小説家の森美樹さんが自分自身の経験を交えながら、性を追及し、迷走する日々を綴るこの連載。今回のテーマは「生理」です。女性が避けて通れない更年期についてひととおり勉強した森さんは、男女ともにうまく生理と付き合っていくにはどうしたらいいかを考えていきます。。
*本記事は『cakes』の連載「アラフィフ作家の迷走性(生)活」にて2020年2月22日に公開されたものに一部小見出しなどを改稿し掲載しています。
男性には永遠にわからないであろう、女性の生理。ぶっちゃけ、女性にだって生理は謎だし、人生の半分は生理に振り回されている。私はアラフィフなので、いわゆる更年期が身近になる年頃だ。周囲の同世代からも身体の変化が現れたという声が聞こえてくるし、私自身にもその兆しはある。
更年期にまつわるエピソードはいろいろで、「初潮から30年後になるらしい」だの「妊娠経験がない人は更年期が早くくる」だの「セックス経験が少ないと更年期が重い」だの、信憑性に乏しい噂もある。都市伝説なのか何なのか、失礼なものも少なくない。女性なら避けては通れない道なので、私もひととおり勉強したのだが、女性の数だけ更年期の数がある、というのが私の結論だ。
生理がないと女じゃないってこと?
男性の中には未だに「生理がなくなったら女じゃなくなる」と思っている人がいる。昔からなぜか「生理がなくなる=卒業」みたいなイメージがあって、私には不思議でならない。ついこの間、私は旦那さんから「まだ生理あるんだよね。よかったね」みたいなことを言われた。これって裏を返せば「生理がなくなることはよくない」という意味? と訝ったけれど、突っ込みを入れなかった。
旦那さんに他意はなかっただろうし、単純に私の体調を心配しただけかもしれない。でも正直に言えば、ちょっとだけ悲しかった。やはり生理がないと女じゃないってことかな、と思ってしまったからだ。
ちなみに旦那さんは、更年期になるといきなり生理がなくなる、と信じていたらしい。私が「周期が乱れたりして、じょじょになくなっていくんだよ。夜中に生理の神様が夢枕に立って『来月で生理は終わります』って告げてくれるわけじゃないよ」とおしえてあげた。生理の神様がいたらラクですよね、女性の皆さん。
ここからさらに突っ込んだ生理事情になりますが、男性の皆さんにもぜひ読んでいただきたい。先日、某出版社の編集長(男性)と話していた時、私が「“女を卒業”って言葉をよく聞きますけど、卒業があれば入学もあるはずですよね。女にとっての入学とか卒業って、何なのでしょう」と問うと、「男の場合は精通があった年が入学ってニュアンスだけど、女性の場合は生まれた時から女性ですよね」と編集長がこたえた。
次いで「今時、生理がなくなって女を卒業っていうのはおかしい。女性は生まれた時から死ぬまで、一貫して女ですよ」と言った。これには私も大いに賛同した。
女自らが女を降りてどうするよ?
肝心の私の生理だが、公の場で告白するのも恥ずかしいのだけど、少しだけバランスが崩れている状態だ。周期は安定しているけれど、事前に少量不正出血がある。私は昔から生理痛も軽いほうだったし、周期の乱れもほとんどなかった。PMS(月経前症候群=生理前に精神的に不安定になったり、身体に支障をきたすこと。女性によって症例は異なる)に苦しんだ時期もあったけれど、ピルを服用してやりすごした。生理については、おおむね平均的な流れだと思う。
不正出血はごく少量だし、下着を汚すことはほぼなかったけれど、いかんせん鬱陶しい。病気も心配だったので産婦人科医の診察を受けたが、異常はないし女性ホルモンの数値も十分足りている。これといった解決策もないのが悩ましいものの、女性ホルモンがまだあって、みなぎっているという事実にうれしくなった。体調不良もないので、今のところ治療は必要ない。独自に購入したサプリメントは飲んでいるが、それ以外はピラティスやヨガで身体を動かしたり、ストレスをためないようにしているくらいだ。
更年期の最中や更年期以降は、女性器が乾くとか愛液の分泌量が減少してセックスに支障をきたすとか、女性ならではの身体の変化がささやかれている。書籍で読んだ事例によると、女性器の乾燥を相談しに産婦人科医を訪ねた50歳~60歳の女性が、「もうその年齢なんだから、女を卒業したら?」と諭されたそうだ。しかも女医さんに、である。前述した、女の卒業問題勃発だ。ていうか、女医さんがそんなこと言うんだ、と私はいささかショックをうけたというか、あきれた。
女自らが女を降りてどうするよ? これも書籍からの抜粋だが、「更年期以降は女ではなく女神になる」みたいに書かれていた。女神か。ゴージャスな響きではあるが、私は別に女神になりたいわけじゃない。普通の女でいいのだ。だから男性にも普通の女として扱ってほしいな、と切望する。
私が心の奥底で恐れていること
と、偉そうに綴っているけれど、私自身がどこかで「生理が終わったら女を卒業」と思ってしまっているのだ。そうじゃなければ、更年期に対してこれほど敏感にはならない。まったくなんとも思ってなければ「生理がなくなったらセックスやり放題!」と、私の敬愛する某女流作家のように豪語するだろう。心の奥底で私は、更年期になったら、あるいは更年期が過ぎたら、もう男性に相手にしてもらえない、と恐れているのだ。
だから不正出血や生理でセックスができなかったり、支障が出たりすると、相手に対してとても申し訳ない気持ちになる。最近、気の置けない男友達にそんな経緯を話してみた。
すると彼はあっけらかんと、「そういう時は、うしろのほうを試してみるとかね」と言った。当然、女性がOKすればの話だ。さらに「それとか、縛ってみるとか。女性の体調が悪かったら、個室居酒屋とか見えない場所で痴漢ごっこするだけでもいいよ。それだけでも楽しい」と提案してきた。
性に対して貪欲というか、歳を重ねることをマイナスにとらえていないな、と私は話を聞いていて気分がよくなった。彼は私と同世代で、「僕自身もだんだん体力が低下してきているから、お互い無理のない範囲で高めていければいいと思う」と笑った。彼のパートーナーも彼と同世代、つまり私と同世代だ。ゆえに私と似たような悩みがあるのかもしれない。でも、こんな彼とならきっと愉快なセックスライフを送っているだろう。
まず自分の意識改革から始めたい
こうやって前向きに考えてみると、生理に振り回されることなく性を謳歌できるのは、かえってラクなのかもしれない。濡れにくくなったらローションを使えばいいし、美容整形外科に行って女性器の若返りを試してみてもいい。
以前私がここで取り上げた、100万~の手術ではなく(「某整形外科で秘部を診断してもらったら」参照)、レーザー照射などの手軽な方法だ。聞くところによると、70歳~80歳の女性もやってくるというではないか。いいなあ、女子力がめっちゃ高くて憧れる。
更年期や生理は、女性として(男性も)無視できない問題だ。わずらわしくもあるけれど、うまく付き合っていきたい。そしていくつになっても、女性という性を誇りに思って、男性にもその年齢なりの楽しさを知ってほしい。そのためにはまず私自身が、更年期や生理に対するうしろめたさをなくしていこうと思う。