昨年11月、大阪で31歳の女性が生活に困った末に餓死するという事件が起こった。ガス・電気・水道などのライフラインはすべて断たれ、冷蔵庫には中身のないマヨネーズしかなかった…などの悲惨すぎる状況が報じられ、「若い女性の貧困」が社会問題として注目を集めている。若い女性が、それほどまでに生活に困るのはなぜか。実際に、筆者が理事を務める困窮者支援団体に相談された事例からみてみよう。
30歳女性・Aさんの場合
首都圏に住む30歳のAさん。一人暮らしだ。大学を出た後、正社員で就職したものの賃金は安かった。節約しながらの生活。貯金もしていたが、低賃金・一人暮らしでは、それほど大きな額が貯まるわけもなかった。
そんな中、友人の紹介でつき合い始めた男性と彼の家で半同棲生活となるも、しばらくして彼のDVが始まった。まさか友人の紹介でそんな目に遭うとは思わなかったAさんだが、とにかく荷物をまとめて彼の家を出た。また居場所を知られないように自分の家も転居を余儀なくされた。
しかし勤務先は知られているので、「会社の近辺で待ち伏せでもされたら…」と不安になったAさん。思い切って上司に相談してみると、終業後飲みながら親身に話を聞いてくれた…と思った。しかし、帰り道、ホテルに連れ込まれそうになり、断ると翌日からパワハラが始まった。
元彼について地域のDV窓口や警察にも相談したが、「元交際相手は配偶者ではない」「今は緊急性がない」と取り合ってもらえなかった。結局、元彼への不安や恐怖、上司からのパワハラでうつ病になり、退職するハメに。その後、日払いのアルバイトなどでつなぐが、転職もかなわず、手元の貯金は減っていく。保険料、医療費も高額で支払えなくなり、病院にも通えなくなった。
田舎の両親は既に高齢で年金生活。自営業だった両親の年金の支給額は少なく、さらに無職の姉が同居しており、頼れる状況ではなかった。Aさんの手元にあるお金は3万円を切っていた…。
不運が重なれば誰でも貧困に陥る
Aさんのケースは典型例だ。何か一つの原因で食べるものにも事欠くほどの貧困状態に陥ることは少ない。
仕事が低賃金過ぎてあまり貯金できない中失業した、虐待やDVなどがあり手元に資金のない中逃げてきた、病気や高齢の家族に援助していたら自分も共倒れに…など、いくつかの要因が運悪く重なりどうにもならない貧困状態に陥る。
一度ハマると脱け出せない2つの “貧困スパイラル”
そして一度困窮してしまうと、「仕事」と「メンタルヘルス」の状況悪化によって、負のスパイラルに陥ってしまうことが非常に多い。
貧困状態では仕事は選べない。所持金が5万円を切った状態なら、すぐにお金がもらえる日雇いの仕事しかない。もう少しお金があってすぐに就職が決まるようなら初めての給料日まで食いつなげるが、そんなに簡単に決まる会社は離職率の高いブラック企業である可能性も高い。実際、貧困状態にある人はブラック企業につかまりやすい。日雇いの仕事が切れたり、ブラック企業で使い捨てられれば、すぐに生活が立ち行かなくなる。こうした働き方は「その場しのぎ」にしかならない。
また、働けず貧困状態にある人の少なからぬ女性が、Aさんのようにメンタルヘルスの問題を抱えている。一度メンタルヘルスに問題を抱えた人が貧困状態になると、医療費がないために病院にかかれない、日雇いの仕事やブラック企業での労働でもやらなければならないなど、無理をしている間に健康状態はさらに悪くなる。病気が重症化すれば、当然仕事はできなくなる。
公的制度を使って体制を立て直すしかない
こうした“貧困スパイラル”に陥った状態で、頼れる家族もいないとすると、何か公的な制度に頼ってまずは体制を立て直すことが大切であり、その最たるものが生活保護だ。
しかし、どんな状態であれば生活保護受給に該当するのか? 実際、窓口で受給をはばまれる水際作戦もあり、本当に生活保護が受けられるのか、受けてもいいのか、不安もあるだろう。次回「後編」では、万が一のときに参考にして欲しい生活保護申請のノウハウをお伝えする。