『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』著者・E.L.ジェイムズさん、官能小説家・大泉りかさん対談(前編)

【対談】日英2人の女性官能作家が語る―女性向け官能小説が世界で流行する理由とは?

【対談】日英2人の女性官能作家が語る―女性向け官能小説が世界で流行する理由とは?
左:E.L.ジェイムズさん、右:大泉りかさん

左:E.L.ジェイムズさん、右:大泉りかさん

世界で1億部の大ベストセラーになった官能恋愛小説『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』(早川書房刊)。大企業のCEOであるクリスチャン・グレイは、一見イケメン大富豪だが、実はSMという特殊な嗜好に耽溺する男。その彼のお眼鏡にかなったのがウブな女子大生のアナ。クリスチャンはアナにある契約を求めます。それは彼女の食事や睡眠、セックスに至るまで、事細かに定められた契約書。しかしクリスチャンとアナは、契約で結ばれた以上の関係を結んでいく……という純愛官能小説です。

2月13日には同名映画も公開されるこの小説の著者E.L.ジェイムズ女史が来日。そこで、ウートピでは、本サイトの連載コラムが好評の官能作家・大泉りかさんとジェイムズさんの対談を企画。日英官能作家対談が実現しました!

英国と日本の官能小説の相違点、読者の違い、SM官能表現についてなど興味深い話はもちろん、映画『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』の話もありますよ。

SMプレイの刺激+ロマンスがジェイムズ的官能の魅力

大泉りかさん(以下、大泉):『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』とても面白かったです。ジェイムズさんは主婦からこの小説で作家デビューとなったわけですが、この小説を発表した経緯は?

E.L.ジェイムズさん(以下、E.L.):もともとヴァンパイアと人間の恋愛を描いた小説『トワイライト』シリーズの大ファンで、その影響を受けて執筆したのが『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』なのです。執筆のきっかけはBDSMに関する書籍を読んだこと。BDSMには契約書が存在し、その契約書とはどのような物かしら、と興味を持ったことから、この小説は始まりました。

※BDSMとは、特異な嗜好をひとまとめに表現した言葉。B:ボンテージ(拘束)D:ディシプリン(体罰)S:サディズム(加虐)M:マゾヒズム(被虐)

大泉:英国にはBDSMを扱った小説は多いのですか? それらとジェイムズさんの小説の違いは何でしょう?

E.L.:BDSMの小説は英国にはけっこうありますね。ただ他の小説と私の小説の違いは、ロマンス要素が多いこと。根底には情熱的なラブストーリーがあります。男女が障害を乗り越えて愛し合うという物語はみんな好きでしょう。そこに惹かれたのではないかしら。

大泉:なるほど。英国の他の官能小説はラブよりSMプレイが中心なのですね。

E.L.:Yes! それに他の小説はあまり美しくない言葉でセックスを表現している場合が多いのです。私はそういう汚い言葉を使うことは絶対にしないから、そこが女性に受けたのかもしれないですね。

大泉:日本でも最近、女性向けの官能小説が流行しつつありますが、やはり男性向けのものと比べると、ロマンチックなラブストーリーが根底にあるものが主流です。『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』は恋愛の中に情熱的なSM的官能シーンがあるところが良かったですね。

E.L.:やっぱりロマンスは必要ですよね。ロマンスに官能の刺激! 私の小説はそこが狙いなの(笑)。ただ、刺激的なだけでなく、純粋な恋心もじっくり描いているのよ。2人それぞれがお互いによって変化していく様子や歩み寄ろうとする姿に引き込まれるはず。

ヒロインが、ウブだけど強いところがいい!

日英の官能小説家が語る「恋愛とSM」

(C) 2015 Universal Studios

大泉:ヒロインの女子大生アナはイノセントだけど強いですね。エリート男クリスチャンの言いなりにならないところが私は好きです。

E.L.:アナは、シャイで読書好きで男を知らないけど、かわいらしくて思いやりがある。そこがクリスチャンの心を捉えたのです。でも彼とのメールのやりとりでは、けっこうストレートにモノを言うでしょう。そこがアナの特徴です。彼女、実はとても強い女性よ。

大泉:こういうシャイな女性って、モジモジして歯がゆく思うタイプが多いのですが、アナは違う。好きな男性で、かつ、超エリートのお金持ちという、ある意味で自分と格差がある相手でも、言うべきことははっきり言うところが爽快でした。等身大で共感しやすいキャラクターでありながらも、人間として尊敬できる部分があるのが、読んでいて好感が持てます。日本の女性は「言いたくても言えない」っていうタイプの女性が非常に多いんですが、そういう女性たちにも勇気を与えるのではないでしょうか。それにしてもクリスチャンは複雑な男ですよね。

E.L.:一見すると権力を持った男らしい人で私の大好きなタイプです(笑)。でも心の内に脆さを抱えていて、実はとても弱いの。アナの方が心は強いくらいよ。彼の脆さは続編『フィフティ・シェイズ・オブ・ダーカー』を読めばわかるわ。

必ずセックスシーンを求められる官能小説家の悩み

大泉:ところでジェイムズさんは、セクシーな小説を書かないという選択肢はないのですか? やはり官能シーンは必要なのでしょうか?

E.L.:そんなことはありません。セックスシーンのない恋愛小説も書いています。でも出版社に持っていくと「もうちょっと付け加えることあるでしょう」と言われてしまうの。

大泉:わかります。私もよく言われます! もう少し前戯のシーンを長く、とか、挿入している最中の描写を増やしてくれ、とか。

E.L.:でしょう(笑)。

大泉:男性向けに官能小説を書くことはありますか?

E.L.:NO。『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』についても男性記者相手に話すのは恥ずかしいのです。そういう素振りは見せていないけど、本当は恥ずかしいのよ。

大泉:そうなんですね。でもこの小説は、男性も楽しめる要素もたくさんあると思います。それに、この本を読むと女性の「こうされたい」という本音がわかって、モテるようになると思うので、ぜひ読んで欲しいですね。

E.L.:男性からもファンレターが来ますよ。70代の男性から「恋をしたくなった」というお手紙をいただいたり、軍人の方から「すっかりハマってしまった」というメールが来たり。もっとこういう小説を……と男性からのリクエストも多いのです。

>>【後編に続く】女の「してほしい」を叶えるのが官能小説―女性作家が語り合う、日英セックスシーンの意外な共通点

フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ
2015年2月13日全国ロードショー

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