アラフィフ作家の迷走生活 第61回

「やりてぇ!」という純粋な欲求をどうすべきか

「やりてぇ!」という純粋な欲求をどうすべきか

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小説家の森美樹さんが自分自身の経験を交えながら、性を追及し、迷走する日々を綴るこの連載。外出自粛のムードが高まっていた2020年の春、アダルトグッズが売れたのだとか。今回は自分の欲求と素直に向き合うことについて考えていきます。

*本記事は『cakes』の連載「アラフィフ作家の迷走性(生)活」にて2020年4月18日に公開されたものに一部小見出しなどを改稿し掲載しています。

先月、私はアダルトグッズに関する短編小説を書いた。内容は割愛するとして、諸々アダルトグッズについて調べていた矢先、出版社から「森さん、今、アダルトグッズが売れしているらしいですよ」との情報を得たのだ。ぶっちゃけ、想定内だった。ウケをねらってアダルトグッズをテーマに据えたわけではないが(割愛しつつ小ネタをばらしますと、いたって真面目でもの悲しい短編小説に仕上がっております)、「そりゃ、売れるだろうよ」と思っていた。

欲求を手っ取り早く解消するのはこれしかない

だって昨今、自宅でやれることって限られているじゃないですか。

外出自粛要請に緊急事態宣言、人と会うのは8割避けましょう、等々。つまりは、ひとり上手になれって意味だ。テレフォンセックスだ、オンラインデートだときれいごと(?)を言っていても、人と人が会わなければ直接的な性行為はできない。欲求を手っ取り早く解消するのは、アダルトグッズしかないのだから。

身も心も健やかに成長した成人男女なら、自宅にアダルトグッズのひとつやふたつ持っているのが普通(なのかな?)だし、特に目くじらを立てるものではないけれど。しかしスマホデビューや運転免許取得、みたいな社会的地位や貢献度にアダルトグッズは対応しない。今や超激務になってしまった宅配業者の手を、アダルトグッズ配送でわずらわせてもいいものか、そんな風に考える人もいるだろう。でも実際には注文が殺到しているのだ、だってアダルトグッズが売れしている、ってデータが出ているのだもの。

これまで躊躇していたけれど、「今が買い時!」とばかりに購入する人もいれば、「でももしコロナウイルスに感染して隔離されたら、アダルトグッズ買ったことが家人にバレてしまうのでは」と躊躇している人もいるかもしれない。だったら、「いかにもじゃない電マを探してみたらどう?」とか、「今は一見それとわからないオシャレなアダルトグッズも発売しているよ!」と耳元でささやいてあげたいが、所詮アダルトグッズはアダルトグッズ。家人や他人に知られては困る、っていう事情ももっともだ。

自分の殻を打ち破るいい機会かもしれない

でもなー、と私はちょっと考えたのだ。今まで、自分を取り繕って生きてきた人には、この外出自粛要請や緊急事態宣言は、自分の殻を打ち破るいい機会なのではないか、と。世の中には、「この機会に自分を深く見つめてみよう」とか、カッコイイことをいう方々がいる。うん、深く見つめるのも大事だけど、案外、浅くも見つめていないのが自分自身だ。本当は、外に出て思いきりエッチなことしたいって思っている人だって多いでしょう? 深く見つめようとしたら、うっかり上部しか見つめられなくて、一番最初に出てきた欲求が「やりてぇ!」だったりして。

世間はコロナウイルスで大変な事態になっていて、自分もいつ感染するかどうかわからなくて、キスはおろかセックスなんてできない、手をつなぐのだって濃厚接触になってしまう。現状、決まった相手がいて、一緒に住んでいる、結婚している、そういう守られた環境ならいい。ところが、恋人や想い人がいても、遠くに住んでいたり、自分もしくは相手が複数と濃厚接触している可能性があったりすれば、事態は暗転する。コロナウイルスが人間から搾取したのは、生きる源、セックスだったのだ。

いや、それだけとは言わないけれど、それもあるよね、と思う。で、世間が混乱する中「やりてぇ!」って一も二もなく激しく思ってしまった自分を責め立てる。世界各国がロックダウンして、禁を破ったら厳罰を受けたりする、そんな地球上で、自分だけが「やりてぇ!」だと? なんてこった、自分ってかなり低俗。がっかりだよ。いやだから、そんな風に自分を卑下してはいけない。素直でとてもいいことではないか。とはいえ、外に出て手あたり次第にやりまくる、というのは勿論いけない。いけないけれど、純粋な欲求「やりてぇ!」をないがしろにしてもいけない。

他人の目が気になるという人は

そう、常に紳士然としていた男性、才色兼備な女性、でも「ごめんなさい、本当は超やりてぇ!なんですぅ」って自分で自分に許可を出し、祝・アダルトグッズデビューしたっていいじゃないか。だいたい、清廉潔白みたいな顔している方って、他人の目より実は自分の目を気にしているのだ(全員とは言いませんよ)。自分が他人にどう思われるか? って勝手に自分を縛りつけている。他人はさほどあなたのことを気にしていませんって。

あるいは、他人の目を気にしている人は、他人が気になるくせに、いざ他人に無視されると怯えたりする。ううん、怯えたっていいんだけど、でもその実、本当に怯えた経験ってないのではないか。「怯えるかも」という想像で、ただ自分に怯えているだけではないだろうか。一度、全部そういう謎の殻を打ち破ってみよう。

そのきっかけに、ぜひひとつ。アダルトグッズを購入してみてはいかがですか(って、私は業者の回し者か)。恋人や想い人に会えないつらさ、悲しさ、切なさをアダルトグッズなどで埋められるか! とお怒りになる方や、それこそそんな浅い思いで恋人と付き合っていないし、想い人を焦がれていない、と反論する方、さまざまだろうと推測する。そういう崇高な気持ちはとりあえず心のすみに置いておいて、むらむらする身体=ある意味純粋な欲求を叶えてあげようと、私は提案しているのだ。

紳士然としていた男性が、「遅ればせながらアダルトグッズデビューしたんだよね」なんて打ち明けてくれたら、「今日から変態紳士じゃん!」と私は背中を叩いてあげたいし、才色兼備な女性が「実はずっとほしくて。外出自粛って、かえってチャンスですよね」なんてひらきなおってくれたら、「チャンス、チャンス。じっくり攻めれば、新しいヒットポイントが見つかるよ」と、新しい勉強法を開発したかのようなコメントをしてあげたい。

なかなかひとりになれない人は

それでもやっぱり、家人にバレるのは困る、とりわけお子様がいらっしゃる方は二の足を踏むだろう。アダルトグッズは基本ひとりで使うものだし、夫婦あるいは家族それぞれが在宅勤務になってしまった場合、なかなかひとりになれないかもしれない。住宅事情により、常に人の目や耳が気になるという場合だってある。そんな時は、まず先に「ひとりになる時間」をつくるためのルールを決めたらどうか。外出自粛に緊急事態宣言というハンデがあるにしろ、政府は生活必需品の買物や病院などの外出は認めている。大家族ではないのなら、外出する人を日替わりで決めて、30分なり1時間、家でひとりにしてもらう。その間に、ささっとアダルトグッズを使用。かなりインスタントになってしまうが、それでも欲求不満解消の一端を担うのではないか。大家族だったら、もう、お風呂の中かトイレの中でいたすしかない。今は口紅大のアダルトグッズや、口紅に似せたアダルトグッズもある。バレそうになったら「リップクリームだし」と、しれッと言えばいい。

「外出しない」と「外出してはいけない」、似て非なる言葉であり、その距離は果てしない。人は「外出してはいけない」と抑え込まれると抵抗したくなる。外出してはいけない→人と会ってはいけない→セックスしてはいけない。いささか短絡なつながりだが、的を得ている。してはいけないのなら、疑似で楽しみましょうよ。今こそ、アダルトグッズに陽の光をあてようではないか。

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