『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』錦戸亮さんインタビュー

自分の物差しで、その人が大変かどうかなんてわからない。錦戸亮と語る「かぞかぞ」のこと

自分の物差しで、その人が大変かどうかなんてわからない。錦戸亮と語る「かぞかぞ」のこと

5月14日よりNHK BSプレミアム/NHK BS4Kにて放送予定の「家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった」(以下、「かぞかぞ」)に出演するアーティストの錦戸亮さん。

2019年に主宰するレーベル「NOMAD RECORDS」を設立して以来、音楽活動を中心にしてきた錦戸さんが約4年ぶりにテレビドラマに出演するとして話題となりました。

錦戸さんに、「かぞかぞ」のこと、音楽活動と俳優としての活動の相乗効果についてなど、単独インタビューで語っていただきました。

俳優・錦戸亮にかけるのは「おめでとう?」「おかえり?」

——独立後、4年ぶりのテレビドラマ出演ということで……。おめでとうございます。お帰りなさい。どんな言葉をかけられるのがしっくりきますか?

錦戸亮さん(以下、錦戸):何でも大丈夫です(笑)。ただ、ドラマに出ることを目標にしてきたわけではないので「おめでとう」と言われると、少し不思議に感じるかもしれません。マイナスな感情じゃないですよ。喜んでもらえるのはシンプルに嬉しいです。

ただ、自分としては、用意していただいた環境に満足するのではなく、観てくださる方にどう届くかを大事にせんとあかんなって。だから出演のニュースがゴールではなく、作品を見ていただけたらいいなと思っています。

——脚本を読んですぐに出演を決めたと伺いました。決め手は何だったのでしょうか?

錦戸:まず、今の自分に声をかけてもらえたことが嬉しかったです。それから、魅力的な主人公とその家族が描かれた脚本にも惹かれました。はたから見ればすごく大変そうな家族なのですが……。今、「大変そう」と言ってしまいましたが、そんな言葉一つで表現するのは申し訳ない気もしていて。

——実際の家族の話(岸田奈美さんの同名エッセイ)がベースになっている“ほぼ”実話なので、言葉にするのが難しいですよね。

錦戸:はい。「こんな家族がいるからみんなも頑張ろうね」という話では決してないので。僕としては変に意味を持たせずに、この作品を成立させるために、自分はパズルのピースのようにそこにおりたいっていう。ただそれだけでした。

「パワフルな家族」は結果であり、他者が思うこと

——他人の「幸せ」や「不幸せ」を自分の基準で決めつけないというのも本作のテーマの一つだと思います。

錦戸:そうやと思います。(主人公の)七実は、中学生の頃に父を亡くし、母も生死をかけた大手術を経て下半身麻痺の状態で生活することになり、知的障害を抱える弟と高齢の祖母のことも気になる。

それだけ聞けば「よく頑張ってきたね」「えらいね」と言いたくなると思うんです。だけど僕としては「それって何なん?」と思う部分もあって。自分の物差しで、その人が大変かどうかわかるのか、相手が望んでいる言葉を差し出せるのか、と。自分だったらどうされたいかってことと、自分と相手は違うってことを想像してみるのが大事なんじゃないかって思うんですよね。

——そうですね。

錦戸:ドラマの中の岸本家は複雑な事情がある中で、しっかり前を向いている家族だと思います。けど、それも結果やと思うんですよね。全員、ただ一生懸命生きてきた。その姿を僕らみたいな第三者が外から見たときに「パワフルな家族でした」と思うっていう。

そういうのって結局、他者がカテゴライズするというか。それぞれの受け取り方なわけですよね。岸本家は、「誰かにこうなってほしいから自分達はこうしています」なんて考えていないわけで。

——作品にどんな感想を抱くかは、人それぞれですからね。

錦戸:もちろん制作意図は制作意図としてあるので、作品にどんな思いを込めてどんなふうに届けるのかは脚本や、監督の腕の見せ所やと思います。僕はその中で、役を全うするっていうだけなんですよ。

「これくらい」で済ませずにすぐ病院へ

——錦戸さんご自身についても聞きたいです。錦戸さんが演じた、岸本家の父・耕助さんとは同じ年ですし、独立したことで責任も増したと思います。ご自身の健康管理について何か意識は変わりましたか?

錦戸:そろそろ健康に気をつけなあかんな思いながらも、生活を変えるところまではできていません。運動もたまに友人とゴルフに行ったり、家でYouTubeを見ながらヨガ*をするぐらいで。食事は前より食べるようになりましたけど、内容にめっちゃこだわるというより、3食ちゃんと食べようって意識に変わりました。

病院には早めに行くようになりました。以前は、「これくらい病院に行かんでも大丈夫やろ」と軽く考えてしまうところもありましたが、今は何か異変を感じたらすぐに行くようにしています。

——睡眠はどうですか? 

錦戸:僕は何かやりたいことがあったら睡眠よりそっちに時間を使ってしまうんですよね。欲のままに生きているので。

——それはそれで、余計なストレスが溜まらなさそうでいいですね。

錦戸:疲れたら眠りますからね。

音楽活動と俳優のシナジーは?

——音楽活動と俳優の相乗効果みたいなものってありますか? 例えば誰かの人生を疑似体験することで、創作にひらめきを得るというような。

錦戸:ないですね。

——即答!?

錦戸:そうできたらいいなと思ったこともありますが、それができるほど器用じゃないというか。映画や本からヒントを得たり、気分転換になったという経験はありますが、自分が出演した作品ではそういうことがないんです。ちょっと客観的に観られないというか、別物なんでしょうね。

——なるほど。錦戸さんの楽曲の詞を読むと、その瞬間の自分が感じていることを大切にされている印象を受けました。だから、今回の撮影では「家族」に対する解像度が上がったのではないかと予測していたんです。

錦戸:そうだったんですね。作品に参加することで、潜在的なところへ蓄積されていくものは何かしらあると思います。それって、錦戸亮という男が生きていれば、自然と溜まっていくものじゃないですか。

——自分の言葉として獲得して初めて出てくるってことですね。

何気ないシーンも覚えていてほしい

——また作品の話に戻ります。耕助は、亡くなっているのに劇中に登場する不思議な存在ということで。どのように物語に絡んでいくのか、少しヒントを教えてください。

錦戸:耕助は、そこにいるのかいないのかわからないというシーンもあれば、家族の回想シーンでも登場します。作中には伏線のような演出もあって、例えば前半の回で使われたシーンが数話後に出てきて、あの笑顔の裏でこんなことを考えていたんだなとわかる。全話を見ることで奥行きを感じられるようになっています。だから、何気ないシーンも覚えていていただけたらと思いますね。

作中より/©NHK

——「かぞかぞ」の視聴者に何か期待することはありますか? 

錦戸:理想を言えば、家族と感想を話す時間が生まれたら嬉しいなと思います。離れて暮らしているなら、ちょっと電話してみるとかでもいいし。

この歳になって思うのは、僕も親もいつまでも生きているわけじゃないということ。今回、ロケで行った冨士霊園はちょうど桜が見頃のタイミングでした。その桜を見ながら、親のことを考えたんですよね。この先どう生きていきたいのか、そんな話を親としてみたいなと思いました。

——親との時間、考えますよね。離れて暮らしていると特に。

錦戸:うん。話しておいたほうがいいこともあるでしょうし、叶えられる願いは今のうちに聞いておきたいなと思います。生きている間にしかできないですからね。

(ヘアメイク:松本 順 (辻事務所)、スタイリスト:本多 徳生、スーツ¥297,000(オーダー価格)/DORMEUIL(ドーメル青山 03-3470-0251))
(取材・文:安次富陽子、撮影:友野雄)

作品情報

プレミアムドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』

©NHK

【放送】2023年5月14日(日)スタート<全10話>
毎週日曜 夜10:00~10:50(BSプレミアム・BS4K)
【原作】岸田奈美
【脚本】市之瀬浩子、鈴木史子
【音楽】髙野正樹
【脚本・演出】大九明子
【出演】
河合優実、坂井真紀、吉田葵、錦戸亮、美保純 ほか
【制作統括】
坂部康二(NHKエンタープライズ) 伊藤太一(AOI Pro.) 訓覇圭(NHK)

https://www.nhk.jp/p/ts/RMVLGR9QNM/

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