もっと知りたい、アンチエイジング vol.5

「美しくいると健康になる」腸・脳・皮膚の関係を研究してわかってきたこと

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老いを“病気”ととらえ、適切な選択をすることで老化は新たなフェーズへ——。今、世界中で「長く健康に生きる」ための研究が行われています。

「健康長寿」を目指しながら、年齢を巻き戻す「エイジングケア3.0」という新しいフェーズを提案する「fracora(フラコラ)」は、運営するYouTube番組「生命科学アカデミー」で、最先端の生命科学の知識を紹介しています。

今回は「老化」の秘密に迫るため、近畿大学の客員教授で、日本抗加齢医学会理事長の山田秀和先生をお迎えし、アンチエイジングについてたっぷりと語っていただきました。

(左から)山田秀和先生とHIROCO学長

腸・脳・皮膚相関を研究するに至ったワケ

──今回は、腸と脳の関係についてお伺いします。「腸脳相関」という言葉があるように、これらは互いに関係し合っているとのことですが、先生のご研究だと、それに加えて「皮膚」も老化や健康長寿に関わってくると。どういうことなのでしょうか。

山田秀和先生(以下、山田):元々、僕はアトピー性皮膚炎の研究をしていました。その当時は、皮膚炎の悪化と腸の関係について、ほぼ研究されていなかった——腸内細菌叢(腸内フローラ)の研究も、基本的には同じような反応でした——のですが、僕は比較的早い時期からこの相関に目をつけていて。

当時、アトピー性皮膚炎が重症化すると、うつ病や精神的な病気まで抱える方が多い傾向にありました。それから、睡眠後退症候群といって、要するに(生活が)夜型になってしまう方も結構いらしたんですよ。それはなぜだろうということを研究して、患者さんには朝に日光を浴びてもらうとか、いわゆる生活リズムの改善をしてもらっていました。

その時に僕らが、少なくとも僕が理解したことは、腸と脳は相関があるだろうということです。その当時は、まだ腸脳相関とは言われていなかったと思うんですが。そして今度は、「腸から皮膚」という考え方をしようと。「脳から腸」というのは、いま言われてきていますが、「腸から脳」という場合は、例えばいまだったら、炎症性腸疾患(IBD)だとか、安倍晋三元総理大臣も患った潰瘍性大腸炎だとか、そういうものは関係するということがわかったわけです。だから、「腸から脳」ということもわかった。

──アルツハイマー型認知症とかも、関係があると聞きました。

山田:そうですね。今度は、「腸から皮膚」という考え方をしたときは、例えば「ニキビ」だとか「アトピー性皮膚炎」なんかもそういう問題が関係するという立場です。ニキビのほうの研究はその当時できていたのですが、「IGF-1(インスリンライクグロースファクター)」という、いわゆる老化に関係する因子が関係する。食事が皮膚の病気に影響するということがわかってきたんです。そういったこともあり、腸内細菌叢への注目度も高まってきました。

では「脳から皮膚」という病気があるのか。例えば、脳に何か問題が起こると皮膚に何か出る。一番典型的なものは、蕁麻疹ですね。

──ああ、なるほど。

山田:全員に当てはまるとは言えませんが、強いストレスがかかると蕁麻疹が起こる方がいます。原因追及をしても、アレルギー反応としての、従来型としての「何かに対するIG抗体がある」とか「マスト細胞」とか言うのですが、全然関係ないわけです。それは、心理的なものというか、脳なり神経細胞との関係で起こってくるわけです。

──そうなんですね。

山田:今度は、「脳から腸」となると、一番有名なのは「便秘」ですよね。例えば、すごく強いストレスがかかると便の調子がおかしくなるということは、よくあるわけです。

──色が変わったり、軟便になったり。

山田:そうなんです。そうすると、表現が適切かどうかわかりませんが、「病は気から」などといういい加減な話ではなくて、そういう部分(「脳から腸」という考え方)がすごく重要であるという研究が、いまいろいろと進んでいます。

では、今度は「皮膚から脳」「皮膚から腸」というと何かありますか、という話になります。先ほど言ったような、アトピー性皮膚炎だとかニキビだとか。そういうもので悩まれたりすると、今度は「うつ病」になったりとか、あるいは「痒みが増強」したりなどします。そういうことは、皮膚が起こしたものが、結果的に脳に影響を及ぼすことがあり得るということですよね。

皮膚表面には、神経細胞の端末がいっぱいあるわけでしょう。ここが重要で、「皮膚から腸」といったとき、例えばビタミンDの合成というのは、皮膚に光が当たることによって活性化するというので、体の健康にすごく役立っていますよね。

──朝日を浴びると良いと言いますよね。

山田:そうすると結局、皮膚側という立場からしたら、もっと典型的なものでいうと、例えばボトックスを顔に打ってシワを伸ばす。そうすると、うつ病がコントロールできるという報告がいっぱいあります。

──え、どういう仕組みですか。

山田:形から入るということです。実は、表情筋というのは深部筋(インナーマッスル)なので、脳の中枢が働いているんですよ。だから、顔の表情を変化させると、脳側が反応を起こしだすんです。結構有名な研究では、ボトックスを打ってうつ病をコントロールするという研究が、結構たくさんあるんですよ。

──すごい!

◆まとめ
・アトピー性皮膚炎が重症化すると、うつ病や精神的な病気、睡眠後退症候群などになることがある。
・腸脳相関と同様、腸と皮膚、脳と皮膚の相関という捉え方もある
・皮膚が起こしたものが結果的に脳に影響を及ぼす
・ボトックスでうつ病がコントロールできる

いままで「健康」から「美」だった

山田:これから先、割とどんどん進んでいくのではないかと思います。だから、ボトックスは単にお顔の美しさの話だけではなくて、もうちょっと脳的な反応だとか、そういうものをコントロールしているという立場です。あるいは、マッサージだとかスパだとか、そういう外部環境の影響。レセプターの塊である皮膚というものをタッチングすることで、いろんな反応を見ることができるという、そういう世界です。

──親子のスキンシップも、ものすごく大事といいますよね。

山田:そうなんです。だから、いままでは「健康から美」だと。「健康になると美しくなるんだ」と、そういう説明をしていたのだけど、いまはその逆があるのではないかと。「美しくすると健康になる」んじゃないかと。

──見た目や形もなんですね。

山田:最近では、画像で年齢を推定できるようになってきたので、認知症の方や、認知機能が落ちている方に、化粧をして差し上げるとかそういうことを……。

──聞いたことがあります。老人ホームのサービスなんかでもありますね。

山田:化粧をすると認知機能が改善するというデータを、老年学の阿部恒之先生という方が研究なさいました。僕らは、日本化粧医療学会というのを立ち上げて、認知症の方に化粧と医療でできることはないかといま一生懸命研究しているんです。

従来は、「健康ならば美しい」という考え方だったんですけど、「美しくすると健康になる」という、そういう概念を提唱したいと思って、いま一生懸命やっているところなんですけど。

──これはすごく良いですね。私たちが化粧したりオシャレしたりして、外見に気を遣っていくというのは、まわりまわって健康につながっていくから。やっぱり、化粧をしていただいたりするのも、健康長寿につながるひとつの大きなテーマだったわけですね。

山田:最近、『進化を超える進化 サピエンスに人類を超越させた4つの秘密』(文藝春秋)という本が出ました。著者はガイア・ヴィンスさんという女性の方なのですが、『ネイチャー』という国際的な科学雑誌のなかのセカンドエディターをずっとなさっていた、長い間『ネイチャー』をずっと読んでいらっしゃった方です。この方が面白いことをおっしゃっていて、「我々がゴリラやチンパンジーたちと違うところはどこなのか」と。ヒトには、「火」と「言葉」と、それから「美」と「時間」があると。

確かに「火」は、ゴリラは扱わないですけど、僕たちは使える。それから、「言葉」は彼らも少しは話すかもしれないけど、我々とは違うレベルの言葉ですね。そして、彼らにも夜昼の「時間」の概念はあるけれど、我々のように時計を見て時間の制約だとか10分、20分なんてことは言わないですよね。

そして、もうひとつ大事なのは、これは彼女が最初に言ったと思うのですが、「美」が進化に影響したんだということを言っています。

──「美」が? 本当ですか。

山田:例えばお洋服でも、例えばフォークナイフでも、古いのといまでは全然違う美しさを感じますよね。もっと言うと、建物もそうだと言うんです。確かに建築も、いまから30年前の建築と、いまとでは、何か圧倒的にオシャレな感じがするんですよ。

──「近代的」みたいな感覚ですね。

山田:それを、100年、200年前にさかのぼると、全然違うわけです。それはなぜか、という話なんです。それが我々の進化に影響していた。もっと言うと、類人猿だとか、人類の初期の頃に何パターンかあるわけですが、それだけでも、ネックレスをつくったりとか、壁に絵を描いたりとか。それも進んでいくんですよ。彼女が最初に「美が人類の進化に影響している」と言ったのは、素晴らしい概念で、我々はそれをすごくよく考えたほうがいいと僕は思っています。

──人の進化の過程で「美」をしっかりと意識して、それを歴史として残すことができるということが、ひとつの進化だったわけですね。

山田:それが、物々交換も含めて、物と交換するという世界になってきました。硬貨ができる前には、石だとかそういうものを交換する。美しい石と物を交換するとか、そういうことがおこなわれていたわけですよね。

──昔は、日本人でもすごく寿命が短かったわけですよね。年月を追うごとに平均寿命が延びてきているのは、環境ももちろんあるとは思いますが、「美」に対する意識があったから。

山田:僕はそういう立場でいて。いろんな臓器それぞれの老化の速度は違うことがわかってきていて、それが老化時計の話になるんですが、基本的には脳の神経細胞は結構老化速度が遅いんです。

──そうなんですね。

山田:だから、100歳でも絵を描いたりとか、書道をしたりとか、そういう先生って素晴らしいものを書かれるじゃないですか。脳のなかの機能も、数理的な機能だとか種類によっては進んでいっている可能性がすごく高いんですね。だから、必ずしも歳がいくと脳神経細胞がすべて壊れてダメになるって、そういう単純な話ではなさそうだと。少なくとも、エイジングクロックで見る限りは、一部の脳神経細胞はすごく若いということがわかってきました。

──女性も男性も、いつまでも若くいるために「美」を意識して、健康長寿につなげていきたいところですね。

◆まとめ
・「美」が進化に影響。美しくなると健康になる

■動画で見る方はこちら

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