老いを“病気”ととらえ、適切な選択をすることで老化は新たなフェーズへ——。今、世界中で「長く健康に生きる」ための研究が行われています。
「健康長寿」を目指しながら、年齢を巻き戻す「エイジングケア3.0」という新しいフェーズを提案する「fracora(フラコラ)」は、運営するYouTube番組「生命科学アカデミー」で、最先端の生命科学の知識を紹介しています。
今回は「老化」の秘密に迫るため、近畿大学の客員教授で、日本抗加齢医学会理事長の山田秀和先生をお迎えし、アンチエイジングについてたっぷりと語っていただきました。

(左から)山田秀和先生とHIROCO学長
世界が「老化」を「病気」認定しはじめた
──WHO(世界保健機構)は、世界的に健康に関する基準を決めていく国連の専門機関です。そのWHOが、なんと「老化」を「病気」認定しはじめた。業界としてはセンセーショナルというか、時代を揺るがすような動きを見せています。そのあたり、詳しくうかがってもいいですか。
山田秀和先生(以下、山田):WHOにおいて承認される「ICD」、つまり「国際疾病分類」というのは、1900年に始まりました。ICDは、WHOにおいて約10年ごとに改訂がおこなわれるため、承認されるのに長く時間がかかります。1990年に改訂された「ICD-10」は、いまから30年くらい前にできました。それこそ、私たちが医者になった頃に、ガンの「TNM分類」ができました。いわゆる「ステージ4だと(病気が)進んでいますよ」などの基準です。
──ガンの進行具合をあらわす分類法ですね。
山田:いま、ガンの研究や治療がものすごく進んで、「治る」とは言えませんが、相当コントロールできるようになりました。今は「ICD-11」への改訂が進んでいます。日本の場合は、改訂が今年ぐらいから動いています。その動きは、2018年のWHOの決議からはじまりました。その決議の段階で、採択するのにさまざまな領域の人たちとのディスカッションがあります。そのなかで、ロシアのグループが「老化を病にすべき」ということを主張したのです。
──ロシアのグループからはじまったのですね。
山田:WHO側に、疾病の定義があります。承認の審査の際に6つ程度の項目を挙げて、「この6つについて、まずレポートを出してください」と言われます。ロシアのグループは頑張って、その6つについて対応できた。けれど、2018年のWHOの国際会議で承認を取らないと、2020年からスタートすることができないため、間に合いませんでした。
──時間がかかりますね。
山田:さらに、会議で承認を受けても、英語やフランス語など、それぞれの国や言葉に基準があり、それぞれの国にローカライズするのにも時間がかかるわけです。ローカルの言語にしたときの対応などがいろいろあり、時間がかかるため、そこで一旦承認は中止になったんです。ところが、少なくとも「老化関連」という接頭語となる「XT9T(老化関連)」というコードだけは認められました。
結果的に、「老化は疾患」としては正式なコード名に入らなかった。けれど、接頭語として一部では使えることになった。
たとえば、変な話なのですが、もし「COVID‑19(新型コロナウイルス感染症)」で亡くなられた場合の話です。私たちが死亡診断書を書くときに、COVID‑19が主たる原因で亡くなったのか、あるいは、その人が持たれている心血管イベント(心筋梗塞や脳梗塞などに代表される心血管系の病気)とか他のことで亡くなったのかを診断して書きます。
そして、死亡診断書のデータを処理する方が別にいらっしゃって、その診断書からいろんなことを抽出するんです。年齢だとか、その他のことを。そのときに、「老化関連疾患」をもって「COVID‑19」で亡くなったとすると、「XT9T」というコードがひとつ増えるわけです。
そのデータの結果がわかってくるのは、いまから3~5年後。国際的な統計データを見たときに、そのなかに「XT9T」が増えてくる。そうすると、「ああ、COVID‑19では、XT9Tが入ったコードが増えてきたんだ」とわかるわけですよね。あるいは、心血管イベントとか、その他のことで亡くなられていても、「XT9T」をつけてくれれば、データ上には「老化関連疾患」が増えます。
基本的な話ですが、それをG7やG20に持っていくと、国際的に健康寿命を延長したり、それぞれの国民たちの健康をどうするか考えたりするときに反映されていく。そう考えると、最低5~10年くらいかからないと、「老化関連」という概念が正式の統計のなかに出てこない。こういった問題があります。
◆まとめ
・2018年にWHOの決議を受けた「ICD-11」で、XT9T(老化関連)というコードが認められた
■動画で見る方はこちら