もっと知りたい、アンチエイジング vol.4

老化をコントロールする方法「リプログラミング」とは

老化をコントロールする方法「リプログラミング」とは

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老いを“病気”ととらえ、適切な選択をすることで老化は新たなフェーズへ——。今、世界中で「長く健康に生きる」ための研究が行われています。

「健康長寿」を目指しながら、年齢を巻き戻す「エイジングケア3.0」という新しいフェーズを提案する「fracora(フラコラ)」は、運営するYouTube番組「生命科学アカデミー」で、最先端の生命科学の知識を紹介しています。

今回は「老化」の秘密に迫るため、近畿大学の客員教授で、日本抗加齢医学会理事長の山田秀和先生をお迎えし、アンチエイジングについてたっぷりと語っていただきました。

(左から)山田秀和先生とHIROCO学長

老化の特徴

──世界的に「老化の原因は9つある」という風に言われていて、私も著書なんかでも拝見していて、ベストセラーになっている本がありますよね。最近の研究のなかではいかがですか。

山田秀和先生(以下、山田):2013年に『Cell(セル)』という有名な雑誌(アメリカの学術雑誌)に、C・ロペス=オーチン先生(Carlos López-Otín/スペインの生化学者)たちのグループが、「9つの老化の特徴(証)」というのを出されました。その後、研究がどんどん進んで、いくつか特徴が増えてきました。去年のヨーロッパの会議で、「さらにこれぐらいまでは、老化に関係する特徴として言ったほうがいいんじゃないか」という要素が、5つ出ています。

いわゆる「オートファジー」の問題。それから、「スプライシング」といって、メッセンジャーRNA(mRNA)ができてくるまでの調節機能があるかどうかということ。そして、いわゆる「腸内細菌」層が関係するという部分。「DNAの立体構造そのものに対する影響」の問題。最後に、みなさんもよく言うように、老化は慢性炎症だと言われるわけですが、「炎症」の問題。その5つが、つい最近雑誌に発表されたというのが、いまの現状です。

あとは、そこに載っていないもので我々が重要視しているのは、「コラーゲンがだんだん硬くなってくる」という特徴があります。私たちは、それがすごく重要な老化の要因ではないかと思っています。さらに、ちょっとややこしい話で申し訳ないのですが、「レトロトランスポゾン」といって、我々は、昔から進化の過程のなかで色々な他の遺伝子の断片をいっぱい抱えています。それが動き出すことです。

──断片を抱えている?

山田:その断片が「レトロウイルス」といわれているものです。太古の時代からあった生命体というか、そういうものが体のなかにいて、それによって老化が促進する。多くが免疫機能の異常だと言われていますが、免疫力に異常が起こると「レトロウイルス」が動き出します。そして、色々な疾患が起こってくる。そのため、それも老化の大きな特徴ではないかと考えられています。

──それは、みんなが持っているのですか。

山田:みんなが持っています。けれど、レトロウイルスは進化に影響しているかもしれないので、必ずしも悪い話だけではありません。だから、ややこしいですよね。その研究は、今後どんどん進むと思います。

◆まとめ
・老化の原因に追加された5つ
①オートファジー
②スプライシング
③腸内細菌
④DNAの立体構造に対する影響
⑤炎症
 山田先生はさらに、コラーゲンが硬くなってくるという特徴と「レトロトランスポゾン」に注目している

老化をコントロールする「リプログラミング」

──若返りの研究のなかで、「リプログラミング」というワードがありますが、その言葉について教えていただけますか。

山田:私たちの共通認識としては、山中(伸弥)先生がiPS細胞をつくられたときに、「山中4ファクター」といわれる4つの調整する遺伝子を入れて、それで皮膚の繊維芽細胞を若返らせました。その応用編ができていて、いま現在、少なくとも3つくらい有名な研究があります。そのうちの2つはもうネズミ(研究用のマウス)を用いて終わっています。山中先生の4ファクターのうち、3因子だけを放り込んで、ずっとそのままにしておくと、ネズミが完全に戻ってしまいます。

──ネズミの皮膚の老化が、でしょうか。

山田:全体の老化です。なので、途中で止めないといけません。僕らは「寸止め」と言いますが、ある年齢までその遺伝子を働かせて止める。すると、そこまで老化が巻き戻って、そこからもう一度動き出します。そういう研究があります。

──止めなければ、若返り続けるのですか。

山田:それこそ、卵に戻ってしまいます。「養老の滝」の話と一緒です。

ご存知だと思いますが、「養老の滝」というのは、なかなか帰ってこない夫を妻が待っていた。しばらくすると夫が帰って来て、えらく若返っていた。妻が「どうしたの?」と聞いたら、「そこの山奥に滝があって、その滝の水を飲んだらこうなった」と言う。妻は喜んで、すぐに飛んで行ったわけですね。今度は、夫が家でいくら待っていても、妻が帰ってこない。それで、夫がその滝へ行った。すると、妻は赤ちゃんになっていた。

これは奥の深い話で、要するに、なんでも「過ぎたるは及ばざるがごとし」というわけですね。

──要は、昔聞いたその神話が、現実化しているということなのですか。

山田:そうです。ドイツやアメリカにも、「若返りの泉」というような話がずっと昔からあります。それらは基本的には同じで、ある温泉だとかに入って水を飲むと若返るとか、そういう話が昔からどこの国にもあります。面白いですよね。

老化の計測について

──他にはどういったお話がありますか。

山田:3つぐらいありまして、ひとつは『LIFESPAN(ライフスパン)─老いなき世界』(東洋経済新報社)という本を書いたデビッド・シンクレア(David A. Sinclair/オーストラリアの生物学者)が一世を風靡しました。彼は、「老化は病じゃないか」という立場を非常に鮮明にしている人です。彼が言っていることとしては、まず、緑内障になると神経細胞がやられてしまって視力が落ちるわけですね。

──それは、老化によってですね。

山田:はい。そのモデルに、先ほど言った山中先生の3ファクターを入れて(老化を)止めてやると、視力が戻ったというのがひとつめの主張です。

その前に、ファン・カルロス・イスピスア・ベルモンテ(Juan Carlos Izpisua Belmonte/アメリカの発生生物工学者)という先生が、早老症のネズミを使って実験をなさいました。ある程度加齢が進んだネズミがリプログラミングによって若くなったと。だから、最初の段階から使うのではなく、歳がいったネズミに山中ファクターを入れて、適切な位置で止めると、いわゆる「若返る」と。ここまで来ているということ。

現実には、いまネズミを用いる実験まで来たので、さらにもうちょっと大きな高等動物に使えるか? というのが次の30年、というのが問題です。僕の立場は、まだWHOは言っていませんけど、きっと「ICD-12」ができるだろうと考えています。いまから30年先というと、2050年の世界なわけですよ。「ICD-12」ができるときに、疾患の一番トップに「エイジング(aging)」、つまり「老化」を入れたいというのが、僕の一番の目的です。

──30年は長いですから、先生には早く研究を進めていただきたいです(笑)。

山田:30年間のあいだに、ネズミだとか、あるいは他の動物で基礎研究はできますので、そこまでいっておく必要は当然あるわけです。

もうひとつは、「老化の計測」が一番難しい。つまり、何をもって「若返った」と証明するか。それを「エンドポイント」といいますが、そのポイントを探す作業をしないといけない。なので、みんなで一緒に「老化の計測」ということにエネルギーを注いでいるわけですね。

──どこからどこまで戻すのか。それは人によって違いますから。

山田:統計的有意差が出ないと、実験としては認められない、承認されないということなんです。

──すごい研究ですね、先生。

山田:それを僕がやるわけではないけれど、世界中の研究者たちがやって、みなさんで意見を合わせて、それを世界的に承認していくという作業が必要じゃないかと思いますね。

◆まとめ
・リプログラミングによって、ある年齢まで3つの遺伝子を働かせて止めると、老化が巻き戻ることが可能に!

エイジングケアは「受精の瞬間」から考えるべき?

──いままでのお話から、私たちはどれくらいからエイジングケアをすればいいと判断したらいいでしょうか。

山田:30歳くらいまでが健康のピークだと言われていますので、そのくらいから老化に対応していくというのもひとつの考え方です。ですが、「エピジェネティクス」という、免疫とかそういうことを全部含めている環境の大きな考え方があります。そういう立場でいうと、実際は「受精の瞬間」ぐらいから老化について考えていく必要がある。だから、「どういう受精環境でこどもができるか」ということを含めて考えないと、老化をコントロールするのは難しいのではないかという考え方です。

──だいぶ無意識の世界のお話ですね。自分たちがこども、子孫を残すときからケアしておいてあげなければいけないということでしょうか。

山田:そうなんです。

──これはすごいお話ですね。具体的には、どういうことをケアしたらいいのでしょうか。

山田:この話のスタートは、第二次世界大戦のときになります。ドイツがオランダの村を封鎖したのですが、そのときに一万何千人もの方々が、不適切な栄養だとかの環境下に置かれました。この方々の調査が、ずっとされています。その村は、周囲の人たちと民族的にはほぼ同じだとされている。なので、周囲の村との差が出てきました。

色んな疾患、心血管イベント、精神的な病気などが、そこのグループ(村)で多発したことがわかってきました。一代目は、単に妊娠中に(不適切な栄養などの)酷いことが起こったという理由があった。それでは、その次の世代はどうか。二代目を見ると、やっぱり疾患が発生するなどの頻度が少し高かった。これはなぜか? と。一代目は環境が悪かったけれど、二代目は解放されているから、関係ないんじゃないの? と。ところが、さらに三代目が出はじめて、その世代でもやっぱり周囲と差が出るんです。周囲の村との遺伝的バックグラウンドは一緒なはずなんですよ。ところが、一回の妊娠なり、その時点での環境暴露の変化が、三世代にわたってキャリーしているという問題が出てきました。

その理由は全然わかっていない時期が長く、まだまだ解決しているわけではありません。しかし、いまの立場に当てはめると、エピジェネティクスになにかレギュレーションが起こっている可能性があると考えられます。考え方の違う研究者もいるかもしれませんが、我々の立場としては、遺伝的というのは「DNAに乗っている」と思っていた。けれど、そういう意味でいうと、「DNAの化学修飾」であるエピジェネティクスにも影響して、それが次の世代へ、次の世代へとキャリーしているのではないかと、みんなが心配しはじめています。

──細胞レベルでキャリーしているわけですよね。

山田:そうなんです。だから、細胞のなかのDNAの化学修飾が、次の世代に残るということです。だから(オランダの村のようなことが)起こったと考えるのが、いまは一番合理的なのではないかと。そうすると、いま僕たちがやっている「老化の計測」というときに使っている方法と同じことを起こしているわけですよね。

──そこになにかしらの作用をしてあげることで、若返るかもしれない。

山田:はい。それがリプログラミングそのものなんですよ。だから、まったく全部同じ世界なので、これは老化をコントロールする素晴らしい方法ではないかと、みんな思ってきたわけですよね。

──科学は深くて広い、まるで宇宙のようです。次回は、腸と脳と、そして皮膚が、老化に重大な影響を及ぼしていたという研究について、引き続きお話をうかがっていきたいと思います。

◆まとめ
・老化は受精の瞬間から考えていく必要がある
・環境暴露の変化がエピジェネティクスに影響を与え、何世代にもわたりキャリーされてしまう
・リプログラミングによって、老化をコントロールすることができるようになってきた

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