アラフィフ作家の迷走生活 第58回

熟年男女はお互いさらけだすほうがいい

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小説家の森美樹さんが自分自身の経験を交えながら、性を追及し、迷走する日々を綴るこの連載。今回は「色気とは対極にあるモノ」についてのお話です。男性ウケが良くない「5本指ソックス」を通して、性のファンタジーへの向き合い方を考えます。

*本記事は『cakes』の連載「アラフィフ作家の迷走性(生)活」にて2020年3月7日に公開されたものに一部小見出しなどを改稿し掲載しています。

5本指ソックスをはいていたからフラれた。

いきなりですが、そんな女性いらっしゃいますか? というのも私が5本指ソックスの愛用者だからで、「あ、これは幻滅された」な危うい空気感を味わった経験があるからだ。しかも数回。

彼女の前で靴は脱げない

5本指ソックス。それは色気とは対極にある代物。男性だけでなく女性からも侮蔑されたことがある。正確に言えば、以前、派遣社員と文筆業をかけもちしていた頃、同僚とアンダーウエアの話題になり、

「5本指ソックスをはく人って信じられないですよねー」

と同僚が鼻で笑ったのだ。

「うん、わかるー」

なんて、私もしたり顔で合槌をうったのだけれど、社内履きの中で私はしっかり5本指ソックスをはいていた。彼女の前で靴は脱げない、と心に留めた出来事である。

ソックスのみならず、色気アイテムといえば言わずもがなブラジャー&ショーツ、とりわけもっともリアルなのがショーツだが、これも私はふんどしパンツ(片側を紐で結ぶタイプ)愛用者で、形によっては色気のかけらもない。一時は越中ふんどし型ショーツ(かなり忠実にふんどしを体現したショーツ)を身につけていた。マニアにはたまらないと思うが、そうじゃない人にとってはモチベーションが下がるかもしれない。

5本指ソックスとふんどしパンツの名誉のために付け加えると、ともに冷え性やデリケートな肌質の女性にはもってこいのアイテムだ。私の名誉のために(笑…)さらに付け加えると、材質はオーガニックの麻かシルクかコットンのみ選んでいる。

そういう日に限ってなぜかそういうことになる

なんて偉そうに豪語しても、形としては色気ナッシングだ。それは私も認めるところで、一時期、越中ふんどし型ショーツ一枚で部屋をうろうろしていた私を、旦那さんはどう思っていたのだろうと、今さらながら心中を察している。

私が5本指ソックス&ふんどしパンツを入手し始めたのは約10年前なので、当初は本当にわずかな種類しかなかった。しかも高価で、1枚1万円~3万円のシルクふんどしパンツを買っていた。というとなんだか女子力が高いっぽいけれど、くどいようだが形はあくまでふんどしだ。昨今のふんどしパンツはラブリーだったりファッショナブルだったり、かなり増えているから安心である(何が)。

なぜ私が両アイテムにはまったかというと、先にも述べたが5本指ソックスは冷え症改善のためで、ふんどしパンツは下着のしめつけによる黒ずみが気になりだしたからだ。でも私だって一応女、男の人とそういうことになりそうだな、という日にはそれなりの下着を装着していた。が、そういうことになりそうな日は案外予測できない。

女性の皆さんなら一度は身に覚えがあるかもしれないが、「あ、今日は下着が上下バラバラ!」とか「あ、今日はうっかり捨ててもいいパンツ!」な日があるだろう。そういう日に限ってなぜか、そういうことになりそうな流れになったりして。ふんどしパンツはまだいいかもしれない(紐をほどく楽しみがあるからね)。でも5本指ソックスって、5本指ソックスって…。

盛り上がり最高潮のときに彼が発した一言

はい、そういう流れになって5本指ソックスを見られたのだ。場所はラブホテル、初めて一緒に入ったという、盛り上がり最高潮の時。相手その1が5本指ソックスを横目に発した一言は、

「それって、あったかいの?」

だった。私は慌てて足を重ね合わせ、

「うん、これすごくあったかいの」

と言った(と思う)。

「そうなんだ」

と相手その1は笑って(いたと思う。こわくて顔は見ていないが、穏やかな声だった)トイレに消えた。

相手その2は、

「わー、そのギャップ、いいね」

と5本指ソックスを指差して言った。私は普段からさほど色っぽい格好も化粧もしていないので、なんのギャップかわからなかったが、とにかく明るくそう言った。私は、

「そうかな」

と軽い感じで返した(と思う)。

「うん、いいよね」

みたいに当たり障りなく合槌をうち、相手その2はトイレに消えた。

私もかなり間が抜けていて、そういうことになってもOKな下着じゃない日はササッと隠れて服を脱ぐとかすればいいのに、恥じらいつつも堂々とソファなりベッドサイドでシャワーの準備をしていた。そりゃ、相手1&2他も私をチェックするだろうよ。

うわー、幻滅したよね。でもこれがありのままの私だから、最初から出してしまえ!

と殊勝にも奮起してみたけれど、ガッカリされたのは目に見えている。じゃあ別の手で(手腕で?)頑張るか! と張り切ってみた。そのせいでフラれなかったかどうかは不明だけれど、とにかく5本指ソックスが原因で会わなくなったとか連絡を絶たれた経験はない。むしろ長く続いた。

男の人のファンタジーは叶えてあげたいけれど

長く続くのはありがたいけれど、私の中ではいつまでも「あー、やっちゃったな」という苦い思い出になっている(だったら繰り返すなよ)。付き合いが長くなってからたまたま5本指ソックス、ならまだ可愛げがあるのだが、最初からいきなり5本指ソックスってかなりのインパクトではないか。しかもマイナスの(だったら繰り返すなよ)。

だって、男の人っていつまでたっても女の人にファンタジーを抱いているでしょう。どんなに外が寒くても、女の人にはストッキングをはいてほしくて、ミニスカートをはいてほしくて、ハイヒールをはいてほしいのではないか。実際私も相手1だか2だかその他だが忘れたが、「女性のタイツとかレギンスって好きじゃないな。やっぱりストッキングがいいな」と言われたのだ(なのに5本指ソックスでごめんよ)。

ブラやショーツの好みは人それぞれだけれど、それに関しても相手1だか2だかその他だか忘れたが、「女性のショーツはボクサー型がいいな」とか「初めての時はやっぱり白の上下だよね」とか「うまくはずしやすいやつとか、うまく脱がしやすいやつがいいな」とか言われたのだ。「ふんどしパンツは脱がせやすいよ!」なんて、もちろん私は言わない。ふんどしパンツはたいてい単体で販売していて、ブラジャーとセットにはなっていないからだ。つまり上下バラバラなのだ。幸い、ふんどしパンツの時にそういう流れになっても、私はうまくごかました(だから何で5本指ソックスは見られるかな)。

男の人のファンタジーは、可能な限り叶えてあげたい。だってもともと、私はファンタジーな顔でも身体でもないのだ。でも悲しいかな、自宅勤務が久しい私はハイヒールとはとんとご無沙汰だし、5本指ソックスに慣れてしまった足はすっかりふてぶてしくなり、華奢な靴がはいらなくなってしまった。それでも年に何度かあるフォーマルな席ではタイツやストッキングをはく。するとどうだろう、私の脚や足は1日で悲鳴をあげる。血流が悪くなって冷えるし浮腫むのだ。ああ、私には無理。男の人のファンタジーを365日、いやせめてデートの日だけでも叶えてあげている女の人って、すごいと思う。

彼のベルトをはずしてみたら……

ところが以前、5本指ソックスの恩恵というか功績にめぐりあった。相手3とそういう流れになった時にまたもや私はやらかし、5本指ソックスをはいたままラブホテルのソファだかベッドサイドにちんまり座っていて、まあ、相手3にチラ見されたのだ。で、私もバカのひとつ覚えみたいに、「あー、やっちゃったな」と後悔した。妙な雰囲気になってしまったので、私がいち早く下着姿(その時はふんどしパンツではなかった)になって、相手3を押し倒し、衣服をはぎ取った。シャツを強引かつていねいに脱がし、ベルトをはずす。そこまではよかった。

スラックスだかチノパンだか、とにかくズボンが脱がせられない。やっと脱がせたと思ったら、パンツがない。真っ黒だ。しかもぴっちりと股間を包んでいる。

えー、なにこれ。パンツ? ロングガードルみたいだしビッチビチに密着してる。手強い! と変な汗をかきつつ必死になっていたら。

「ごめん。これ、あったかくってさ」

と相手3が照れくさそうに笑った。

そう、モモヒキいやステテコ? をズボンの下にはいていたのだ。見事なジャストサイズで下半身にぴったりフィット、そりゃなかなか脱がせられないのも納得なのだ。

なるほど、と安堵のため息をもらした私に相手3は、

「いや、一度はいてみたら手放せなくて」

と、てへへ、みたいな感じに笑った。私が幻滅したと思ったのだろうか。

「そうだよね」

と、私はモモヒキというかステテコに包まれた股間をなでなでした。かなりホットだった。

熟年男女はお互いさらけだすほうがいい

当然、私はモモヒキというかステテコごときで幻滅しないし、なんなら5本指ソックスと対だ! と勝手に親近感を持った。相手3も私が5本指ソックスだったから、無防備にモモヒキというかステテコをさらしたのかもしれない(本当かよ)。

男の人も、女の人がファンタジーを抱いていると思っているのだろうか。「パンツはボクサータイプに限る!」とか「ワイシャツの下にアンダーシャツはNG。乳首が透けて見えないし!」とか。若いうちは、お互いファンタジー重視になるかもしれないけれど、歳を重ねてくればファンタジーは崩壊するのだ。だって男の人も女の人も、冬になれば寒いし夏になれば汗臭さが際立つ。それに、何かの気まぐれで私がストッキングをはけば、手放しでよろこんでくれる。私も、男の人がたまにセクシーなパンツをはいて、頑張ってお腹を引っ込めていたりすると「私のために!」とキュンとする。

だから、まあ、何て言うか、人生も折り返し地点を過ぎたら男も女も無理をせず、さらけだすほうがいいのかな、と思うのだ。ファンタジーは年に数回、イベント的に行うのがベストかもしれない。ストッキング1枚が大イベントになるのだから、熟年だって楽しいのだよ。

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