「生命科学アカデミー」片倉先生に聞く

ザクロを食べても2人に1人は「ウロリチン」を作れないって本当? 研究者に聞いてみた

ザクロを食べても2人に1人は「ウロリチン」を作れないって本当? 研究者に聞いてみた

「人生120年時代のわたしたちへ」
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健康長寿を目指しながら年齢を巻き戻す「エイジングケア3.0」という新しいフェーズを提案するfracora(フラコラ)。同ブランドが運営するYouTube番組「生命科学アカデミー」では、最先端の生命科学の知識を紹介しています。

2023年1月26日に行われたライブ配信では、九州大学大学院農学研究院教授の片倉喜範(かたくら・よしのり)先生をお招きし、長寿遺伝子と呼ばれる「サーチュイン遺伝子」についてお話を聞きました。

教養バラエティ番組『カズレーザーと学ぶ。』(日本テレビ系)でも取り上げられ、話題沸騰の「サーチュイン遺伝子」。

老化してしまった細胞の修復にサーチュイン遺伝子がどのように働くか、活性化させるにはどうすれば良いのかなど、人生120年時代をすこやかに生きるための最新の知見をたっぷりとお話いただきました。

長寿遺伝子を活性化しサクセスフルエイジングを実現

——片倉先生は「食べて若返る」研究をされていると伺いました。

片倉喜範先生(以下、片倉):高齢化社会が進むと、当然ながら、病気になる方の割合も増えます。その治療を薬に頼ると、医療費がどんどん高騰し、日本の経済を圧迫してしまいます。

その事態を回避するために必要なのは、一人ひとりが病気にならない体をつくること。私たち農学部の研究者は、サクセスフルエイジング(元気のまま長寿になること)を食品で実現できるよう、日々、研究に励んでいます。

——どのような食品を開発しようとしているか、具体的に教えていただけますか。

片倉:私は、長寿遺伝子と呼ばれる「サーチュイン遺伝子(SIRT)」をターゲットにして、食品の開発を行っています。私たちの体内には7種類のサーチュイン遺伝子があり、(7種類のうちの)特にSIRT 1、SIRT 3、SAIT 6は、アンチエイジングに機能しているとして注目されています。

SIRT1:代謝促進、炎症抑制、認知機能や脳機能の改善
SIRT3:加齢性難聴の抑制
SIRT6:心血管疾患や運動機能障害の改善

このようなサーチュイン遺伝子を食品によって活性化すれば、全身のアンチエイジングが実現できると考えています。

体内でウロリチンを作れる人は全体の50%

——どんな食品を食べれば、サーチュインを活性化できるのでしょうか。

片倉:我々の研究室では、サーチュインの増加量に比例して光を発する特殊な細胞を開発しました。その細胞に様々な成分を与え、光の強さを分析した結果、特によく光ったのがポリフェノールです。

さらに研究を重ねた結果、数あるポリフェノールの中でも、エラグ酸をもとに作られる「ウロリチン」という成分が、サーチュインを活性化させる効果が強いとわかりました。

——ウロリチンを効率的に摂取できる食品は?

片倉:ウロリチンが多く含まれる食品は、ザクロです。ザクロには、ウロリチンのほかにもサーチュインの活性化に働く様々なポリフェノールが含まれているため、アンチエイジングの実現にもってこいの食品といえます。そのまま食べると酸っぱいですが、ザクロジュースなら飲み続けやすいでしょう。

ヨーロッパでは「ザクロジュースを1日1杯飲むだけで認知機能が回復した」といった論文も発表されています。ただし、体内でウロリチンを作れる人と作れない人がいて、日本人の場合、ウロリチンを作れる人の割合は全体の50%です。

——えっ、半数は飲んでも効果なしということですか?

片倉:その通りです。たとえ体内でウロリチンを作れても、人によって多く作れたり、少なめだったりするなど差があります

体内でウロリチンを作れない人は、ザクロを食べても効果がないので、ウロリチンの成分が入っているサプリメントで補うといいですね。

——ザクロジュースではなく、ザクロ酢でも大丈夫でしょうか。

片倉:よく聞かれる質問ですが、ザクロ酢には、ザクロの成分がそれほど含まれていないと思うので、やはり100%ザクロジュースがいいと思います。日本ではあまり生産されていないので、見つからなければ、中央アジアや中東のものを探してみるといいのではないでしょうか。

傷ついたDNAもウロリチンでリペアできる

——ウロリチンは、アンチエイジングにどのように働きますか。

片倉:よく「紫外線は皮膚を老化させる」と言いますが、これは本当で、細胞に紫外線を一度当てると細胞の中のDNAはズタズタになります。ところが、そうやって傷がついた細胞にウロリチンをかけると、DNAが修復するんですね。

近い将来、紫外線を浴びた後でも効果を発揮する、サーチュインを活性化させるような化粧品が登場すると思います。

——ウロリチンにはどのくらい持続効果があるのでしょうか?

片倉:ポリフェノールを摂取すると腸管で活性化され、細胞からカプセル状の「エクソソーム」と呼ばれる物質が分泌されて、全身に機能します。それが永遠に続くわけではないので、「ザクロジュースを1日1杯」など、習慣的に飲むのがいいのではないかと思いますね。

——いまお話しいただいた「エクソソーム」について、詳しく教えてください。

片倉:エクソソームとは多くの細胞から分泌される物質で、離れた細胞や組織に情報を伝達する役割を担っています。エクソソームには数千もの種類があり、情報を伝達する場所もそれぞれ異なります。

物を食べると腸管からエクソソームが分泌されますが、食品の成分によっても、脳や筋肉、皮膚など、働く場所が変わります。いろいろなものをバランス良く食べなければいけないと言われているのはそのためです。

「食べて若返る」を目指すなら良質な食品を選ぶべき

——エクソソームは運動することでも分泌されるとか。

片倉:医師に「病気にならないためにはどうすればいいですか?」と聞くと、必ず「運動してください」と言われますよね。なぜ運動が体にいいか明らかにするため、私の研究室で調べた結果、筋肉を使うと筋肉の細胞からエクソソームが分泌されて、神経細胞が活性化されることがわかりました。

ただ、運動するといっても皆さん忙しいので、なかなか時間がとれないでしょう。運動する余裕がないときは、筋肉機能を改善できるような食材やサプリメントをとって、エクソソームの分泌を促すやり方でもいいのではないかと思います。

——筋肉機能を改善できる成分にはどのようなものがありますか?

片倉:ウロリチンやGABA、カルノシンなどですね。カルノシンはイミダゾールジペプチドの一種で、鶏の胸肉に多く含まれます。

——アスリートの方が、よく鶏の胸肉を食べるのはそういうことなのですね!

片倉:鶏の胸肉は脂を含んでいないというだけでなく、筋肉の活性効果が非常に高い。アスリートの方は、それを知っているんですよね。欧米諸国、特にアメリカでは、鶏の胸肉のほうが高く売られています。

——物を食べると、栄養としてそのまま体に吸収されると思っていましたが、エクソソームという媒介役が必要とのこと。これを理解すると、ストレス性の高い食材は避けようとか、良質な食材を選ぼうという気になりますね。

片倉:健康長寿のためにも「安ければいい」という時代ではなくなってきていると思います。添加物の多い輸入品ではなく、体にとっていいものを選んでいきたいですよね。

我々の研究の最大のポイントは、病気になってから試すのではなく、病気にならない体をつくること。未病へのアプローチや予防が目的なのです。アンチエイジングを促す食品を日常的にとることが「食べて若返る」ことにつながると考えています。

——いま、エイジングケアのトレンドは「全身のケア」ですよね。美容液などによるアウターケアはもちろん大事ですが、同時にインナーケアをすることが、健康長寿のために必要と考える人が増えていると思います。

片倉:最近、「見た目と寿命は関係がある」という調査報告を目にしました。若く見える人は、長生きする傾向にあるようです。

——病気を予防し、老化スピードを抑えるような研究がたくさん行われているんですね。日本でも、いろいろな成分の開発や、健康寿命に関する研究論文がたくさん出てきています。若さとすこやかさを長く保てるよう、今後も、最先端の生命科学について学んでいきたいと思います。

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