「生命科学アカデミー」吉森保先生に聞く

老化をあきらめない時代へ! オートファジー7つの質問 『LIFE SCIENCE』著者に聞く

老化をあきらめない時代へ! オートファジー7つの質問 『LIFE SCIENCE』著者に聞く

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平均寿命が今後も延びていくと予想されるいま、「健康で長生きしたい」という思いは切実なものになりつつあります。

科学の力も日々進歩。最近では「老化は抑えられる」と新たな考え方も増え、研究が活発に行われています。

なかでも、2016年にノーベル生理学・医学賞を受賞した、細胞のリサイクル機能「オートファジー」には研究者だけでなく、さまざまな企業も注目。近年、私たちの生活でも耳にするようになりました。

「いくつになっても、老いを諦めずに人生を楽しみたい」そんな願いを叶えるために知っておきたい基礎教養としての「生命科学」。「fracora(フラコラ)」では、運営するYoutubeチャンネル「生命科学アカデミー」にて楽しく学べる情報を発信しています。

11月26日には、大阪大学大学院生命機能研究科教授/医学系研究科教授の吉森保(よしもり・たもつ)先生をお招きし、私たちの健康のカギを握るオートファジーについてお話を聞きました。イベントの内容をQ&A形式でまとめます。

Q1. オートファジーって何ですか?

A. 簡単に言えば、細胞の中の恒常性を保つ(いつも同じ状態に保つ)役割をするものです。細胞の一部を壊して回収し、分解して、新しいものに入れ替えることで恒常性を維持します。生物が健康な状態を維持するために必要な仕組みなんですよ。

車を例に挙げてお話ししましょう。新車を買って、10年間乗り続けるとどこかしらメンテナンスが必要になります。しかし、今日はハンドル、明日はタイヤ……というように、部品を毎日交換していたら、数十日後には新車と同じ状態になりますよね。これを生物の体内で行っているのがオートファジーです。

車の場合は新しい部品を買ってこなければいけませんが、細胞は壊したものでまた部品を作り直すことができます。例えば、タンパク質を分解するとアミノ酸になりますが、そのアミノ酸を使って、またタンパク質を作るんです。

オートファジーとは、「細胞の中の物を回収して、分解してリサイクルする現象」だと覚えていただけるといいでしょう。

Q2. 細胞をリサイクルするのはなぜ?

A. オートファジーには大きく3つの役割があります。

①飢餓状態になったときに、細胞の中身をオートファジーで分解して栄養源にする
②細胞の新陳代謝を行う
③細胞内の有害物を除去する
『LIFE SCIENCE』(日経BP)より引用

近年、オートファジーの研究が進み、リサイクルシステムを止めたらどうなるか、実験できるようになりました。システムを止められたマウスは、ガンや認知症、糖尿病など様々な病気を発病。オートファジーが働くのは、これらを防ぐためだとわかったんです。

最近では、オートファジーが、老化や寿命にも関係していることがわかってきています。皮膚老化にも影響し、特に、シミやシワとは関係が深いと考えられていますね。

Q3. オートファジーはどんな細胞を分解しますか?

A. オートファジーは通常、細胞の中のあちこちのものを無作為に壊して分解します。ところが、細胞内に病原菌やウイルスなど有害な物質が現れると、それだけを狙って壊すこともできるんです。そのひとつのケースが、神経変性疾患です。

アルツハイマー病やパーキンソン病など、認知症と呼ばれる脳の病気は、細胞の中にタンパク質のかたまりができることで発症します。脳の細胞が死んでしまうために、記憶が失われるんですね。オートファジーは、そのようなかたまりを包み込んで分解します。

Q4. オートファジーも老化しますか?

A. 残念ながら、オートファジーの力は加齢とともに下がります。その原因は、オートファジーのブレーキ役を果たす「ルビコン」というタンパク質が、加齢とともに増えるから。

若い人でも、高脂肪食の食事を続けていると、肝臓のルビコンが増えて脂肪肝になることがわかっています。脂肪肝は生活習慣病のひとつで、放っておくとガンになる場合もあります。

ルビコンが増えるとオートファジーが抑えられて、肝臓の細胞の中の脂肪滴(しぼうてき)という脂のかたまりが分解されなくなってしまいます。そのかたまりが増えると、肝臓が腫れ上がって脂肪肝になるんですね。

ルビコンがブレーキの役割を果たすなら、そのルビコンを取り除けば寿命が延びるのではないか? と思いますよね。

そういった研究もされていて、実際に寿命が1.2倍延び、それだけではなくパーキンソン病や腎臓の病気、加齢黄斑変性といったお年寄りに多いいわゆる加齢性疾患に、ルビコンを抑えることでかかりにくくなることがわかってきています。

つまり加齢によるオートファジーの低下を阻止すれば,健康で長生きが可能なのです。

Q5. オートファジーは一度減ると回復しませんか?

A. お年寄りの抗体をつくる細胞にスペルミジンをかけたところ、低下していた抗体を作る能力が回復したという実験結果もあります。つまり、年をとったからといって諦める必要はありません。オートファジーを上げられれば、加齢による様々な病気や免疫システムの低下を改善できる可能性が高いといえます。

Q6. オートファジーを高めればダイエットできますか?

A. オートファジーは細胞を分解するため、「オートファジーを増やせばダイエットになる」と考える人もいますが、オートファジー自体にダイエット効果はありません

また、「16時間断食しなければオートファジーが起こらない」といった説もありますが、いまのところ科学的な根拠はありません。

Q7. 日常生活の中でオートファジーを高める方法はありますか?

A. 昔から良いと言われている、適度な運動、カロリーを抑えた食事、十分な睡眠のいずれもオートファジーを活発にすることが動物実験で確認されています。

運動することで、筋肉のオートファジーを活性化することが知られています。また、スペルミジンやレスベラトール、オルニチンなど、オートファジーを活性化する食品成分もたくさん見つかっています。

スペルミジンが最も多く含まれている食品は納豆です。ほかにも、チーズや味噌など発酵食品にはスペルミジンが豊富に含まれていますね。レスベラトールで有名な食品は赤ワインですが、飲みすぎには注意したいもの。オルニチンは、シジミやザクロなどに含まれています。

関連記事:オートファジーを上げる食品は?

反対に、高脂肪食はオートファジーを抑えてルビコンを増やしてしまうため注意。食べ方にも気をつけたいですね。食事をすると、血中のアミノ酸濃度が一過的に上がり、それがオートファジーを抑制してしまいます。ダラダラながら食べをしないようにしましょう。

睡眠についても、最近の研究によっておもしろいことがわかってきました。生物には、サーカディアンリズムと呼ばれる体内時計があります。人間の場合は24時間で、寝ているあいだにオートファジーが上がるため、夜の睡眠は非常に重要。サーカディアンリズムに従ったオートファジーの増減を人工的に邪魔すると、寿命が縮んでしまいます。

日本人の寿命は世界でもトップレベルですが、平均寿命に対して健康でいられる寿命(ヘルススパン)はそれより10年も短いのです。オートファジーを高めることで、人生最後の10年を元気で過ごせる人が増えたらいい。そう思いながら、研究を続けています。

■動画で見る

https://youtu.be/9Q3Z3U9S04A

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