「fracora(フラコラ)」が主催するオンラインイベント「フラコラカルチャー」。健康・美容・食事・睡眠など様々なテーマでスペシャル講師をお迎えし、日々の生活に役立つ知識をお届けしています。今回のテーマは「足と病気の関係」。
私たちが当たり前のように行っている「歩く」という動作。近年、この「歩く」ことと健康寿命の関係に注目が集まっています。そこで、足と歩行の専門家、下北沢病院の久道勝也先生をゲストに迎え、足の最先端医療についてうかがいました。
健康寿命を延ばすためにも、足の「8020運動」を推奨されている久道先生。イベントリポート第3回では、8020運動の詳細や、足の筋肉を鍛えるエクササイズについて紹介します。聞き手は、シドニーオリンピック競歩代表の柳澤哲さんです。
※本記事は9月9日(金)に「フラコラカルチャー」で配信されたイベントを、ウートピ編集部で再編集したものです。
80歳で20分間キビキビ歩く「足の8020運動」
柳澤:久道先生は、足の8020運動を推進されているそうですね。どのような運動なのでしょうか?
久道:第1回でもお話しした通り、歩行速度と健康寿命には大きな結びつきがあります。ですので、80歳で20分間キビキビ歩ける状態を目指すことを目標にしていただきたいのです。
足の8020運動では、歩行速度を具体的に示していません。それは、私たちなりの工夫です。例えば「1日30〜40分ウォーキングしよう」と目標をクリアに出してしまうと、無理をしてケガにつながってしまう恐れがあります。同じ60歳でも、フルマラソンを完走できる60歳と、足の機能が弱っている60歳では状況が違う。それぞれの体力に合った速度で構わないので、80歳で20分間キビキビ歩くことができる状態を目標とし、現在のご自身の足と向き合っていただきたいと思っています。
柳澤:歩くときに大切なポイントがいくつかあると思いますが、そのひとつがアキレス腱ですよね。
久道:おっしゃる通りですね。アキレス腱の柔軟性は、足の健康寿命を保つためにものすごく大切なポイントのひとつです。
アキレス腱がやわらかい人は、かかとから前足部に体重が移動します。ところが、アキレス腱が硬いと、蹴り出すたびに足のアーチがグニャッと潰れてしまうんです。そのため、前足部の骨や腱に過剰に負荷がかかり、足の変形につながったり、歩行がスムーズにできなかったりします。
また、アキレス腱の上には、ふくらはぎがついています。ふくらはぎは「第2の心臓」ともいわれていて、足のほうに下がった血液を心臓に戻す役割を果たします。
アキレス腱が硬いと、ふくらはぎの筋肉が十分に伸びなくなるため、足の血流が戻ってきにくくなる。その結果、うっ滞やむくみにつながってしまうんです。悪化すると、下肢静脈瘤の症状が出る場合もありますね。
ヒールを脱いだら…アキレス腱をほぐす簡単ストレッチ
柳澤:アキレス腱が硬くなってしまう姿勢や動作はありますか?
久道:女性のパンプスやヒールですね。爪先立ちになり、アキレス腱が縮んだ状態で歩いていると、アキレス腱が硬くなります。
柳澤:女性の場合、どうしてもパンプスやハイヒールを履かなければいけない場面があると思います。そういった靴を長時間履いた後にしたほうがいいストレッチやエクササイズはありますか?
久道:簡単なストレッチがあるのでお教えしますね。
■アキレス腱体操
1 壁に向かって立つ
2 壁に両手をつく
3 アキレス腱を伸ばしたい方の足を一歩引く
4 伸ばしたい方と反対の膝を曲げて徐々に体を傾ける
5 イタ気持ちいいくらいのところで20〜30秒キープ
6 反対側の足も同様に行う
注意したいのは、前の足も後ろの足も、壁に垂直になるようにまっすぐ前を向けること。あまり圧をかけすぎず、イタ気持ちいいくらいのところでキープしてください。1日2〜3回を、1〜2ヵ月続けていると、アキレス腱がかなりやわらかくなりますよ。スムーズに歩行するためには、すねが10度は前に倒れてほしいですね。
1日3セット!ふくらはぎと大腰筋にアプローチするエクササイズ
柳澤:足の健康寿命を保つには、ふくらはぎの腓腹筋も鍛えていきたいですね。柳澤おすすめのエクササイズを紹介したいと思います。
■柳澤流!地味に効く!ふくらはぎエクササイズ
1 椅子に手をかけ腕を伸ばす
2 しっかりと両脚を後ろにそろえる
☆爪先の向きは必ずまっすぐに!
3 かかとを持ち上げる&下ろすを10回繰り返す
10回やっただけでも、ふくらはぎに少し疲れを感じると思います。体力に余裕がある方は、1日3セットを目安に行ってください。
続いて、歩いたり走ったり立ったりするときに使われる、大腰筋という筋肉を鍛えるエクササイズを紹介します。大腰筋には、下腹をへこませるといった役割もありますので、下腹が気になる方もぜひトライしてみてくださいね。
■柳澤流!下腹もへこむ!大腰筋エクササイズ
1 椅子に座り腰に手をあてる
2 お尻を交互に持ち上げる
☆お腹の横側をキュッと縮めるようなイメージで!
3 10回繰り返す
最初はバランスをとるのが難しいかもしれませんが、コツをつかめば体幹も安定してくると思います。3セットを目安に、ぜひ頑張ってやってみてください。
弾性ストッキングで足のむくみがラクになる
柳澤:ここまで、ストレッチやエクササイズを紹介してきました。ほかにも、グッズを使ってアキレス腱やふくらはぎを鍛えていく方法があると思いますが、先生おすすめのグッズはありますか?
久道:医療用の弾性ストッキングですね。私の患者さんには、夜寝ている最中に足がこむら返りを起こしたり、足がつったり、1日の終わりに足がむくんで靴が入らないといった症状を訴える方が多くいらっしゃいます。特に、立ちっぱなしや座りっぱなしの職種に就いている女性が非常に多い。
こういった症状に悩んでいる方は、弾性ストッキングを履いて歩行したり、先ほどのエクササイズなどを行ったりすると、症状が大分楽になると思います。弾性ストッキングって、しっかり圧を出そうとするとそれなりにキツいんですよね。履くときもちょっとした工夫が要るんですが、履くと楽になるので実際に使っている方は多いし、僕もしばしば使います。
医療用の弾性ストッキングは、下のほうの圧が高く、上に向かって少しずつ圧が抜けていくように作られています。症状に合わせて様々な圧のものが販売されていますから、むくみやうっ滞が気になる方は、ぜひ履いてみてください。
柳澤:一般の方はどこで購入することができますか? 薬局などにも売っていますか?
久道:薬局に売っていますね。また、病院に来ていただければ、様々な検査を行った上で、その方に適切な圧のものを紹介することもできます。
柳澤:なるほど。スポーツショップで売っているようなコンプレッションタイツだと、圧が弱いでしょうか?
久道:中には、しっかりした圧のものもあります。購入前に、どのくらいの圧がかかるか確認することが大事です。むやみに、きつすぎるものを履かないように。
ただし、動脈の障害がある人が何も知らずに弾性ストッキングを履いてしまうと、そもそも血流が悪くなっている動脈をさらに締め付けてしまうことになります。動脈に問題がないこと事前に確認する意味でも、一度、病院にかかって足の状態を診てもらうことが大事だと思います。
柳澤:むくみやうっ滞など、足の心配事がある方は、少し手間でも近くの病院で相談してみるといいかもしれません。さて、今回は歩くことの大切さや足のケアの重要性を、改めて知ることができました。
久道:足というのは、意外とないがしろにされていて、実はかわいそうなパーツなんですよ。1日1万回も地面に叩き付けられて、靴という硬い衣装を身にまとい、ちょっと痛いくらいではなかなか病院で診てもらえない。しかし、ここまでお話しした通り、足は健康の要です。いままでより少し、自分の足を大事にしてみてください。
柳澤:皆さん、ぜひ自分の足を労ってあげてください。80歳でも20分間キビキビ歩けるように、頑張っていきましょう。
(完)
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