アラフィフ作家の迷走生活 第54回

性への可能性を狭めているのは、自分かもしれない

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小説家の森美樹さんが自分自身の経験を交えながら、性を追及し、迷走する日々を綴るこの連載。以前、AV監督が綴った本の読書会に参加した森さんですが、その読書会の第2回が開催されたのだそう。そこで女性自身の快感を得る呼吸法を習った森さんは、どんなことを感じたのでしょうか?

*本記事は『cakes』の連載「アラフィフ作家の迷走性(生)活」にて2020年1月11日に公開されたものに一部小見出しなどを改稿し掲載しています。

いったいいつになったら、性の話が気軽にできるようになるのだろう。未だに「自分の女性器は見るものではないし、さわるものでもない」と母親から注意される子供がいるらしい。私自身は母親から、「ここも大事な部分だから、きれいにしておくのよ」とお風呂で教育された。まあ、妥当な線だと思う。少なくとも「汚らわしい場所」という刷り込みはされなかったのは幸運だった。

欲望は押し込められてもいずれ爆発する

今やインターネットであらゆる事柄が検索できる。セックスや女性器について、いくらでも知れる世の中だ。そうは言っても親からの植えつけは相当なもので、頭の根底には残ってしまう。私も父親のしつけはかなり厳しかったし、当然性に関しては輪をかけてナーバスになっていた。

しかし本能的な欲望を押し込めるなんて土台無理な話、いずれ爆発する。これは勿論、私に限ってではない。だが前述したように、親からの植えつけは頭の根底に残ってしまう。このギャップに、私達は苦しめられるのだ。

そういったトラップや、肉体面のみならず欲望に対する心理面に興味があって手に取った本のひとつが、「つながる」だ。大御所のAV監督、代々木忠氏が書いた名著である。昨年の秋に、「つながる」の読書会が2度ほど開催された。第1回目についてはこちら(AV監督の言葉に衝撃を受けて参加した読書会のこと)を参考にしていただきたい。

主催者は前回に引き続きヨガ講師の田原佐和子さんで、ゲストは有名AV監督の市原克也氏と、これまた有名AV男優の森林原人氏だ。参加者も増えていて約50名ほどいたのではないか。男性の参加者もそれに比例して多く、会場も広くなったのに酸素が薄くなるほどぎゅうぎゅうの密着度であった。

代々木忠流の「あげまん呼吸法」

前回は朗読及び座学がメインだったのに対して、昨年の秋に行われた第2回は、心理面から肉体へのアプローチがテーマだった。本書でも取り上げられている「あげまん呼吸法」の実践と、それ以後の肉体や心理面の変化(あるいは、それ以前の自分を理解する)である。「あげまん呼吸法って何?」「それって女性限定なんじゃないの?」「あげまん呼吸法をマスターした女性と付き合えば出世できるのか?」という疑問がぶつけられそうだが、世間一般がイメージする「あげまん」とは少し違う。

代々木忠流の「あげまん呼吸法」は、呼吸によって女性自身の快感を得ることを目的としているのだ。女性器を持たない男性も体感できるし、手や道具を使うわけではないので自慰行為ともまた違う。呼吸を通して本来の自分を思い起こす=本来の自分として生きることができる、というのが私の一番の感想だ。

「あげまん」というと、存在そのものが幸運な女性というか幸運をばらまく花咲か女みたいなイメージがあるけれど、もともと女性に限らず人は本来の自分を生きていればハッピーなわけで、女も男も関係はない。ただ、女性の身体には男性が入りこめる穴があるので、そこからラッキーやハッピーを出し入れできる、というのがルーツかなと私は思ったりする(諸説ありますが、ここではあえてふれません)。

まあ、物事はそう単純にはいかず、黄金の穴があろうとも黄金のスコップというか吸引する棒がなければ無意味だ。「あげちん」という言葉は「あげまん」に比べてマイナーだが、男性も棒を磨いて本来の自分を取り戻すのは大切である。男女和合でハッピーゴーラッキー、そのためにも男性に女性の感じ方を会得してほしい。ていうか、会得できるのが「あげまん呼吸法」なのだ。具体的には本書を熟読していただきたい。ここでは、私の感想を綴っていく。

最初は舐めてかかっていたけれど

流れとしては、①脱力し、手足をゆるめて横になる、②鼻から吸って口から吐く、深い呼吸を繰り返す、③口から吐いて口から吸う、短い呼吸を繰り返す、④深い腹式呼吸をする、⑤息を吸うのはそのままで、吐く時は女性器から出す想像をする(男性も然り)。

本書から抜粋しているのではなく私の記憶を頼りに書いているので、詳細を知りたい方はぜひとも「つながる」を手にしてほしい(記憶を頼りに、というと心許ないが、なるべく私の熱をこめて書きたいので、そうさせていただいた)。

①と②はなんら問題ない。問題は③だ。口から吐いて口から吸う、短い呼吸と記したが、吐く時は腹の底から「ハッ、ハッ」と思いきり、力の限り吐き出すので、相当消耗してしまう。これはトラウマを取り除くというか、燃やし尽くすためである。ほんの数分で終わるだろうと高を括っていたら、主宰者の田原佐和子さんの誘導ったらもう、容赦がない。「吐いて! 吐いて! ハッ、ハッ!」と般若のような形相で(寝転んで目を閉じているので表情はわかりませんが)、繰り返す。

正直私も最初は、「こんなのでトラウマが解消されるなら安いもんだな」と舐めてかかっていたのですが、だんだん瀕死の呼吸になってきて、次第に「吐いて! もっと!」と棍棒を振りかざして(振りかざしていません)いたぶる(いたぶっていません)田原佐和子さんに怒りが生まれ、傍らでせせら笑って(せせら笑っていません)高みの見物をしている(していません)市原克也氏と森林原人氏すら恨めしくなった。いや、本当に腹の底から怒りや憎しみがふつふつとわき、吐き出す息とともに出ていったのだ。今思えば、これが形容しがたいトラウマのようなものなのだが、やがて怒りや憎しみが消えると、無の境地になった。自分の輪郭がなくなったような、魂だけになったような、そんな感覚である。あとから聞いたのだが、②は約20分間行ったという。

「何? 何?? 何が起こっているの?」

ここで話が横道にそれるが、「つながる」では人間を3タイプに分けている。「思考ベース」「感情ベース」「本能ベース」だ。「思考ベース」は知識に翻弄される、いわば頭でっかちタイプ。「感情ベース」は自身の勘を大切にするタイプ。「本能ベース」は体験がすべてというタイプ。「つながる」いわく「どれがよくて、どれが悪いなどということはない。3つをバランスよく持ち、セックスをする時は感情でつながって、思考を明け渡し、本能を愛に昇華できるような状態になれば、イクことができる」(「つながる」より抜粋)。

このことを踏まえた上で、⑤だ。女性器から息を吐く。女性は実際に女性器=穴を持っているので、イメージしやすいだろう。この時点で、私を含め参加者全員のトラウマがいったん消滅し(トラウマ自体が根深いので、1回では無理だと推測するが、とりあえず現時点では消滅)、まっさらな自分になっている。ゆえに、⑤を数回やっただけで、悶えている人があちこちにいた。

実際に、誰かと誰かがやってるんじゃないの?と本気で疑うくらいの喘ぎ声が聞こえてくる。ところが私ときたら、周囲の声に圧倒されてしまい、イクどころではなかった。「何? 何?? 何が起こっているの?」と困惑し、焦り、身体だけが妙に熱くて苦しい、みたいな状態だったのだ。

それでも、参加者の熱気を肌で感じ、頭は昇天しなかったけれど、身体は異様に昂揚していたと思う。その証拠に、呼吸の途中で市原克也氏か森林原人氏のどちらかにお腹をさわられたのだが、全身がとろけるほど気持ちがよかったのだ。ただお腹に数秒手をのせられただけである。それだけで、自分がとけた。液体になった気分になったのだ。自分そのものが愛液になっちゃった、みたいな。自分の中にあった愛がとめどなく広がったような感覚。この呼吸法を実践すると、男性は女性の快感を得られるという。

読書会が終了してから、感想をシェアしあった。冒頭で私は「性=汚らわしい」としている教育が未だにある、と記した。あるいは、「自分は汚らわしい場所から生まれたのかも」と思っている人もいるかもしれない。性というのは、取り扱い注意な代物でもある。でも、こういった、本来の自分に戻るような体験をすれば、考え方は変わるのではないか。

2020年、第3回「つながる」読書会が開催されるという。もっともっと参加者が増えることを、願ってやまない。

*本記事では森美樹さんの体験を紹介しています。もし「あげまん呼吸法」に興味を持ち、試す中で、動悸、めまい、手足のしびれなど、過呼吸の兆候を少しでも感じたらすぐに中止してください。

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