限られているからセックスをするのが嫌だったと言っていました。僕はその時「俺も自分の体の嫌いなところたくさんあるし、皆コンプレックスは一緒だよ」と言ったんです。そしたら「勇気をもらえた」と言ってもらえて。結局、相手にどう思われるだろうかっていう感覚って別に健常者も障害者も一緒だな、と思いましたね。

「共感できない=ダメ」ではない

――未経験のアラサー女性については、どうお考えでしょうか。

佐々木:皆さんそれぞれに理由があるでしょうし、一概には言えませんが、もしかしたら考えすぎなのかなって思います。僕は取材を通して、セックスってエンターテインメントの部分がもちろんあって、コミュニケーションがどうのこうの前に、まず本能で楽しむことが必要だなと思いました。

あと、マイノリティとマジョリティの境界線は曖昧ですけど、男と女の境界線は確かにあると思います。例えば僕も「女性やゲイの方たちの気持ちがわかる」とは言い切れないです。良い意味で、みんな自分と違う他人だと諦める大切さというか。それをわかった上でどう乗り越えていくか。だから「共感を求めすぎる」というのは、異性間においては難しい部分があると思います。

――確かに、「自分のことを何でもすべてわかって欲しい」という気持ちが強すぎると他人と向き合うのは難しいですよね。

佐々木:そうですね。相手が自分に共感してくれなくてはダメ、また、他人に対して完全に共感できなくてはダメ、ということもない。共感ができなくても、恋する気持ちはわかるし、一緒に美味しいものを食べることができる。そういう部分は同じなんだという想像力を持って対話することで、開けてくることはあると思いますね。

(笹崎ひかる)

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