「足と病気の関係」vol.1

歩行速度と平均寿命の意外な関係。カギは「秒速1m」 足の専門医・久道勝也先生が解説

歩行速度と平均寿命の意外な関係。カギは「秒速1m」 足の専門医・久道勝也先生が解説

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「fracora(フラコラ)」が主催するオンラインイベント「フラコラカルチャー」。健康・美容・食事・睡眠など様々なテーマでスペシャル講師をお迎えし、日々の生活に役立つ知識をお届けしています。今回のテーマは「足と病気の関係」です。

私たちが当たり前のように行っている「歩く」という動作。近年、この「歩く」ことと健康寿命の関係に注目が集まっています。そこで、足と歩行の専門家、下北沢病院の久道勝也先生をゲストに迎え、足の最先端医療についてうかがいました。

今回のイベントリポートでは、足の健康や歩行速度と健康寿命がどのように関係しているか紹介します。聞き手はシドニーオリンピックの競歩代表の柳澤哲さんです。

※本記事は9月9日(金)に「フラコラカルチャー」で配信されたイベントを、ウートピ編集部で再編集したものです。

足の総合病院を日本で立ち上げた理由

柳澤:久道先生、今日はよろしくお願いします。先生は、日本唯一の足の総合病院として下北沢病院を開かれました。その理由について教えてください。

久道:超高齢化が進む国では、人が死に向かうとき、「3つの階段を下る」と考えます。1つ目の階段は歩行の維持ができなくなる。2つ目の階段は排泄が適切にできなくなる。3つ目の階段は食べられなくなる。

歩けなくなることが最初の階段であるにもかかわらず、日本には足の専門医がいませんでした。また、「人生100年時代」といわれる一方で、平均寿命と健康寿命の不一致も問題視されています。超高齢化の先頭を走る日本には、足と歩行の専門医が必要。それなら足と歩行に特化した総合病院を作ろうということで、下北沢病院を開いたわけです。

柳澤:なるほど。日本には、歩くことをサポートする病院がこれまでなかった。それが、健康寿命を延ばしきれなかった要因のひとつだったということですね。

日本には足と歩行の専門医がいなかった

久道:そうですね。G7*で、足病医や足病科といった診療科がないのは、実は日本だけなんですよ。日本では、長寿社会は既に実現しています。しかし、その質を高める=健康寿命を延ばすには、やはり足と歩行にもっと注意を払っていくべきだろうと思いますね。

柳澤:素朴な疑問ですが、なぜいままで足病医や足病科が作られなかったんでしょうか?

久道:色々なところで聞かれますが、そのはっきりとした理由はわかっていません。ただ、足や歩行に関して日本人はあまり関心がなかったのかな、と思わせるところがあるんですね。

例えばヨーロッパでは、靴を作る職人は「マイスター」と呼ばれて、すごく尊敬されていますよね。ところが日本の場合は、江戸時代に日本人がどんな歩行をしていたかのみならず、履物に関しての詳しい記録もほぼ残っていない。かろうじて残っているのが、幕末や明治の頃に来日したいわゆるお抱え外国人の記録です。

彼らは、自分たちの歩行と比べて日本人の歩行はどうか、日本人の履いている履物はどうかといった記録を残しています。その記録によって、かつて日本人がどう歩いていたか、どんなものを履いていたかといった客観的な情報を得ることができました。長くなりましたが、要するに、足や歩行に関しては、日本では関心が高くなかったのかもしれないという話ですね。

*カナダ、フランス、ドイツ、イタリア、日本、英国、米国で構成される政治フォーラム

キビキビ歩く人の平均寿命は約95歳!

柳澤:足の健康は内臓にもつながっていると聞いたことがあります。

久道:足の健康と寿命が直接的に関連していることを示すデータがいくつかあります。その最たるものは、約3万5000人を追跡調査した海外のデータですね。

この調査のカギは「秒速1m」という歩行速度です。横断歩道の青信号の時間は、歩行者が秒速1mで歩ける前提で設定されているんですよ。つまり、秒速1mを切ると社会参加が難しくなる。普通に歩いていて青信号を渡りきれない場合、歩行速度が大分落ちているということです。

さて、調査によると、秒速1.6mで歩行する人の平均寿命は約95歳でした。

柳澤:長生きですね。

久道:そうですね。ちなみに、秒速0.8mで歩行する人の平均寿命は約80歳、秒速0.2mの人の平均寿命は約74歳。この結果から見ても、歩行速度と平均寿命には大きな関係があるとわかります。

健康寿命に関しても同じように、約1万5000人の女性を対象にした海外の調査データがあります。

この調査は、歩行速度と70歳になったときの健康状態の関連を調べたもの。高血圧やガン、糖尿病などの慢性疾患に、運動機能、認知症、心血管障害といった要素を加え、それらの病気にかかる少なさを「健康寿命達成率」として表しました。

この調査では、歩行速度が時速3.2km未満の人の健康寿命達成率を「1」としています。調査によると、歩行速度が時速3.8km以上4.8km未満の人は、健康寿命達成率が1.9倍、時速4.8km以上の人は2.7倍という結果に。

時速4.8kmとは何か? よく不動産会社の物件情報に「駅まで何分」と書いてありますが、あの速さが時速4.8kmです。

柳澤:不動産会社のチラシの表記通りに目的の物件にたどり着けるかどうかが、自分の歩行速度を測る目安のひとつになるんですね。

久道:最近は、いろいろな歩行アプリがあるじゃないですか。ああいったアプリの歩行速度は、おおむね時速5kmに設定されています。

柳澤:そういった身近なものを活用すれば、自分の歩く速度がどのくらいか把握できそうですね。

久道:はい。先ほど、足の健康と内臓について質問を受けましたが、臓器が健康に保たれていることを最も単純に表すのは、健康寿命の長さです。さらに、いま挙げた調査データで、足と健康寿命の関係は理解してもらえたと思います。演繹(えんえき)にはなりますが、足の健康は内臓にもつながっているといえますね。

第2回に続く)

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