細胞の中にあるものを回収して運び、分解して新しいものをつくる「オートファジー」。人間の体内で起こるリサイクルに似たこの仕組みは、私たちの健康や老化に深く関わっています。
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大阪大学大学院生命機能研究科教授/医学系研究科教授の吉森保(よしもり・たもつ)先生をお招きし、オートファジーの最新研究について伺う企画の第2回は最近、話題になることが多い「オートファジーダイエット」について。
Googleで「オートファジー」と検索すると、ダイエットや16時間断食に関する記事がヒットします。果たして、オートファジーダイエットは“本当”なのでしょうか?
※本記事は「生命科学アカデミー」で配信された内容を、ウートピ編集部で再編集したものです。
知っておきたい「オートファジーダイエット」の真実
HIROCO学長(以下、——):最近、「断食」がオートファジーを上げると話題になっていますが、これは本当ですか?
吉森保先生(以下、吉森):細胞がお腹を空かせるとオートファジーを起こして、自分の一部を分解し栄養にするというのが、オートファジーの働きのひとつです。なので、断食したらオートファジーが上がるというのは本当ですが、世間で言われていることには誤解も混ざっていますね。
例えば「16時間断食しないとオートファジーが起こらない」と言われていますが、科学的な根拠はありません。飢餓によるオートファジーの上昇は人間については詳しい実験がされていないのでなんとも言えませんが、動物ではもっと早く起こるし、そもそもオートファジーというのは体の中で常に起こっているんですよね。
断食をすると、体にとって良くないことも起こるので、私は長い断食をあまりおすすめしません。長い断食後に食事をとると、血糖スパイクといって血糖がガーンと上がってしまい、それが動脈硬化の原因になることもあります。
――なるほど。「オートファジーがダイエットを促進する」といった話も聞きますが、こちらはいかがでしょうか。
吉森:結論から言うと、オートファジーがダイエットを促進することはないと思います。戦争や災厄があり、食べ物がなくて餓死寸前の状態になった際は、オートファジーが働いて体がどんどんやせていき、それを栄養にまわします。ただ、そのメカニズムをダイエットに使うのは難しいですね。
――オートファジーと食事の関係で注意しておくべきことはありますか?
吉森:ダラダラ食べ続けると、オートファジーが抑えられてします。オートファジーを上げるためには、間食をセーブしたり、食事と食事のあいだを空けたりするといいですね。
カロリーの高い食事はオートファジーを抑える原因になるので、1食分のカロリーを下げて、脂っこいものはなるべくとらないようにしましょう。また、オートファジーは睡眠中に上がることがわかっているので、寝る前に物を食べないことも大事です。
皮膚の老化は止められる? オートファジーと美容の関係
――オートファジーは、美容とも関係が深いんですよね。先生も関わったという、オートファジーとメラニンの研究について教えてください。
吉森:ずいぶん前に、ある会社と共同で研究を行いました。私たちの皮膚の色は、メラニンという色素で決まっています。このメラニンを作っているのが、色素細胞と呼ばれる細胞。私たちの研究室では、生成されたメラニンがどのように分解されるか、その仕組みに注目しました。
細胞内には小さい袋がたくさんあり、理科の授業で習う「ゴルジ体」や「ミトコンドリア」もこの一種です。色素細胞で作られたメラニンは「メラノソーム」という小さな袋に詰め込まれて、皮膚の細胞に渡されます。
――皮膚の細胞とは、皮膚の表面に見えるケラチノ細胞のことですね。
吉森:そうですね。皮膚の色は、メラノソームがどのくらいあるかによって決まります。たくさんあれば黒くなるし、少なければ白くなるんですね。
皮膚の色が黒いアフリカ系の人と、皮膚の色が白いコーカシアンとでは、皮膚細胞のオートファジーの活性が異なります。皮膚の色が黒い人のオートファジーはあまり活発ではなく、白い人は活発。私たちアジア人はその中間ですね。
――皮膚細胞で、オートファジーはどのような働きをしているのでしょうか。
吉森:メラノソームを分解し、細胞のリサイクルをするために働きます。簡単に言うと、皮膚の新陳代謝に関わっているんですね。
――「美白」という言葉は古いかもしれませんが、オートファジーを上げることで、肌の色を白くすることが可能でしょうか?
吉森:共同研究の際に、アジア人の皮膚を取り出して培養し、オートファジーを活性化させる薬をかけてみました。そのような実験を行ったところ、色が白くなったんですね。なので、オートファジーによって美白は叶えられる、といえると思います。
――オートファジーと美容の関係について、ほかにわかっていることはありますか?
吉森:皮膚の老化にも、オートファジーが関係していることがわかっています。歳をとるとシミやシワができますが、皮膚のその部分ではオートファジーが低下していました。つまりオートファジーの低下がシミシワの原因かもしれません。
オートファジーが低下する原因のひとつに、オートファジーのブレーキ役である「ルビコン」というタンパク質が増えることがあります。まだ実証はされていませんが、ルビコンを抑えオートファジーを活発にすることで、皮膚の老化をある程度止められる可能性があります。そういうところを目指して、いま研究を進めているところです。
――ルビコンは老化の敵なんですね。
吉森:そうですね。私たちの研究室で発見し、私がネーミングをつけたので、愛着はあるんですけど(笑)。
オートファジーは全身の老化に関係しています。皮膚に限らず「老化を抑制する」「老化を変える」といった観点で、オートファジーを応用したいと思っています。
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