結婚や出産、子育てなどのライフイベントごとに必ずといっていいほど選択を迫られるのが「仕事の継続か、離職か」という問題です。内閣府がまとめた厚生労働省「第10回21世紀成年者縦断調査」(平成23年)によると、結婚を機に仕事を辞める女性は27.7%にものぼります。仕事を継続する女性は子どもの出産でさらに減り、第1子出産で32.8%、第2子出産で23.1%、第3子出産で12.8%にまで少なくなってしまいます(参照:ライフイベントによる女性の就業形態の変化(平成23年))。
退職した女性社員を再雇用する「ジョブ・リターン制度」
しかし企業の方でも、戦力となる女性社員の流出は不利益となるため、これを見直す動きが出始めています。一度退職した女性社員を再雇用する「ジョブ・リターン制度」は、子育てがひと段落した元社員を採用するシステムです。元社員の再雇用は即戦力として期待できる上、職務経験や知識も豊富で高いスキルを持っていることから、優秀な人材を確保する手段として利用する企業が増えているのです。
たとえばライオンでは、キャリア採用枠とは別に、ジョブ・リターン制度による再雇用枠を設けています。またブリヂストン、トヨタ自動車、ニトリなどでも、勤続年数や退職後の経過期間など会社によって条件は異なりますが、同様の制度を導入しています。
7割の企業が出戻りOK!
元の職場への出戻りは、女性に限った話ではありません。再雇用される元社員は「出戻り社員」「ブーメラン社員」と呼ばれ、一般化しつつあります。人材サービス会社のエン・ジャパンも、出戻り社員を積極的に採用している会社のひとつ。同社が実施した「出戻り社員(再雇用)」についてのアンケート調査によると、72%もの企業が「出戻り社員(再雇用)の受け入れを行ったことがある」と回答していたことが分かりました。
出戻り社員を採用した理由については「即戦力を求めていたから」39%、「人となりが既にわかっているため安心だから」38%と高い割合を占めました。そのほか「採用・教育コストを抑えたかったから」8%、「スピーディーな採用を実施したかったから」8%と納得の理由が並んでいます(複数回答)。
人手不足の影響で、最近では中途採用の募集をかけても思うように人材が集まりません。採用コストを抑え、かつ希望通りの人材を得るために、子育てがひと段落した元女性社員に直接声をかける「カムバック・コール」を行う企業もあるといいます。また反対に、元社員の方から人事や現役社員を通じて再雇用の相談を受け、採用に応じたというケースもありました。ジョブ・リターンを「制度として設けている」企業は9%とまだまだ少ないのですが、今回、初めて出戻り社員の実態調査を行ったエン・ジャパンも、ウートピの取材に「企業が即戦力の採用手段として取組みはじめている」とコメントしています。
出戻る可能性も考えて、退職時は「跡を濁さず」
出戻り社員に対する職場の反応は「まあまあ良い」が57%、「とても良い」が13%で、7割が好感触という結果に。「旧知の仲が帰郷したような雰囲気で迎えられていた」「やっぱりウチは良いだろ?と社員同士が肩をたたき合う様子を見るとグッとくる」というコメントも寄せられています。出戻り社員の方も、「世間の厳しさを知って、以前より前向きに働くようになった」と謙虚な思いを口にしています。旅に出た子が一回り大きくなって帰ってきた。そんな温かい雰囲気で迎えられているようです。
一方で、「あまり良くない」という反応も15%ほどありました。中には「すぐにまた辞めてしまうのでは」「既存社員のやる気に多少影響があった」という厳しい意見も。出戻りをスムーズにすませるには、周囲への気遣いや態度に注意を怠らないことが大切なのかもしれません。
今後ますます増えていく予感のジョブ・リターン。即戦力と人材確保の観点から、企業側にもメリットが大きいため、制度化していく会社も増えていくと思われます。仕事を辞めるときには出戻りの機会を考慮して、「立つ鳥跡を濁さず」の精神で退職することが最善のように思われます。