アラフィフ作家の迷走生活・リターンズ 第4回

整形で人生が変わった女性のさらにその後

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「アラフィフ作家の迷走生活」
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小説家の森美樹さんが自分自身の経験を交えながら、性を追及し、迷走する日々をつづってきた連載「アラフィフ作家の迷走生活」。リターンズでは過去の連載を振り返りながら、2022年の森さんが感じることを新作としてお届けします。

*本記事で振り返っている回はページ下部の「この記事を読んだ人におすすめ」から読めます。

のび続ける人生の折り返し地点

11月、私は52歳になった。人生80年と言われたのは一昔前の話で、今や人生は100年、ともすれば120年と言われている。40歳になった時に「人生もいよいよ折り返し地点」と思ったのだが、52歳になってもまた同じことを思った。この調子だともしかしたら延々と折り返し地点が続くのでは? と不安になりつつこの連載を振り返ってみる。結果、歳を重ねても悩みの事例は変わらないことに愕然とした。

第30回~第39回まで、孤独や孤独にまつわる葛藤がテーマになっている。筆頭はそのままズバリの第32回「生きていればさみしい」だろう。

今から30年以上前に発売された書籍『淋しい女(ひと)は太る』について言及しているが、30年以上経過した今でも、このタイトルは残酷なほど刺さる。感情と容姿を直結させるなんて横暴だ、と抗議もしたいのだが、口には出せない。この回では私のちょっとした拒食症体験も綴っているが、後日談として私は不思議な体験をした。

幼少期から30代半ばまで、私は両親との折り合いが悪かった。両親は愛情を持って私を育ててくれたと今ならわかるし、適切な距離を保ちながら良好な関係を築く知恵も心づもりも修得したが、若い時はそれができなかった。

十代から家を出たくてしかたがなかった私は二十代で家を出て、三十半ばで諸事情により出戻りした。それは私の落ち度で両親は何も悪くはなく、寝食を提供してくれたのだから文句を言う筋合いはない(ちなみに生活費として5万円渡していた。私の最低限のプライドだったのだろう)。

通常、ひとり暮らしから実家生活になると太ると言われている。食生活が充実するからで、私もひとりの時よりもたくさん食べさせられていたし、3食きっちり食べないと叱られるし、栄養バランスも良すぎるくらいだったので、太ると覚悟した。が、結果は逆だった。私はみるみる痩せていったのだ。

痩せていく姿を両親に見せつけたかったのかもしれない

実家生活1ヶ月で5キロくらい一気にやせた。体重は40キロを切るか切らないかまで激減し、健康グッズ売り場で体組織を計測してみれば体脂肪率が12%という結果。店員さんがセールスも忘れて心配する始末だった。皆さんは急激にやせると身体にどんな変化がおとずれるかご存知だろうか。生理が止まるのはもちろん、ものすごく寒がりになって(体脂肪がないからね)、体毛が濃くなるのだ。保温効果をねらうのか、もさもさと体毛が伸びて濃くなったのだ。

繰り返すが、私は実家で栄養バランスの良い食事をたらふく食べていた。隠れて吐いたとか下剤を使ったとかは一度もなかった。出されたものは何でも大量に食べた。残すなんて大人として恥ずかしいとすら思っていた(これも私のプライドだったのかもしれない)。

ではなぜ激やせしたのか。私なりに考えて出したこたえが、「精神的に極限までつらい思いをしている私を両親に見せつけたい」だった。痩せてみすぼらしくなっていく私を体現すれば、両親はここから出してくれるのではないか、と脳が判断して身体をコントロールしたのではないか。ありえない気もするのだが、そうとしか思えなかった。これもまた、感情と容姿が直結した例ではないだろうか。

人間、生きていればさみしいし、不条理なこともある。どうにもならない時も、小さな幸せを見つけて、その小ささを自分の中で拡大させたい。心と身体はつながっているから、両方を同じだけ大切にしたいのだ。

より劣っている者に安心してしまうのは…

第36回、第38回のテーマは整形だ。整形については何年も前からテレビでビフォーアフターの公開番組があって、ダイエットと二分するほど興味の尽きない話題だ。時代が変わっても、美への執着や羨望は色褪せない。

随分前の話になるが、某派遣会社の個人データが流出した事件があり、女性登録者の容姿がジャッジされていたことが判明した。容姿が良い順にA~EだかFランクに分類されているというのだ。さて、問題はここからである。男性幹部がむさぼりチェックしたのはAランクではなくEだかFランクなのだ。最高級の美よりも真逆な容姿に好奇心がくすぐられたというのだ。これはどういうことなのか。私が勝手に出したこたえが、「自分よりも劣る(と思いたい)容姿を見て、安心材料にしたいのかもしれない」だった。

いや、こたえはもっと煩雑だろう。でも、私が出したこたえも一理あると思う。未だに東大卒の女性はモテないとか、美人過ぎるとモテないとかいう噂がまかりとおるのは、安心できないからなのかなと、一個人として思うのである。ちょうど同時期だっただろうか、雑誌の恋愛特集ですこぶる美しいモデルさんが手酷い失恋体験を語っていた。その時も妙に感心したのだ。「美しい人もフラれてしまうんだ」と。

人は本当にさみしくて悲しい生き物だと思う。好きな人ができて、脈があまりないと見なせば、「好かれないのは私が太っているから」とか「もっと可愛い顔にならないと釣り合わない」と判断してしまう。

言わずもがな、私もそうだ。52歳になったいまだってそうだ。オープンテラスで道路側の席に案内されなかったら、「あ、イケていない私は店のイメージに反しているから、オープンエリアにはいてほしくないのね」と思ってしまう(卑屈)。もしかしたら店員さんの、「冷えるといけないから」という気遣いかもしれないのに。

F美のその後

顔や身体で自分を評価してしまうのは、わかりやすいからだろう。「内面で勝負!」って頭ではわかっていても難しい。内面は見えないのだから。「あの人は心がきれい」って言ったって、実際に心なんか見えない。自信をつけるために整形するのはありだよ、と今でも思う。

ただ、整形と美と、若さはイコールではないのだ。時間は進んでいく一方なので、どうあがいても歳をとってしまう。医療や美容の力に折り合いをつけ、自分でけじめをつけた時に、本当の内面や心の美しさが浮き彫りになるのかもしれない。

だから、第38回整形で人生が変わったという女性に会ってきました|ウートピ (wotopi.jp)に登場したF美がその後どうしているか気になった。

F美とはあれから疎遠になってしまったが、数年ぶりにLINEをしてみた。即座に返信がきたのだが、いきなり整形や離婚や再婚の話はできず、のらりくらり言葉を濁していたらF美が、「正式に離婚して、今は再婚している」と言ってきた。F美を女王様としてスカウトし、F美のスポンサーになっていた年上のお金持ち男性と、F美は晴れて再婚したのだ、と私は素直に納得した。

ところが、『違うのよ。元の夫とまた再婚したの』と言うではないか。

私の混乱ぶりが伝ったのか、

『年上の彼とも結婚したんだけど離婚して、元の夫と再婚したの』
と説明してくれた。つまり、F美の夫(元夫であり現夫である)はF美の整形にも肉体改造にも気づいていて、ただ動向を見守っていたのだそうだ。F美が迷走しているのも承知の上で、F美の行きつくところを見届けた。

『彼、あ、夫のことね。彼、私のことが好きだったみたい。あ、今もだけど』

私がF美とホテルで食事した時、F美は「愛と美だったら、美のほうが大事」と断言していた。しかしF美は、F美の知らないところで愛に包まれていたのだ。

『おめでとう』

私は心の底から祝福した。

『美樹さん。私、夫と再婚してから、普通に暮らしてる。整形とか、たぶんもうしないと思う』

やりたいことをすべてやり切った彼女だから、自分の必要な物の優先順位に整理がついたのだろうか。

F美はきっと、他者のジャッジに揺るがない、”F美だけの幸せ”を手に入れたに違いない。

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