「生命科学アカデミー」金沢工業大学院・小島教授に聞く5

脳の健康はこれからどうなる? 専門家と考える人生120年時代

脳の健康はこれからどうなる? 専門家と考える人生120年時代

「人生120年時代のわたしたちへ」
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人生120年時代は、自分の健康を自分で守っていく時代にもなるはず。できるだけ長く健康寿命を延ばすために今わたしたちができることとは——?

「健康長寿」を目指しながら、年齢を巻き戻す「エイジングケア3.0」という新しいフェーズを提案する「fracora(フラコラ)」。同ブランドが運営するYouTube番組「生命科学アカデミー」では、最先端の生命科学の知識を紹介しています。

今回「生命科学アカデミー」に金沢工業大学院バイオ・化学部/応用バイオ学科教授の小島正己(こじま・まさみ)先生が登場。同番組のホストをつとめるHIROCO学長が、脳の健康のメカニズムについて迫ります。

最終回となる今回は、脳科学の現在地と未来について教えていただきました。

小島先生(左)とHIROCO学長(右)

脳科学の進歩には他分野との連携が必要

HIROCO学長(以下、——)小島先生は、脳のタンパク質である「BDNF(Brain-Derived Neurotrophic Factor : 脳由来神経栄養因子)」の研究を通じて、脳のメカニズムや健康長寿について研究していらっしゃいます。脳科学の未来は、この先どのようになっていくとお考えですか?

小島正己先生(以下、小島):脳科学が進歩するためには、ほかの分野も進歩しなければいけません。さまざまなテクノロジーや、生物学の知識が進んでいくことで、初めて解明されることもあるわけです。

実際に、異なる分野の技術が、脳科学を非常に進歩させた例もありますね。なかなか理解できない分野、未知の分野は、そうやって解明が進んでいく。それは、脳科学だけでなく、科学全般に言えることだと思っています。

――神経細胞間の情報伝達を行うシナプスのように、多様な分野と手を取り合いながら進めていく形なんですね。

小島:おっしゃる通りです。脳科学の未来という話でいえば、私は今、BDNF創薬を見据えて研究をしています。また、BDNFとうつ病の関係などは、世界的に研究が進んでいます。

BDNFは血液や唾液に含まれているので、将来的には、脳の健康状態を見える化するためのバイオマーカー(病状の変化や治療の効果の指標となるもの)になる可能性も。いち指標ではありますが、BDNFを毎日自分で測り、脳の健康管理について、スマホで教えてもらえるような未来も考えられるということですね。

病気の原因を狙い撃ちする「抗体医薬品」

――病院で診察を受けるまでの間に採血をして、BDNFの値を見られるようになると、「自分の脳はいまこういう状態なんだ」と把握できるようになりますね。

小島:私たちは、数値が出ると安心するんですよね。「BDNFが上がっていますよ」と言われたら、生活習慣を維持していこうという気持ちになると思います。そういう未来を実現させるためには、BDNFを捕まえる抗体がカギになります。

抗体というのは、簡単に言えば防御システムのこと。今、世界中で抗体を作る技術やデザインする技術が盛んに研究されていて、BDNFだけを捕まえるような「抗体医薬品」も作られようとしています。

1つの薬ができるまでには、5年や10年といった長い月日がかかるので、まだまだこれからではありますが……「人生100年時代」を考えると、私たちが生きている間に、抗体を利用した医薬品が増えていく可能性も高いです。

――抗体医薬品によって治るような病気も、既に出てきているのでしょうか。

小島:はい。昨年、アルツハイマー型認知症の患者に抗体医薬品を投与することで、改善効果が見られたという研究成果が発表されました。

技術のつながりが脳の健康長寿を促進する

――抗体医薬品の効果が実証されてきているわけですね。抗体は、もともと人間が持っている機能なので、従来の医薬品に比べて安全性が高いのでしょうか?

小島:そうですね。抗体には、体内に入ってきては困る特異な物質を捕まえる能力があり、我々がよく飲む薬に比べると、副作用が出にくいと言われています。

そもそも抗体というのは、タンパク質なんですよね。タンパク質はDNAからできていて、DNAは組み替えることができます。つまり、抗体をより優れたものにデザインできるといった利点もあります。

――BDNFの抗体医薬品にデメリットは?

小島:実は、BDNFに似た構造で、悪さをするタンパク質があります。これは、私たちが発見したものです。今、金沢工業大学の学生と一緒に、そのタンパク質を抑える抗体を作ることに取り組み始めています。もちろん、学生だけでなく、さまざまな分野の専門家の知恵をお借りしながら、実現できればいいと思っていますね。

――世代や分野を越えた共同研究が、脳科学の進歩につながっていくんですね。

小島:「私が持っているこの技術が使えるよ」「会社が開発したこの技術が使えるよ」という風に、脳科学に興味を持ってもらうことが、我々の体を守っていくことにつながります。そういう未来を作りたいという専門家の方と一緒に、協業する体制を築いていけたらうれしいですね。

――小さな技術がつながっていくことで、脳の健康長寿が、より早く確実なものになっていくんですね。小島先生、このたびはありがとうございました。また新しい研究成果が出てきましたら、ぜひインタビューさせていただければと思います。

(完)

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