人生120年時代は、自分の健康を自分で守っていく時代にもなるはず。できるだけ長く健康寿命を延ばすために今わたしたちができることとは——?
「健康長寿」を目指しながら、年齢を巻き戻す「エイジングケア3.0」という新しいフェーズを提案する「fracora(フラコラ)」。同ブランドが運営するYouTube番組「生命科学アカデミー」では、最先端の生命科学の知識を紹介しています。
今回「生命科学アカデミー」に金沢工業大学院バイオ・化学部/応用バイオ学科教授の小島正己(こじま・まさみ)先生が登場。同番組のホストをつとめるHIROCO学長が、脳の健康のメカニズムについて迫ります。
第3回目は、脳の神経回路に関する最新研究について教えていただきます。

小島先生(左)とHIROCO学長(右)
神経細胞は壊れても再生する!?
HIROCO学長(以下、——)脳は神経回路が一度壊れると治らないと伺いました。ところが、最近の研究によって、神経回路が壊れても治る可能性があることがわかってきたとか。その研究について詳しく教えてください。
小島正己先生(以下、小島):大阪大学の生命機能研究科に山本亘彦先生という方がいらっしゃいまして、その先生は、神経回路が形成されるしくみについて長く研究されてきたんですね。
私が研究している、脳のタンパク質である「BDNF(Brain-Derived Neurotrophic Factor : 脳由来神経栄養因子)」も、神経回路が作られる過程で重要な役割を果たすため、共同研究*を行うことになりました。
*https://www.kanazawa-it.ac.jp/kitnews/2022/0117_kojima.html
その研究の一環で、神経回路を壊してみたところ、なんと修復・再生したんです。これは、脳科学の分野で非常に大きな発見であり「ジャーナル・オブ・ニューロサイエンス」というアメリカの有名科学誌にも掲載されました。
――神経回路の再生に、BDNFはどのように関わっているのでしょうか。
小島:この研究以前から、BDNFは、脳が活性化するときに作られることがわかっていました。今回の研究では、神経回路が損傷したときも、やはりBDNFが作られることが判明。
まだ具体的には解明できていませんが、脳がダメージを受けたとき、BDNFを作るシグナルが発せられる仕組みが、脳の中にあるのだと推測しています。
BDNFの働きを良くする食べ物や習慣
——BDNFを、外発的に上げることはできないのでしょうか?
小島:食事や運動など、BDNFを上げる要因については、世界中で研究が盛んに行われています。例えば、インドでよく使われる植物やスパイスもそのひとつ。
私も何十回と現地を訪れていますが、インドでは、植物や食品に関する科学的な調査が進んでいるんです。そのような調査と、神経細胞の培養技術をかけ合わせた共同研究が、世界的に行われています。
——日本でよく食べられている食材の中に、手軽にBDNFを上げられるものはありますか?
小島:現在、研究しているところですね。金沢工業大学がある石川県野々市には、野々市キウイという特産品があります。その野々市キウイとBDNFの関係、あるいは神経細胞の関係について、私の研究室の学生さんが調査中です。また、食品以外に、運動や居住環境もBDNFに関わってくると思います。
——居住環境というのは、開放感がある大きな窓とか、吹抜けがあるとか、気持ちのいいスペースでいかに過ごせるかといったことでしょうか。
小島:そうですね。とにかくストレスフリーな生活をすることが大事なんです。当たり前のようですが、おいしいものをしっかり食べて、健康に過ごすこと。それが、BDNFの向上、ないしは脳の健康寿命を延ばすことにつながってくるのだと思います。
(第4回へ続く)
動画で見る方はこちら